【3-5】
3-5
死刑囚と節制のカードを封印した私たちは帰路につく。夕方で混み合ってきた駅前を祐希奈‐ゆきな‐の手を引きながら器用に縫って歩く。
祐希奈は22枚のカードがあると言っていた。それら全てを祐希奈は封印するつもりなのだろうか。何処にあるかも定かではなく今回のカードも偶発的な出現なのでは無いだろうか。ならば、それをどう封印していくと言うのだろうか。
「祐希奈ちゃんは、なんでカードを封印してるの」
「放っておけば色んな人に迷惑がかかっちゃう。それにカードを集めるのは祐希奈の役目なの」
その役目という言葉が私には意味が分からないのだ。そして気に障るのだ。
「カードは全部で22枚。それが全部集まるとラグナロクが起きると言われているの。ラグナロクが起きれば古い人間は全て死んでしまうんだって」
「それは誰が言っているんだ」
「祐希奈の居た施設の人。昔の人がカードについて記述している本が見つかっていて、そこにラグナロクの事も書いてあるの」
ラグナロクは北欧神話に登場する用語である。巨人族との決戦の末に迎える神々の終焉の事をそう呼ぶ。北欧神話の成立年代についてまでは知らないが、このカードは北欧神話に関連性があるのだろうか。だがタロットカードと北欧神話は関係は無いし、カードの技術レベルからしてどうも考えづらい。全てが嘘とは言わないが、何処かに恐らく現代の人間の介入している点があるように思えた。
「祐希奈ちゃんがカードを全部集めたらどうするの」
「全部集める必要は無いの」
「?」
「ラグナロクが起きないように悪い魔法少女に渡さなければいいだけだから」
全部集まることで、真偽は別としてラグナロクが発生する。あくまで、それの妨害で
あるということか。祐希奈は初めて私に会ったときに、私が魔法少女であるかと問いかけた。そして今の話にも出てきた魔法少女という言葉。カフトワンダーによって魔力を得た人間を指す言葉である。
「他に魔法少女がいるわけ?」
「うん。後二人は、いるの」
後二人。魔法を持つ人間がいる。どんな人間なのだろうか。カフトワンダーは、私のように持って生まれてしまう才能なんかとは違う。後天的で人工的なものだ。どうしてその人は、魔法というものを受け入れたのだろうか。
駅の中のデパートの地下でシュークリームを購入する。祐希奈が目を輝かせて私を見てくるので、私は笑った。少し変わった所もあるが、そういう仕草は年相応で可愛らしい。
家に着くと、玄関には姉のブーツがあった。予測はしていたが少し身体が強ばる。手にしたシュークリームの箱を握り締める。リビングの方から音がしたので私はリビングに足を踏み込みながら言う。
「おねぇちゃん、おかえり」
「おかえりなさい」
私の姉、月夜沙也花ーつや さやかーが居た。数日ぶりに顔を合わせた気がする。部屋着のジャージに袖を通し、長い髪はゴムで縛って纏めている。ソファの上で雑誌を読んでいた。私の義理の姉である。私の父が月夜家の娘である母と再婚した時の連れ子であり、その為、月夜家の血は引いていない。私より4歳年上で20歳の大学生である。
東京の大学に通うために上京して一人暮らしを始め、私は其処に転がり込んだ。
いつでも私に優しい、そうとても優しい姉である。
「今日バイトは?」
「無いわよ。だから夕ご飯はおねぇちゃんが作るわ。お買い物もしてきたし」
「ありがと。それでさ、ちょっと相談があるんだけど」
「どうしたの?」
私はうやうやしく姉にシュークリームの箱を献上する。そうしてから扉の向こうの祐希奈に声をかけた。
学業優秀、容姿端麗、性格はお淑やか。私の事をいつも気にかけてくれる優しい完璧な姉には一つ問題がある。
祐希奈が怖ず怖ずと部屋に入ってきた。その瞬間、姉が勢い良く腰を上げる。手にしていた雑誌のページが姉の手のひらでクシャクシャになる。姉が唾を呑む音が聞こえた気がした。
祐希奈に貸した子供用服の一式。私には幼い妹も親戚も居ない。一緒に暮らしているのは年上の姉だけで、我が家に子供は居ない。何故、祐希奈に下着も含めて子供用服を一式貸し与えることが出来たのか。それは簡単だ。姉の部屋のタンスに子供服があったからだ。それは何故か。
「ねぇ、どうしたの。この可愛い子」
姉が声を震わせて私に問いかける。彼女の目は真剣で、視線は祐希奈から外れる事は無かった。力のこもった指先。
「祐希奈って、言うんだけどさ。この子、うちで一緒に暮らしたいんだけど」
私の言葉に姉が勢い良く私の方を見る。その迫力に私は圧倒されてしまう。その目は見開かれ私の腕を掴んだ手に力がこもりすぎて痛い。
姉には一つ、問題がある。彼女は幼い少女しか愛せない。彼女は幼い少女の事が好きで好きで仕方がない。しかもそれは病的だった。子供服が洋服ダンスにコレクションされていたり、水着姿の小学生がジャケットとなっている怪しげなDVDが引き出しから出てきたり。
姉は所謂ロリータコンプレックスであった。
「ちょっと厄介な事情なんだけどさ」




