【5-2】
5-2
月夜風花‐つや ふうか‐の頭上にあの刃があった。確かに避けた筈の刃が四枚。咄嗟に目の前を蹴って宙返りをする。落下してきた刃が月夜風花の居た位置を刃が通過していった。回避した刃を見送ると、避けた刃は眼下の空中で停止する。浮瀬南陸斗‐うきせな りくと‐が指を鳴らし、それと同時に静止していた刃が空中で回転し切っ先が突然月夜風花の方へ向いた。急加速。刃が月夜風花を狙って再び飛翔する。
「遠隔操作出来るのか」
向かってくる刃の切っ先を見極める。直撃の直前に宙を蹴って刃の進行方向から外れる。
「本命はこっちだろうが!」
「っ!」
浮瀬南陸斗の叫び声に月夜風花は崩れた体勢のまま剣を構える。向かってきた浮瀬南陸斗の一撃を受け止めた衝撃が全身に走る。大鎚と剣の鈍い衝突音すらも身体に突き刺さるようで。思い切り振り抜かれた大鎚の勢いに負けて月夜風花の身体は宙を舞った。耳元で風が渦を巻く音がする。
眩んだ視界の中で浮瀬南陸斗が左手を振り切るのが見えた。
「ちぃっ」
姿勢を戻すと同時に月夜風花は宙を蹴る。頭上から飛翔してきた刃を直前で回避する。刃が頭の側を通り抜けた。通り抜けた刃が三本しか無かったことに遅れて気が付き月夜風花は咄嗟に下を見る。刃の切っ先が迫ってくる様に身体を捻って加速をかける。刃が目標を見失って明後日の方へ飛んでいく。それを視界の端で見送る途端、前方で轟音がした。浮瀬南陸斗が加速をつけて大鎚を振り上げたまま向かってきているのを見て咄嗟に前に出る。大鎚が振り下ろされる瞬間に宙を蹴って真横に飛んだ。急制動をかけて無理矢理宙を蹴り真横に飛び退いた自分の身体を真反対へと向ける。耳元で無茶苦茶な風の音がする。空振って隙の出来た浮瀬南陸斗に向かって剣を振るう。剣を振るう音の向こうで浮瀬南陸斗の嘲る様な笑い声がした。
「それじゃあ、まだ足りねぇんだよ」
浮瀬南陸斗の後方から刃が四枚飛んでくる。飛行制御の魔力を切って月夜風花は身体を落下させる。刃が目の前を切り裂いていった。
厄介だ、と月夜風花は素直に思った。
浮瀬南陸斗はコード・リヒャルトと言っていた。コード・リヒャルトのカードの効果はおそらく魔力で飛ばした刃を自在に遠隔操作するというもの。絶えず四方八方から向かってくる刃を躱しながら、なおかつ浮瀬南陸斗の本命の一撃を防がなくてはならない。あの大鎚の一撃は重たく強力だ。気を抜けば簡単に叩き潰される。
大鎚の取り回しの問題で大きな隙を晒さなければ、一撃を貰う可能性は少ないがあの自在に飛んでくる刃が問題になってくる。刃で絶えず攻撃の手を緩め無いことで、あの大鎚の一撃を絶えず狙って相手の隙を待つ。あの刃は、あくまで有利な待ちを作る為の一手だ。あの得物に似合わず、緻密で慎重な戦法だった。
「でもっ! 私にも搦め手はある」
月夜風花が剣の柄を握る指先で引き金を引いた。腰のホルスターを指先で弾き展開させると、一枚のカードを引き抜いて剣のカード差し込み部へと挿入する。そうしてから今度は別の引き金を引いた。剣の装甲部から銃のグリップが突き出すとそれを握り引き抜く。フロントサイトの真ん中に大鎚を捉えた。落下しながら銃の引き金を引く。鋭い高音が鳴って銃口から光弾が撃ち出される。それを見た浮瀬南陸斗が身を放り出すようにして高度を一気に下げる。
「切り裂かれるのと、ぶっ潰されるの。選ばせてやるぜ」
視界の端で刃が飛んでくるのが見えた。空中で姿勢を立て直すと刃の進行方向から外れるように高度を上げる。剣を構えて月夜風花は浮瀬南陸斗の真正面へと飛翔する。浮瀬南陸斗が大鎚を振り上げたのを見て剣の引き金を引いた。金属の噛み合う音が小さく響いた。
「コード・ルートヴィッヒ!」
月夜風花の姿が一瞬消えて、浮瀬南陸斗の真正面に月夜風花の姿が出現する。浮瀬南陸斗が咄嗟に左足で回し蹴りを繰り出す。直撃と同時に月夜風花の姿がぶれて消えた。それを見て浮瀬南陸斗は目の前の宙を蹴る。彼女の目の前を魔力の弾丸の嵐が通り過ぎる。浮瀬南陸斗が顔を上げると上空に銃を構えた月夜風花の姿があった。
「瞬間移動じゃなくて、身代わりの出現か。使用者と同じ姿の色彩情報を有する魔力の塊を出現させ、その発動中は使用者の姿を消すってやつだ。身代わりは軽度の物理衝撃で崩壊するし、そうすりゃ効果もそこで途切れる、ってとこだろ? 違うかぁ?」
浮瀬南陸斗の言葉に月夜風花は唇を噛む。今までのカードの暴走とは違う。初めて対峙する知性のある相手だった。行動にパターンは無く、手の内を読んでくる上に、行動に対して推測という行為をしてくる。
「魔法少女か」
真正面からぶつかり合うのは不利だと月夜風花は結論づける。狙うは自身の身代わりを利用して隙を突く事。
「もうちょっと、うちを楽しませてくれよ」




