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魔法少女は死んだ  作者: 茶竹抹茶竹
2章・stay in forward for world
21/70

【4枚目・罪の名を呼んでみよ、空に描いた境界線】

4-1


 逸賀灼‐いちか あらた‐の元に公安部のネットワーク犯罪対策課の方から報告が上がってきた。

 機関ミズガルズのカフトワンダー極秘譲渡。その情報をガイソウが事前に掴み妨害に動けたのは、メールによる匿名の情報提供があったからである。この情報提供をした人物は機関ミズガルズ、もしくはそれに関連している組織に属する人間でしか有り得ないと推測されていた。ネットワーク犯罪対策課の方でこの情報提供者の足取りを追えないか、と依頼していたのだ。


「その結果が出たんですの?」

「そうです」


 麻希‐まき‐と共に逸賀灼が向かったのは、世田谷区に存在する児童養護施設「ひまわり」である。車を近くのコインパーキングに止めて調べてきた住所まで歩くことにした。麻希にざっと概要を説明する。

 ネットワーク犯罪対策課によれば情報提供のメールの足取りを追って、最終的にここ、児童養護施設「ひまわり」に辿り着いたというのだ。

 その報告を受けて、一応出向いてきたものの、逸賀灼は半信半疑であった。罠、偽装、間違い、真実。出てくるのは一体何であろうか。

 児童養護施設と言えば、カフトワンダーの譲渡の現場に居たのは子供だった。カードの効果で転移させられたあの少女はどこに消えたのだろうか。

 児童養護施設「ひまわり」についての情報に目を通しながら麻希がぽつりと呟く。


「ひまわり、上幹‐かみもとき‐」


 逸賀灼は麻希のその言葉に視線を向ける。上幹は児童養護施設の代表者である。何か心当たりでもあるのかと思って問いかけようとする。それを察してか麻希は慌てて首を横に振る。何でもないから気にしないで欲しい、と言うので頷いて足を止めた。

 白塗りの二階建てのアパート。少し年季の入ったこのアパート一棟が「ひまわり」の施設である。門の前で一つ深呼吸をする。


「行きましょう」


 アパートの一階の一室が事務所代わりになっていた。受け付けてくれた職員の女性に逸賀灼は警察手帳を見せて代表に合わせて貰う。資料にあった通り、上幹という男性が出てきた。少し手狭な応接室に通して貰う。上幹は40代後半で資料の写真よりは少し老け込んで見えた。几帳面に七三に分けた髪と黒縁のメガネに典型的なサラリーマン像を連想してしまい内心笑ってしまう。

 警察という単語に少し動揺したように上幹代表は口を開く。


「それで、どの様な御用件でしょうか。うちの子が何か問題でも」

「いえ。とある事件で関係者が送ったメールが此処、ひまわりから発信されたていたようでして」

「はぁ」

「PCと職員について軽く捜査に御協力頂きたいと思いまして」

「はぁ」


 逸賀灼の説明をいまいち呑み込めていないようで、上幹代表の反応はどうも薄い。逸賀灼の話を測りかねているようでもあった。施設内にネット接続の出来るPCは三台。この施設にいる高校生以上二人はwi-fi接続可能な携帯電話を持っているという。取りあえず協力を取り付けると、上幹代表に事務室まで案内して貰い麻希にPCの調査を任せる。

 麻希がキーボードを叩き始めると上幹代表が不安そうに言った。


「あの、施設の部屋も調べられるのでしょうか。子供達のプライベートな空間ですし、警察の方が急に来られて家捜しというのはちょっと」

「いえ、そういうつもりは無いですから」


 職員の名簿に目を通しながら逸賀灼はそう応えた。職員は上幹代表を入れて現在、4人。子供は17人居るらしい。全く知識が無いために詳しくないので分からないのだが、割と大規模なのだろうか。

 4人の職員の詳細を確認してみる。この中に機関ミズガルズに繋がる人間がいる可能性があるのだ。しかも、カフトワンダーの譲渡の情報を秘密裏に流すような人間が。何かただならぬ事情を抱えている筈である。


「職員の方は今、全員いらっしゃいますか?」

「東占‐とうじめ‐という職員だけちょっと外出しているのですが」


 名簿にあった「東占」という名字をそう読むのだと気が付くのに少し時間を要した。資料によれば32歳の男性である。東占以外の職員は居ると言うので簡単な面談をさせて貰う。それを全員分終えると、麻希がPCの前で背伸びをしていた。逸賀灼の顔を見て麻希は親指を立てた。そうしてから両手を交差させて×マークにする。

 丁重に礼を述べて逸賀灼達は撤収した。「ひまわり」を後にして車に戻ると麻希はハンドルを握りながら言う。


「特に何の痕跡があったわけでもないですわね。現状では、何者かがここを経由させてメールを送ったとしか言えませんわ」

「なんか怪しいデータが出てきたとかは?」

「まさか」


 進展なし。逸賀灼は舌打ちをする。PCを押収してもう少し時間をかければ違うのかもしれないが、そこまで派手に動くには色々と欠けていた。メールに関してはサイバー犯罪対策課に任せもう少し調べて貰うことにして芦ヶ場誠の殺害の捜査の方に戻るべきだろうかと思案する。


「そう言えば上幹の名前に何か心当たりでもあったんですか」


 先程の麻希の様子をふと思い出して逸賀灼は聞いてみる。


「関係あるかは分からないのですが」

「何ですか、隠さないで下さいよ」

「六年前あった脅迫事件を覚えていますか? 医師が犯人だった事件ですわ」

「ありましたっけ」


 六年前の自分の事を逸賀灼は何となく思い出していた。中学生の時の自分は、将来こんな事をやっているなんて予想もしていなかった。警察官になって、魔法少女となって、訳の分からない事件を追いかけている。

 脅迫事件について全く覚えていなかったので逸賀灼は両手を上げて降参のポーズをとる。


「ファシロペウムの公表をネタに、1000万円を要求した事件です。そんなに大きな扱いでも無かったから仕方ない気もしますわ。当時のその頃は海上保安庁と不審船の衝突事故というセンセーショナルなニュースがありましたもの。

 六年前、一人の医師がファシロペウムを公表する、と言って一人の男性を脅迫していましたの。要求は1000万円」

「1000万……」


 かなりの大金である。ファシロペウムという聞き慣れない物は、公表をちらつかせるだけでそれだけの大金を強請れるらしい。犯人が医師ということは何らかの薬品か化合物であろうか、と逸賀灼は推測する。

 麻希が「ひまわり」のアパートの方を振り返りながら言った。


「脅迫されていたのは『ひまわり』の代表、上幹です」



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