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魔法少女は死んだ  作者: 茶竹抹茶竹
3章・enjoying death,just like this
30/70

【5-3】

5-3


 浮瀬南陸斗‐うきせな りくと‐が口の端を持ち上げる。その余裕そうな表情に月夜風花‐つや ふうか‐は一つ深呼吸をした。あがった息を無理矢理止めて吐き出した深呼吸は余裕のない様に聞こえて。

 月夜風花が引き金を引いて剣に挿入していたカードを切り替える。カードの挿入部から死刑囚のカードが半分飛び出すとそれを指先で挟んで引き抜くと、節制のカードを挿入して引き金を引いた。しかし何も起こらず、カードの挿入部から節制のカードが半分飛び出す。


「不発? いや、これはもしかして」


 月夜風花は顔を上げる。浮瀬南陸斗に接近されている事に気が付いて距離を取る。もう一度引き金を引くと手にした死刑囚のカードを挿入した。浮瀬南陸斗が左手を振り抜いて、その動作に飛翔している刃が続いた。向かってくる刃に向けて月夜風花は剣の切っ先を向けて引き金を引く。


「コード・ルートヴィッヒ!」


 月夜風花の姿が消える。それと同時に月夜風花の姿が其処から離れた位置に出現する。死刑囚のカードの効果によって出現した月夜風花の身代わりとでも言うべき存在が浮瀬南陸斗と彼女が放った刃の正面に出現する。


「何度やろうとも、同じ手じゃきかねぇんだよ!」


 月夜風花の身代わりを前に刃が勢い良く進行方向を直角に変えて真上に向かう。浮瀬南陸斗がそれに続いて身代わりの前に陣取ると大鎚を振るった。その一撃に触れた瞬間に月夜風花の姿が崩壊した。大鎚の振るった衝撃が空を凪ぐだけで鈍い風の音に変わる。

 身代わりが消えたと同時に浮瀬南陸斗の下方に月夜風花の姿が出現する。

 真下を取った。浮瀬南陸斗の隙を確かに取った、と確信して月夜風花は剣を構えて真っ直ぐに飛翔して距離を詰めに行く。その姿に気が付いて浮瀬南陸斗が大鎚を持ち上げようとした。その時間すら与えず月夜風花は剣を振るえば届く距離まで詰め、剣を振り上げようとした。浮瀬南陸斗が大鎚の石突きを咄嗟に突き出して、月夜風花の肩に突き立てる。

 その力強さに月夜風花は姿勢を崩した。浮瀬南陸斗が飛行制御の魔力を切って一気に背中から落下すると月夜風花の目の前に高度を合わせ身体を捻り大鎚を振るった。鈍い空気を凪ぐ音と共に衝撃が月夜風花の全身を襲う。

 視界が暗転する。口の中が血の味で一杯になって、月夜風花はそれを吐き出した。水気のある音が聴覚の何処かを刺激して、真っ暗な視界の向こうに景色が見えた。勢い良く吹き飛ばされて宙を舞った身体は制御が効かず、月夜風花は遠退きそうな意識を無理矢理つなぎ止める。

 腹部に走った衝撃が指の先まで伝わって何処にも力が入らない。呼吸には血が混じり息が上手く吐き出せない。吹き飛ばされた身体の勢いを、殺すことも出来なかった。耳元で空気の暴れる音がする。

 白く滲んだ視界に浮瀬南陸斗の刃が見えた。

 今、刃を飛ばされたら避けられない。


「しまっーー」


 刃が月夜風花の側を通り過ぎた。身体の直ぐ側を刃が勢い良く駆け抜けていく。浮瀬南陸斗が勢い良く迫ってきて大鎚の一撃を月夜風花へと叩き込もうとする。咄嗟に剣を身体の前に立てて構える。勢い良く振り抜かれた大鎚が、剣に叩き込まれた。鈍い音が響く。

 衝撃に身体を持っていかれて宙に舞うように吹き飛んだ。ビルの屋上に叩きつけられて月夜風花の口から血と呻きが漏れる。


「っか……は」


 背中から落下して全身に痛みが突き刺さり身動きが取れない。手を延ばそうとしても感覚がない。首を動かそうとしても青空ばかりの視界は変わらない。

 空中で吹き飛ばされビルの屋上に叩きつけられた自分が未だ生きている。その事を月夜風花は纏っている魔防膜に感謝した。


「風花ちゃん!」


 祐希奈‐ゆきな‐の声がした。祐希奈が側に居て、その必死な表情が自分に向けられているのだと気が付いて月夜風花は何とか返事をしようとするも口の端から息が漏れる音がするだけだった。


「んだよ、もう終わりかぁ?」


 浮瀬南陸斗が降り立った足音とその声に月夜風花は何とか身を起こそうとする。側に膝を付いていた祐希奈が浮瀬南陸斗に向けて立ち上がる。彼女の前に立ちはだかる。


「ちっこいの、ヘイムスクリングラの偽書を寄越せ」

「魔法少女なんでしょ、何でこんなことをするの」


 そう、魔法少女だ。月夜風花は必死に頭を働かせる。

 相手は人間だ。自分と同じカードによって魔法を使う人間で、相手にはパターンも行動法則も無い。思考するし記憶する。生半可な作戦や不意打ちでは通用しない技術と判断力も兼ね備えている。

 魔法による刃は正確に退路を潰すように飛んでくる。それを可能にするだけの技量がある。魔法だけでは無く、本人の体術と反応速度も兼ね備えている。身代わりを目の前に飛ばすだけでは冷静に対処されてしまう。先程と同様に簡単に大鎚で破壊されてしまう。

 なのに。だから。何故か。

 違和感を覚えるのだった。ずっと頭の何処かで何かが引っかかっているのだった。


「ヘイムスクリングラの偽書さえ渡せば見逃してやるってんだよ」


 そう。彼女は見逃した。月夜風花はそう確信していた。

 二回のチャンスをどちらも有効に活用しなかった。

 一回目の刃を避けた時。遠隔操作出来るという情報が無いとき、躱された刃を頭上に移動させた後。浮瀬南陸斗はわざわざ上から狙っていることを宣言した。不意打ちなら直撃していた筈だった。

 そして大鎚の一撃を受けて身動きが取れなかった時。狙われれば確実に回避行動を取れずに直撃していた筈だった。にも関わらず、刃はあくまで退路を塞ぐためのコースを取った。あの距離なら確実に仕留められた筈である。そこまで正確な狙いを付けられない共考えづらい。あの刃は行動を阻害するだけに留まっている。

 威力が足りないからだろうか。しかし。だとすれば、何故身代わりを破壊するのに使わない。浮瀬南陸斗が明言したように死刑囚のカードの効果で出現した身代わりは多少の物理衝撃で崩壊する。あの刃で破壊できる機会はあったにも関わらず、刃をまるで避けさせるように身代わりには当てないように操作した。

 なんだ、この違和感は。何か、重大な事に気が付けていない気がするのだ。



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