【3-6】
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紅茶を煎れてシュークリームを皿に乗せて。私は姉に全てを話すことにした。魔法のカードの事、カフトワンダーの事、祐希奈‐ゆきな‐の置かれている事情。そして私の考え。そして今後の事について。
私が話を終えると祐希奈が補足のように語り出す。それは私も聞かされていない話であった。
祐希奈が居たのは機関ミズガルズという組織らしい。祐希奈は建物内のごく一部の区画で幽閉生活を送っていたので、その機関については良く分からないという。少なくとも分かるのは機関ミズガルズは魔法について研究していたことだという。祐希奈の持っているカフトワンダーもその組織が開発したそうだ。そのテストを祐希奈が行っていたからそれは間違いないという。
その機関ミズガルズという組織で祐希奈は物心付いてからずっと生活してきたという。外に出ることもなく特定の人間と会うだけ。毎日、身体検査をして閉じこめられて生きてきた。
そんなある日、変化があった。祐希奈の身柄とカフトワンダーを進情報伝達研究機構という組織に引き渡す事になったらしい。その引き渡しの日。雪の降る深夜に新宿駅前で進情報伝達研究機構からの迎えが来た所に別の組織からの襲撃があった。
それは魔法少女だったという。そしてその騒動の最中に、カードが出現し暴走した。恐らくそのカードの効果は対象をワープさせる性質で、それによって祐希奈は気が付けば私の部屋に居た、という事らしい。
「まさか村を出てから魔法の話を聞くなんてね」
姉は私達の話を全て聞き終えて、ようやく口を開いてそう言った。それは何処か寂しそうな声で、それに何て返して良いか私は分からなくなる。姉は大きく伸びをした。身体を反らして、気を取り直した様に言う。
「おねぇちゃんは月夜‐つや‐の血を引いてないから魔法については良く分からないわ。秘密組織について精通している様な事も無いし」
「そうだったらビックリだよ」
「おねぇちゃんが言いたいことは三つ。まず、この一件に関わったら風花‐ふうか‐、火傷じゃ済まないわよ」
先程の逆さ天秤との戦闘で火傷によってミミズ腫れになっている手の甲を私はさすった。祐希奈が関わっている事態は異常な事だ。大きな、まるで陰謀めいたものが動いているように感じる。私個人がどうにかして解決できる問題とも思えない。そもそも何をどうすれば解決するのだ。
けれども、私は思ってしまったのだ。祐希奈を助けようと。
姉が真剣な顔をして黙り込んだので私は顔を伏せた。何かを悩んでいるようで姉は何も喋らない。私はその長い沈黙の時間をじっと待っていた。
「うん。でもそうね。
二つ目。おねぇちゃんは何が正しいのかは分からないけど、悩むなら風花の気持ちに従えば良いと思うわ」
姉の言葉に私は顔を上げた。姉はいつもと変わらない優しい笑みを浮かべていて、私はそれに安堵する。
あの日、私は魔法というものから逃げ出した。けれど今、まるで運命のように魔法というものが私の前に降りたった。手を伸ばせば救えるのではないか、と思ってしまう様な距離にその少女はいた。かつての光景に似た景色がどうしても私を苦しめる。
私は、私の気持ちに従えと姉は言った。今も堆く心の内に積み上げたものが重たくのしかかる。それを切り捨てる事が出来るのなら。私は頷く。そんな私の顔を見て姉は笑みを作った。
「それと、こんなに可愛い同居人ならいくらでも大歓迎よ」
姉が口の端をだらしなく下げて言った。
嗚呼。駄目だ、この人はもう。
祐希奈が椅子から慌てて立ち上がり、姉に向かってぺこりと頭を下げた。
「お世話になります」
「さ、夕ご飯の支度をしましょう」
姉はそういって立ち上がった。私は何か手伝おうと思って姉に付いていく。ティーカップを洗おうと蛇口をひねると姉が私の側に身を寄せてくる。どうしたのか、と問いかけようと私が姉に顔を向けるとその表情は真剣なもので。私が首を傾げると姉は声を落とした。
「気を付けなさい、風花」
何に、と私は問い返そうとしたが姉は何事も無かったように作業に戻っていく。あの真剣な表情は消えていた。




