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魔法少女は死んだ  作者: 茶竹抹茶竹
1章・too hard to hard to me
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【2-7】

2-7


 その村には巫女という存在が必要だった。精神の拠り所として巫女という存在は求められた。本当に小さなその山奥の村、それを維持していくのには何か象徴的なものが必要であった。

 本当は怖かったのだ。巫女という役目を継げば、あの村に縛り付けられて一生を其処で過ごさなくてはならない。閉塞感で満ちたあの村を維持するために一生を捧げなくてはならない。

 本当は嫌だったのだ。幼い自分は外の世界に、希望で溢れていた様に見えた世界に出て行きたかったのだ。

 自分が知っているのは麓の学校と村までの往き来のみの狭い世界。電波と車のある現代にも関わらず、幼い自分はその場所にしかいれなかった。そしてそうでない存在達にいつも心を焦がした。義理の姉が東京の大学へと進学しようとしていたことも、私をより一層せき立てた。そして私は、一人の幼い少女に全てを押し付けた。


「分家に珍しいことに魔力を持つ子供が生まれた」


 それは異例なことであったが、私が魔法を使えなかったこともあってその分家の子は大いに祝福された。その子を次の巫女に据えようという話もあった。当然本家はそれに反対したが、最終的に私とその子のより魔法の使いこなせる方を巫女に据える事が決まった。

 どちらが優れているかを決める方法。それは一個の鉄球を離れた穴に手を触れず入れるという、まるでレースの様な決め方であった。

 そしてその日。私はわざと失敗した。


「私はその幼い子に全てを押し付けた。嫌だったから、何も知らないような子に残酷な人生を抱えさせた」


 だから私はずっと逃げてきた。世界から。村では巫女の血を引きながら魔法の使えない異質として、東京では魔力という物を持つ異質として。周りの全てに拒まれて、周りの全てを拒んできた。


「私には魔力がある」


 でも私はそれを深い底へと沈めた。持っていれば溺れてしまいそうだったから。私はそれを持っていないことにした。

 魔法はこの世界には存在しない。それで「その世界」は存続し続けてきた。


「でも。いや、だから、世界は異質に優しくない。いつだってそっちが正しい様に振る舞うんだ」


 この世界を造っているのは、誰かでしかない。無数の個が集合して形成された無自覚の無意識がこの世界を造っている。最大公約数の結果でいつもこの世界は出来ている。だから、そこから外れたものは、あぶれたものは、異質として扱われる。その世界には入れなくなる。そしてその大多数こそが真理であるのだと、正しいのだと振る舞っている。

 そしてそれは正しいことなのだとも思う。


「でも、あの時。祐希奈‐ゆきな‐ちゃんがあの剣を引き抜いた時。あの雷を止めたいと言った時。私は祐希奈ちゃんが正しいように思えた。私と同じ異質なのに、世界の正しい方にいるように思えたんだ」

「それってどういう意味?」


 それは至極もっともな反応であった。私もどう言葉にしていいのかよく分かっていなかった。それでも、私はあの時、祐希奈が衛都楼水希‐えとろう みずき‐と同じ様な存在に見えたのだ。異質である筈の存在がこの世界の内で正しい存在であるように思えたのだ。

 魔法はこの世界には存在しないものだ。そういう世界があって、そういう世界で生きているのだから。だから、そうである存在は、その世界に居る限り決してその中心には成り得ない。正しいものに、最大公約数から成り立ったそれに、成り得ない。


「魔法はこの世界にとって異質なものだけど、あの時。祐希奈ちゃんがまるで、何て言うか、正義の味方みたいに見えた」


 私が言葉を詰まらせて。その時、足下が揺れた。咄嗟に姿勢を低くして身構える。祐希奈が私にしがみついてくる。揺れは直ぐに収まった。震度2だったことを周囲の人間の言葉で知る。ここ一ヶ月、どうも地震が頻発していた。

 祐希奈が空を見上げた。私も釣られて空を見る。ビルとビルに切り取られた青空の隙間に二つの何かが見えた。遠くて細部までは見えないが、それは天秤の様に見えた。その二つの天秤は上空に浮いている。私が目を凝らすと、それらは急に加速して何処かへ飛び去っていく。


「今のは」

「カードだよ!」


 あの宙に浮いていた二組の天秤の様なもの。何かは分からなかったが、その異様な感覚はあの時の雷と同じように思えた。飛び去っていったあれを魔法だと断言した祐希奈が突然、駆け出そうとする。私はその手首を慌てて取った。彼女は勢いに負けてよろめいてから私の方へ振り返る。私はビルとビルの間の誰も居ない路地まで彼女を引っ張っていく。


「待った」

「どうしたの?」

「祐希奈ちゃんはずっとこういう事をするの」

「だってカードを止められるのは、祐希奈だけだから」

「それをして祐希奈ちゃんの何になるの」


 口を突いて出たのはそんな言葉で。魔法という存在、そんなものは嫌だと、かつて否定した存在。


「風花‐ふうか‐ちゃんは魔法を嫌がっているかもしれないけど、魔法はみんなを助けることの出来る力だよ」


 魔法は呪いだ。あの日から私を縛り付けた呪いでしかない。でも、だから、ここで魔法からまた逃げ出してしまったのなら。

 今、祐希奈から。目の前の少女から逃げ出したら、きっと私は二度と光に手を伸ばせなくなる様な気がしていた。

 私は思い出す。かつて幼い頃の自分が見ていた景色を。あの日、沈めたものを。あの幼い少女の姿を。あの少女の姿を目の前の少女の姿につい重ねてしまっていた。多分、これは私への呪いだ。

 今ここで逃げ出せば、きっとあの時と同じなのだ。

 あの時、私は逃げ出した。魔法という存在から目を逸らし、それを底へと沈めた。けれど、そうしたって何も変わらなかった。結局私はまた魔法に縛り付けられている。皮肉のように、魔法は私の前に現れた。そしてあの少女の様に、目の前で一人の少女が魔法という存在と共に居た。

 祐希奈が寂しそうに言う。


「風花ちゃんにはその力があるんだよ。みんなを、みんなの全てを助ける事が出来る力があるの」


 きっと、私がしたいのは。求めているのはそういう事ではないのだ。ただ私と同じ場所にきっと居るはずの彼女が、何故私の成り得ない存在の様に感じられたのかが不思議だったのだ。そんな彼女なら私がかつて沈めた場所に手が届くような気がしたのだ。


「私は祐希奈ちゃんの全てを助ける。私の全てを祐希奈ちゃんに渡すよ」

「でも祐希奈は何もあげられるものがないよ」

「だから、私を救い上げてくれ」


 かつて私はそれを底に沈めたと思っていた。でなければ溺れてしまうと思ったから。けれども、底に沈んでいたのはきっとそうでないのだ。

 祐希奈が宙を撫でる。緑色の光の粒子が舞った。それは光を乱反射させて、周囲に光を散らす。不思議な光だと思った。何処か暖かく、そして何処か冷たい。触れることは出来ないのに、私の肌にぶつかると弾けて散っていく。

 その光景に私の村で行っていた巫女が祝詞を詠み上げる時の儀式を思い出して、私は彼女の前に膝を付いた。そして、祐希奈が私に差し出した手に両手で触れてその手の甲に軽く口付けた。


「風花ちゃんに剣をあげる。魔法という奇跡を起こす為の剣。風の名を冠し希望を運ぶ剣」


 祐希奈が指先を踊らせて光の粒子を何かの形へと変えていく。それは剣の形に見えた。片刃の大きな剣。祐希奈の前で光の粒子は剣を形どってそうして動きを止めた。空中に横たわる、剣を形どった光の粒子の塊。

 私はそれを掴みとる。その中に確かな感触があった。その手応えに任せて私は剣を思い切り引き抜いた。引き抜くと同時に周囲に弾け飛ぶように光の粒子が散った。鮮やかな緑光に映された世界の向こうに、重厚な剣の姿が見えた。

 カフトワンダー。魔力を人工的に生みだし、魔法のカードを操るための道具。魔法使いの杖は現実に存在すれば、夢の欠片も無いようなものだった。私はその名を呼ぶ。魔法という奇跡を起こす為の剣。風の名を冠し希望を運ぶ剣。

 そして、私を過去に縛り付ける鎖を断ち切るもの。


「イクス・ガンスノッドスエルツェ。解放」


 剣を握り締める。確かな呼応が駆動音として返ってくる。大振りの銀の片刃。刃から柄まで覆う様に備え付けられた深緑色の分厚い装甲が噛ませてあり、そして柄を握ったまま指が届く位置、柄と装甲の間には引き金が備え付けられていた。刃の根本から柄まで覆うように備え付けられた装甲部には大振りのハンドガンが組み込まれていた。その裏側の装甲部にはカード状の何かを差し込むような口がある。

 私は祐希奈に言う。


「あれを追いかける」

「風花ちゃん、変身しなきゃ」

「は?」

「魔法少女なんだから」


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