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魔法少女は死んだ  作者: 茶竹抹茶竹
3章・enjoying death,just like this
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【5-5】

5-5


 月夜風花‐つや ふうか‐は視線すら刃に向けなかった。

 四つの刃が勢い良く月夜風花の身に突き刺さる。それと同時に刃が先端から砕け散った。細かな破片に変わっていくと同時に、それは何処かに消えていく。まるで刃など何処にも無かったかのように、刃は砕けた細かな破片すら残さなかった。直撃した刃による傷一つなく月夜風花は冷静に言う。


「刃はハッタリだ」

「な!?」


 浮瀬南陸斗‐うきせな りくと‐がその光景に動揺を見せた。刃が触れた途端に砕け散っていく中で月夜風花が剣の引き金を引いた。剣を構えたその姿が一瞬消えて、浮瀬南陸斗の目の前に突如、月夜風花の姿が出現する。身代わりだと見抜いて浮瀬南陸斗は咄嗟に大鎚でぶん殴る。


「何度同じ手を使おうと意味ねぇんだよっ!」


 大鎚で触れた瞬間に月夜風花の姿が砕けた。身代わりとして出現した月夜風花の姿が崩壊していく、その瞬間。宙に青白い電流が舞い散る。アークが弧を描いて、浮瀬南陸斗へと襲いかかった。激しい弾けた音と共に突如出現した電撃に貫かれてその動きは止まる。

 消えていた月夜風花の姿が出現した。浮瀬南陸斗の真後ろに回り込んでいたその姿が出現すると同時に剣を担ぐように構えると思い切り振り抜いた。鈍い空気を凪ぐ音に続けて刃の平面部で浮瀬南陸斗をぶん殴った。重たい鈍器と化した剣で殴られて浮瀬南陸斗は吹き飛ぶ。


「私にだって搦め手はある」


 ビルの屋上で倒れて動かなくなった浮瀬南陸斗を見て月夜風花は荒く息を何度も吐き出す。

 節制のカード。その効果は二枚のカードの効果を同時に発動させるというものだった。塔と死刑囚のカードが同時に発動した事で生じたのは帯電した身代わりの存在。浮瀬南陸斗は身代わりを直接打撃で破壊しようとする筈であり、それ故に身代わりから生じる電撃を回避できない。そして、その内に背後から回り込み剣でぶん殴る。上手くいった事で急に身体中の力が抜けて痛みが戻ってくる。


「あなたの魔法は映像の投影。だから、あの刃には実体なんて無い」


 だから、何度かあった好機をわざと見逃した。あの刃で突き刺そうとも意味が無いから。あくまで相手に本物の刃であると信じ込ませ行動を阻害する為のものでしかない。簡単な衝撃で壊れる身代わりを刃で破壊しなかったのもそれが理由だった。

 全てハッタリだった。


「なんで……分かった」


 浮瀬南陸斗がゆっくりと身を起こそうとする。月夜風花が魔法の性質を見抜いた事が信じられなかった。


「音がしなかった」

「音?」

「あの刃が直ぐ側を掠めた時、何の音もしなかった。あれだけ高速で質量のある物体が動けば空気との摩擦音が生じている筈なのに、無音だった」


 故に刃には質量が無いのでは、と月夜風花は推測した。質量のない自在に飛ぶ刃。ならそれは本物であろうか、とも。

 そう考えて浮瀬南陸斗の不意を突くためにも勝負に出た。身代わりが今まで見せた手の内と同じであると思わせ、咄嗟に攻撃させるためにはあくまで不意を打ちたかった。その為に刃を無視してみせた。


「最初の一手から、あなたはハッタリをかけてたんだ」


 浮瀬南陸斗は月夜風花の言葉に堪えきれず笑い出す。

 刃の飛んでくる音。それがしないことに気が付いて魔法の正体を見破った。人間の認識の大部分を占める視覚情報を疑い、聴覚情報で判断した。しかも異音の類ではない。有るという事実ではなく、無いという事実で気が付いた。

 あの戦闘の中で、余裕など無い状況で、音が無いという事に気がつけるほどの洞察力。それを瞬時に結論まで持って行く思考回路。それを活用する機転と判断力。そして何より、一切の迷いのない度胸。

 浮瀬南陸斗は身を起こす。大鎚の引き金を引いて、カードを引き抜く。コード・リヒャルト。月のカードであった。それを腰のホルスターに収納する。


「退いて。私と祐希奈ちゃんはあなたと争う理由なんて無い」


 起きあがった浮瀬南陸斗の姿に月夜風花は頬を噛む。あれだけのダメージを食らっても尚立ち上がれる事は正直想定外であった。身体にはかなりのダメージが蓄積されている、先程無理に動いたせいもあって全身が悲鳴を上げていた。どうしてもこれ以上の戦闘は避けたい。

 浮瀬南陸斗がホルスターからカードを一枚引き抜く。ゆっくりとそれを大鎚のカード挿入部に差し込んで、口の端を持ち上げる。浮瀬南陸斗が大鎚で地面を叩く。


「ようやっと、面白くなってきたぜ……、コード・ドーラ!」


 浮瀬南陸斗の周囲で白い半透明の膜が彼女を中心にドーム状に広がっていく。その表面には煌びやかな光が幾つも散って弾けていた。僅かに可視出来るだけであったが、浮瀬南陸斗の周囲に何かが形成された様だった。彼女を中心に約半径2メートル程の半透明のドーム状の何か。

 月夜風花は銃を引き抜くと咄嗟に引き金を引く。撃ち出された魔力の塊は浮瀬南陸斗に辿り着く前に何かにぶつかったようにそこで消滅した。その地点に空中に黄色の光がまるで痕が残っている。

 月夜風花は連続で引き金を引く。撃ち出された魔力の塊は同様に、浮瀬南陸斗にたどり着く前に弾けて消えた。不自然な位置で空中で弾けたその結果と不自然な痕を、浮瀬南陸斗の周囲に見える半透明な壁の様な物と結び付けて考えるのに、さほど時間は要さなかった。


「バリア?」

「コード・ドーラは皇帝のカード。意味は鉄壁!」


 浮瀬南陸斗が跳んだ。一気に月夜風花までの距離を詰めていく。接近してくるのを見て剣の切っ先を浮瀬南陸斗に向け引き金を引く。雷光が駆け抜けた。放った電撃は浮瀬南陸斗の手前で半透明な壁に阻まれて四散した。

 浮瀬南陸斗を中心に絶えず展開するバリアの様で、彼女が迫ってくると同時にその半透明な壁も移動する。咄嗟に剣を立てて楯の要領で構える。勢いを緩めずに迫ってくる半透明な壁が衝突するとその勢いに押し込まれる。

 踏ん張ってもそのまま勢いに負けて足下が滑る。


「これは」

「吹き飛べぇっ!」


 浮瀬南陸斗が大鎚を振り切ろうとする。しかし、浮瀬南陸斗は突然よろめいて片膝を突いた。

 思っていたより先程の月夜風花の一撃でダメージを貰っていたようだ、と浮瀬南陸斗は自分の認識を改める。膝を無理矢理立てようとするも身体が思うように動かなかった。

 動きの止まった浮瀬南陸斗を見て何とか月夜風花は距離を離す。祐希奈を抱えると同時に勢い良く飛ぶ。ふらつくも何とか姿勢を立て直す。

 遠くなっていくその姿を見て浮瀬南陸斗は背中から倒れ込んだ。


「とんだ、化け物が出てきやがったぜ」



【5枚目・世界改変の音が聞こえたら 完】


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