【2-8】
2-8
人工的に魔力を生成するのがカフトワンダーである。生まれつき魔力を操ることが出来、魔法を使うことが出来る者を魔法使いと呼ぶのと区別するためにカフトワンダーによって魔力を得た人間を魔法少女と呼ぶ、らしい。
祐希奈の言っていた魔法少女という言葉の意味がようやく分かった。字面からしてカフトワンダーを扱うことが出来るのは女性だけなのだろうか。
変身の意味を取うと祐希奈‐ゆきな‐が答える。
「魔力で出来た防御膜を衣類の形状で構成するの」
「どういう意味」
「魔法の鎧ってこと」
祐希奈が私を縁取るかのように空中を撫でる。緑色の光の粒子が私の身にまとわりつく。それは徐々に重なり合いながら布の様になっていく。その端がはためいて私は瞬きをする。布が私の身体を覆うと硝子の様に変質して一気に弾けた。気付けば私が纏っている衣服に私は驚く。
巫女装束である白衣ーはくえーに、濃緑の袴。襦袢や襦袢は同様に緑色で白衣に対比して差し色となっている。一般的な巫女装束とは違い白衣は袖が分かれて肩が出る構造になっている。袖は二の腕で絞ってあり巫女装束の様に袖は垂れる部分がなく細身で、また手首の部分でも同様に絞って留める形となっていた。剣を振る為に動きやすさが重視されているのだろうか。
袴も少し丈が短く膝頭位である。足下は白のショートブーツで、流石に草履ではなかった。腰の位置には銃を収納する為の金属製のホルスターの様なものがあった。
姿の変わった私を見て祐希奈は満足げに頷く。
「魔防膜って言うの。多少のダメージなら防いでくれるから」
「何で巫女装束風味なんだ」
「着る人のイメージが出ちゃうの」
魔法という存在に私はやはりあの村を思い浮かべてしまっているようだった。ただ村で着ていた巫女装束は赤い袴であった。この緑色には何か意味があるのだろうか。剣が生み出す魔力の色も、そういえば緑色である。
魔防膜、と祐希奈が言った私が今着ているこれは、衣服の様に見えるが実際に着ているわけではなさそうだった。衣服の様に見える魔力の膜が私を覆っているという表現が正しいのだろうか。手で触ってみると布とは違う感触がする。
まさか巫女装束を着ることになろうとは思ってもいなかった。祐希奈は変身と言っていたが。
さて、と私は気を取り直す。あの逆さ天秤をどう追いかけるべきだろうか。空を睨んだ私に祐希奈は言う。
「もしかしたら、風花ちゃんなら飛べるかも」
「飛ぶ?」
「魔力をジェットエンジンみたいに噴出させるイメージ」
祐希奈が言うには魔力の制御によって生身での飛行は十分可能なのだという。しかし、祐希奈の説明に私は首を横に振る。
「私は魔法を使えない」
「カフトワンダーがあるからきっと大丈夫。風花ちゃんを助けてくれる」
祐希奈が言う。祐希奈の言葉通りに魔力を動かすイメージを脳内で作る。手にしたカフトワンダーが私に確かな実感を与えてくる。駆動音が振動と化して手のひらに伝わってくる。
感覚を掴め。恐れるな。あの時とは、あの日の自分とは、違うのだと私は叫ばなければならない。
何かに押し上げられるような感覚と共に私の足が地面から浮いた。祐希奈を右腕で抱き上げると一気に魔力を足下に叩きつけるようなイメージを作る。急激に身体が宙へと飛び上がった。
「飛べた」
「落ち着いて、魔力はカフトワンダーからも生成されてるから大丈夫だよ」
空中で姿勢を制御する。眼下に先ほどまで居た路地裏が見えた。私は上を向く。空中を蹴って上空に飛び上がる。
二組の天秤の様なものが、其処にいた。それは逆さに宙に浮いていた。天秤の足の部分が上を向き、受け皿が下を向いている。全体は金色で銀色の受け皿が左右に吊られている。そして天秤には銀色の鎖が絡み付いていた。あれは何をイメージしているのだろうか、とふと思う。どちらが模したかは分からないが、魔法のカードはタロットカードに関連性がある。
天秤。逆さ。鎖。どういう意味だろうか。
突如、二組の天秤が同時に動き出した。まるで私達から逃げるように距離を離していく。ビルの屋上の上をそれは勢い良く飛んでいく。
「あれの中にカードがあるのか。動きを止めないと」
封印するためには剣でカードに触れなくてはならない。
「イクス・ガンスノッドスエルツェには銃が備え付けられてるの。封印するには威力が足りないけど、カードを露出させるには充分な筈。それとこの前封印した塔のカードは装甲の差し込み口の所に挿せば読み取れるの」
「あの雷が使えるってこと」
「うん」
三つ目の引き金を二連続で引くと剣の装甲が展開した。それと同時に格納されていたハンドガンのグリップが突き出してくる。それを左手で掴み引き抜いた。銃座からは緑色の光で出来た鎖があり、剣と繋がれている。そのフォルムはWA2000に酷似しており、銃身を切り詰め小型化した様な形状であった。銃身のフレームは銀に、ライトグリーンの差し色が使われ鮮やかなものになっている。
左手でそれを構える。実際のWA2000とは違いスナイパーライフルでは無いようだった。足下で粒子が渦を巻く。移動していく天秤へ向けて飛翔する。祐希奈を右腕で抱きしめたまま加速をかける。目に風がぶつかって、私は首を逸らす。
「風花‐ふうか‐ちゃん、この距離なら!」
「分かってる」
天秤の後方に追い付くと銃のサイトの中に片方の天秤の姿を捉えた。引き金を引く。銃声と共に、銃口から緑色の細い光弾が撃ち出される。驚くほどに少ない反動に私は続けて引き金を引いた。高速で飛んでいく光弾が連続して天秤を貫いた。
光弾に貫かれた天秤の姿がブレる。残像の様に天秤の姿が一瞬霞んで、重なり合わさっていた様にその姿が二つに別れた。どちらも変わらず実体があるように見える。
「分裂した!?」
撃ち抜いた片方の天秤が分裂したことで天秤の数が三つになった。カードが露出するわけでもなく、動きも止まらず天秤はそのまま逃げるように飛んでいく。
二組の天秤。なら今撃ち抜いた天秤は偽物なのでないだろうか。そう考えれば、もう一体が本体の可能性がある。
天秤を追いかけながら、もう一体の天秤の方に狙いを定める。引き金を連続で引く。銃身からの反動が殆どなく、狙いを付けるのは容易いことだった。光弾が連続で射出されて、天秤を追いかける。鮮やかな緑の閃光の一撃が天秤を貫いた。貫かれた天秤の姿がブレる。残像の様に天秤の姿が一瞬霞んで、重なり合わさっていた様にその姿が二つに別れた。
その光景に祐希奈が驚愕する。
「また分裂したの!?」
これで天秤の姿は四体になった。変わった様子もなく、最初からそこには四体の天秤が存在していたかのように。私は銃を握る手に力を込める。
「これはどういう仕掛けなんだ」
【2枚目・かつて否定した存在 完】




