【3-3】
3-3
あの天秤の様なものが、其処にいた。逆さに宙に浮き天秤の足の部分が上を向いている。全体は金色で銀色の受け皿があった。そして分裂していた天秤と同様に銀色の鎖が絡み付いていた。
この逆さ天秤こそが間違いなく本体だと私は確信する。左手でハンドガンを引き抜く。銃口を逆さ天秤へと向けて引き金を引いた。撃ち出した弾丸が、その逆さ天秤の身を貫いたと思った。
直撃の直前。逆さ天秤の本体の前に何か、銀の皿の様な物が空中に出現する。光弾はそこに触れると同時に消えたように見えた。直径にして三メートル程。逆さ天秤の全長とほぼ変わりない。
「シールド?」
私は続けてもう一発撃ち込む。また銀の皿の様な物が空中に出現し、撃ち出した光弾はそれに触れると消えた。いや、その挙動は何というか、吸い込まれた様に見えた。そして光弾は消えた、跡形もなく魔力の弾丸はその姿を何処かへ消した。
「消え、っ!?」
突如、逆さ天秤の正面に出現した銀色の皿から光球が放たれた。私は咄嗟に空中を蹴って跳び退く。目の前を鮮やかに発行する緑色の光球が掠めていった。それは私の放ったものと同じ色をしており魔力で構成された弾丸の様であった。しかし、私が撃っていたものと比較してかなり巨大である。
攻撃された。他の偽物の天秤とは違い、本体はこちらからの攻撃に何らかの反応をする。
少し気になることがあった。あの何処からか空中に出現する銀の皿の様なもの。あれもカードの効果であるように思えるが、それなら防御機構として発生していると考えられる。逆さ天秤への攻撃を防ぐあの銀色の皿はシールドとでも言うべきだろうか。そのシールドに私の放った弾丸は何か吸収されているような挙動を見せた。
逆さ天秤を注視したまま対峙する。先程の様な攻撃はしてこない。
「祐希奈‐ゆきな‐ちゃん、……って置いてきたんだった」
祐希奈に聞いてみたかったのだが、当の彼女は別のビルの屋上に置いてきてしまっていた。
あの逆さ天秤は他と明らかに挙動が違う点からカード本体であると私は考える。しかし、あの雷もどきの時の様に一瞬もカードが見えない。祐希奈はカードを露出させると言っていた。何らかのダメージを与えれば良いのだろうか。しかし、先程行った攻撃では効果がなかった。
そしてあの逆さ天秤の効果は一体何だというのだろう。映像の様な偽物を発生させ、受けた攻撃はシールド様なもので防がれる。
「本体への攻撃が効かない、か」
祐希奈の言葉を思い出す。私は腰の位置に備えられたホルスターに手を伸ばす。指で引っかけるとホルスターが蛇腹状に展開する。そこにはあの金属製のカードがあった。その一枚を私は指先で掴んで引き抜く。人差し指で剣の一番目の引き金を引いた。剣の装甲が展開する。丁度カードが差し込めそうな口があった。そこに雷もどき、塔のカードを押し込んだ。金属が噛み合う音がして展開した装甲が元に戻る。剣の液晶に「Set」の文字が浮かび上がる。
剣の切っ先をあの天秤へと向ける。引き金を引いた。
「イクス・ガンスノッドスエルツェ。コード・パオラ発動」
引き金を引くと同時に剣の切っ先で雷光の如く電流が渦を巻く。それは不規則に動いて突如収束すると一直線に電撃は放たれた。大気を焦がすほどの熱が私の皮膚に突き刺さる。青白い閃光が周囲に散って激しい音を立てる。撃ち出した衝撃が手のひらに痺れとしてそれを実感させる。
電撃は逆さ天秤へと突き刺さった、様に見えた。あの銀色の皿が出現し攻撃を防いだのだ。あの銀の皿を中心に電撃は著しく収縮しかき消えた。もう一度引き金を引く。剣の切っ先から電撃が放たれる。しかし、同様にまた銀色の皿が出現して雷はその一転を中心に吸い込まれるように収縮した。
「威力の問題じゃないのか」
私は咄嗟にその場所から飛び退いた。あの逆さ天秤の正面に出現した銀色の皿から雷光が瞬く。電撃が私の前を掠めていく。
「電撃?」
私はビルの屋上に降り立つと私は周囲に目をやる。錆びたスパナが落ちているのを見つけて私はそれを拾い上げた。思い切り振りかぶって逆さ天秤に工具をぶん投げる。工具がぶつかる直前に銀色の皿が出現して消えた。私は再び剣の切っ先を向けて引き金を引いた。
電撃を撃ち出す。逆さ天秤の正面に出現した銀色の皿によってそれはかき消えた。私は剣を盾のようにして走り出す。恐らく攻撃はこのタイミング。そして、逆さ天秤が撃ち出してくるのは。
逆さ天秤の前に銀色の皿が出現した。私は回避が間に合わず逆さ天秤が撃ち出してきたものが構えた剣に直撃した。金属音が響いて衝撃が私を襲う。周囲に電撃が散って私の肌を高熱が焼いた。剣に確かに質量のあるものがぶつかったように感じた。
私の足下に何か何かが音を立てて転がる。青白い電流を纏った錆びたスパナがそこにあった。
「そういうことか」




