【2-6】
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子供用品が集まるフロアについて私は子供用の靴を探した。それらしき店を見つけて入る。子供用独特のカラフルに靴が並ぶ光景に私は目眩がした。サイズを測るために適当に見繕う。
ヒールの高い子供用のブーツなんかを見つけて素直に感心した。値段には感心できない。
「あんまり得意なタイプじゃないんだ。水希‐みずき‐さんみたいなのは」
祐希奈‐ゆきな‐に靴のデザインを選ばせながら私は衛都楼水希‐えとろう みずき‐への感想を口にする。祐希奈が選んだスニーカーを持って私は試し履き出来るスペースを探す。
「私より良い子を水希さんは幾らでも選べるのに、わざわざ私の所にくる必要なんて無い。彼女がどう思ってたって、なんていうか私にとっては。彼女のほんの一瞬の空白を埋めるための身代わりみたいに感じちゃうんだ」
衛都楼水希の周りにはいつも誰かが居る。それは彼女の人柄の良さであったり、容姿に惹かれてであったり、とにかく彼女の周りには誰かが居た。
私にとって衛都楼水希という人間はとても正しいように思えた。全てが完璧に見えた。何もかもが評価に値するような人間に見えた。そんな彼女が何故私の様な人間に近付いてくるのだろうか。それを考える度に私は私以外の誰かの穴を埋めるだけの存在にしかなれないと感じてしまうのだ。
祐希奈が不思議そうな顔をしていたので私は話を変えることにした。
「私が魔法使いじゃないかって聞いたよね」
「うん」
「ちょっと昔話をしよう」
靴屋の店内のソファに祐希奈を座らせて靴を履かせてやる。サイズを見ながら私は話を続ける。
「私は新潟の山奥の村で生まれた。本当に小さな村。
そこには特殊な習わしがあった。とある家の人間が代々、巫女という役目を引き継いで神事を行うというもの。まぁ、ありがちな話だけどその巫女の家系の女子には神懸かり的な力が宿った」
何処の村にもそういう風習が眠っているものだ。神話というか戒めというか、それは好意的なものから災厄として扱われるものまで多岐にわたって存在する。決して珍しいものでも無いだろう。
「その力は、例えば天気を操るとか人の心を読むとか未来が見えるとか手で触れずに物を動かせるとか。所謂、オカルトの類。だけど、私の村はそれを本気で信じている。
いや、と言うよりも存在するんだ。そういう力が」
祐希奈が気に入ったというので靴はそれにした。レジでお金を払い彼女に早速長靴から履き替えさせる。長靴を靴屋のビニール袋に入れる。取りあえず今日の目的は達成した。
デパートを出た。何処かに寄っていこうかと思いながら駅までの道をゆっくり歩いていく。
「神懸かり的というか、もう少し現実味のある言い方をすれば超能力の様な物が私の村には存在する」
超能力であれば、まだ現実的に感じる人間がいるのは何故だろう。言葉が変わっただけでそれは御伽噺を賑わす魔法でしかない。この世界には存在しない夢物語。
そう私は言い切れる。この世界にはそんなもの存在しないのだから。そういうことにされてきたのだから。
「その巫女の一族を月夜‐つや‐という」
その村には巫女と呼ばれる人が居た。その巫女の家系の女子はいずれも特殊な能力を開眼させ、その神懸かり的な力を用いてきた。山奥の小さな村にある習わしは、それで当然であるかのように特殊な能力を受け入れてきた。
その巫女の家系は少し風変わりな名字で。月に夜と書いて、「つや」と読ます。
「月夜風花、私の家だ」
「だから風花ちゃんには魔力があった。あの時カフトワンダーが起動できた」
「私達の村ではこの力を神通力と呼んでたけど。まぁ、つまり風花ちゃんの言う魔法だったんだろう」
祐希奈は言っていた。魔法はもうこの世界に存在しないと。しかし、そうとは思えない。存在しないとされているだけで、本当は今もそこらに存在しているのではないかと。魔法という定義が出来てそれがはっきりとした形を持つようになっただけで。
神通力、呪術、超能力。言葉は何でも良い。だが人間が不可思議な現象を起こすことは太古の時代から幾つもの文献に飽きるほどに記述がある。現代社会にも、その真偽は別として超能力者と呼ばれる者だって存在している。
「だから祐希奈ちゃんの言い方を借りれば私には魔力がある。でも私は魔法使いじゃない。私には才能が無かった」
「え?」
「私は不思議な力、魔法を使えない。だから巫女の役目は継げなかった」
「でもこの前は魔力が」
「声を出すことは誰でも出来るけど、それを言語にするには練習とコツがいる。そういう感じ。魔力は確かにあるけど、それを魔法にするための複雑な操作が出来なかったんだ」
祐希奈の言い方に倣えば、魔法。それにはコツがいる。魔力が使えるだけでは意味がない。目に見えない力で、そこにある筈の見えない積み木を積むような感覚だ。魔力という力で世界に複雑に干渉しなくてはならない。そして私には、それが出来なかったのだ。
故に私は巫女という立場を継がず、そして中学校卒業と同時に逃げ出すように村を出てきた。都内の高校を受験して、既に一人暮らしをしながら東京の大学に通っていた義理の姉の元へ転がり込んだ。
祐希奈が言う。
「その村の巫女はどうなったの」




