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異世界にて捨てられました  作者: 乃愛
捨てられた二人
8/18

もうすでに日常

「フラッシュ!」


 ただ単に光を発するだけの魔法。単純なだけに発動もはやく不意もつけやすい。

 10Fボスモンスター《ダーククラーケン》は眩しい光に目をくらませている。

 タコやイカのような存在として地球にも伝説が残っていた気がするが、まさかこんな所で出会えるとは思わなかった。

 目をたくさんのタコ足で目を覆い大きな隙を見せえてくれるこのボスだが、すでに戦闘開始から10分が経過している。今までで最長だ。

 攻撃はとても弱く、当たってもほとんど痛みはない。ただ数が多いため厄介なのは事実。

 20本近くあった足も既に9本を切ったのであとは10本ほどしか残っていない。


「エアーカット!」


 既に5、6回使っている魔法を発動する。ただ今回は少しアレンジを加えているが。

 今までなら一発分の風を放っていたのだが今回は3つ分の風を放っている。

 俺の攻撃で更に2本の足を切断しレナも通常の攻撃で一本切断した。

 元気になったレナは病み上がりとは思えないほどの活躍をしていて、無理をしていた頃よりも格段に動きが良くなっている。

 レナは更に魔力をまとった攻撃で2本を切断し足はほとんど残っていない。


「ギャーーーーー!!」


 叫ぶクラーケンから真っ黒な物が出てきた。


「イカスミ!?」


 俺の考えははずれ、出てきたのは闇魔法で作った黒煙だった。

 レナも同じ事を考えていたのか俺と目が合うと苦笑していた。

 

「面倒くさいやつだな!メテオストリーム」


 魔法を適当に放ちまくる。どうせレナの方へ行ってもダンジョンなら当たることはないのだ。

 つくづく楽な狩場だ。

 乱射したメテオが当たってクラーケンは死んだようで、黒煙が消えていく。

 

「ダンジョンにまさか海洋生物が出るとは…」


「ふふ。攻撃弱くて助かったね」


 そう言いながら近づいてくるレナの顔は昨日とはまるで違う。

 ああ…元に戻ったレナの笑顔が眩しい…

 真っ直ぐな黒髪を払う動作にすら切れを感じる。

 動きも格段にいいし良い事尽くめだ。

 その後今までよりも格段に連携の取れるようになった俺達は11F、12Fと着々と制覇し、5日目で噂の20Fに到着した。

 まだ攻略を初めて3時間しかたっておらず、時間もまだ1時だったが念のためということでその日はずっとボスモンスターの原型であろう《ハイウルフ》を狩りまくった。

 今まで見てきたモンスターの中で一番かっこ良く気品あふれる姿が印象的だった。


「レオン。今日何食べるの?」


 この世界に来て日の浅い俺達には飯とは重要な時間である。

 二人でももちろん楽しいし、お客さんやプームさんなどとのおしゃべりもとても楽しいのだ。

 美味しいご飯に暖かな人たち。ただしゃべるだけでも学ぶことはあるし、おもしろい話もたくさんある。

 

「今日は昨日食べたポタージュとパンかな」


 昨日食べたポタージュはカボチャのような野菜を使っているようで、地球で食べたものとほとんど変わっていなかった。唯一変わっていたのは感動するほど美味しい味の一点である。

 絶妙なとろみとお肉や野菜とがとてもよい味を出していた。それをパンに付けて食べると更に美味しくなるのがまた良い。昨日はレナに頼んで二人前も平らげてしまった…


「そんなに美味しいのか。私も今日はそれにしよ」


「おお、そうか!絶対気に入るぞ?」


 楽しい会話を楽しむ俺達を見て、周りの村人も微笑んでいる。

 中には「今日はプームさんの所で食べようかね」と言っているおばあちゃんもいた。

 

「プームさん。昨日と同じやつあります?」


「ん、あんたら戻ってたのかい。ポタージュならまだ残ってるよ!」


「私も同じのでお願いします」


 待ってなと言って厨房へ戻るプームさん。俺達は席に座って待つことになる。

 席に座ると他のお客さんが集まってきて今日の成果について聞きに来た。

 20Fのボス前まで行ったことを順番に話していき、明日挑戦することになってることを告げるとみんなが「がんばれよ」や「準備はしっかりしなよ」などと言ってくれる。俺達の話が終わると次は他の人の話を聞き、笑ったり感心したりしつつ夜を過ごす。

 出てきたポタージュを俺はあっという間に食べ、その食いっぷりをドワーフのようだとドワーフのおじちゃんに言われて笑いあう。

 明日死ぬ可能性があるというのに、我ながらのんびりしていると思う。

 だが焦ったり緊張した所で何も変わらないのだ。それなら何も変えず楽しい時間を送ったほうがい。一緒に食べているみんなもそう考えているだろう。

 夜も十分にふけ、宿屋の客は部屋へ戻り、町の住人は家へと帰る。

 俺とレナはすることもないのでアイテムの点検をしていた。

 会話のない時間…別に気まずくもない。

 既に日常となっている作業が終った後、俺は一旦部屋を出る。

 レナが着替えるのだ。この時間だけはさすがに気まずい…

 なので一度「部屋別々に取ったほうが良くないか?」と言ってみたのだが、レナこと財務大臣は首を縦にふることはなかった。

 レナが出てきたので交換で俺が入りさっさと着替えをすませる。

 濡らしたタオルで体を拭き少しでも綺麗になるようにする。

 5分ほどで終り部屋の外にいるレナを入れてベッドに入る。もちろんベッドは2つある!

 

「はあ…さすがにお風呂が恋しい」


 この会話の時だけはどちらも落ち込んだ顔になる。

 異世界に来て一番つらいのはお風呂がないことなんて言ってるレナだ。俺の数倍暗い顔をしている。

 まだ異世界に来て数日しかたっていないころ、ロレシアさんにお風呂があるか聞いた時に、「風呂なんて大貴族か王家の人間しか入らないよ」と言っていた。これ以来余計お風呂が恋しくなって後悔している。

 ないものはないと割り切れればいいのだが、毎日お風呂に入ってきた日本人としては辛いものである。

 それから数十分暗くなった俺達だが、さすがに明日も攻略があるため寝ないわけにはいかずどちらもベッドに入った。

 ベッドに入るとあっという間に睡魔に襲われ、俺達は夢の世界へと旅立った。

 

 



 翌朝、昨日のお風呂話を忘れたかのように俺たちは元気にダンジョン攻略へむかった。

 俺たちを知っている村人に会う度に「今日も一緒に食べような!」なんて声をかけてくれるのだ。負ける訳にはいかない!

 かつてないほどのやる気をみなぎらせた俺達は、エンカウントするハイウルフやその他のモンスターを瞬殺し、最短距離でボス部屋へとむかった。

 走ったおかげで10分ほどでボス部屋へとつき、ためらいもなくドアを開けた。

 今回はレナも俺と同じように手前で止まりボスが出てくるのを待った。

 床に出現した魔法陣から、体調5メートルほどのボスモンスター《ハイウルフレイ》が出てきた。


「ワォォォォォン!」


 ウルフのその声が開戦の合図となり俺達もウルフも攻撃を仕掛ける。


「グラビティ!」


 ウルフに俺の魔法が効果を表し、体重が数十倍に上げっているだろうウルフはどことなく苛ついたような顔をしている。

 それでも相当の筋力があるのか普通のウルフよりも数倍早い動きで俺に突進を仕掛けてくる。

 次の魔法発動は間に合いそうにない!だが俺の隣には頼れる魔法戦士がいるのだ。


「ッハ!」


 短い掛け声とともに十八番である転瞬斬をすれ違いざまにお見舞いし、その衝撃でウルフは吹っ飛んでいく。

 器用に体を反転させきれいな着地をするウルフ。

 

「レオン。あれとメテオ使って!」


「了解!」


 俺はずっと考えていた魔法とメテオストームを発動しウルフに牽制する。

 さすがに動きの早いウルフには一発しかかすらなかったが、その隙にレナがもう一度攻撃を与える。

 ウルフはレナの攻撃を受けつつも、攻撃がやんだ瞬間すぐさま反撃を開始する。

 名前の通り光のような速さで突進してくるウルフをレナはぎりぎり避けカウンターを繰り出す。

 その攻撃を軽々と避けたウルフは、体勢を崩しているレナに再度襲い掛かった。

 


「アイスプリズン」


 今回狙ったのはウルフではなく、ウルフとレナのあいだである。

 氷で作られた壁にぶつかったウルフは、すぐさま攻撃対象を俺に変え襲い掛かってくる。

 既に氷の壁はほとんど壊れている。レナは残骸を飛び越え俺を狙うウルフへと攻撃に向かう。

 そのレナを見てウルフが笑ったように感じた。


「ッガウ!」


 短い声とともにレナの方へ顔を向けたウルフの口には、魔法で作られた光球が見えていた。


「危ない!」


 急いで次の魔法を発動するが、既に発動していたウルフの攻撃には間に合わない。

 ウルフの口から発射される光の魔法、レーザーだ。

 気づいた玲奈は避けようと体を捻ったが、レーザーは玲奈の脇腹に容赦無い攻撃を加える。

 脇腹を貫く光線。玲奈は顔に苦痛を浮かべるも、なんとか体勢を立て直す。

 薬を出す時間がもったいない。俺は隙を見せることも構わず玲奈に回復魔法を唱える。

 ウルフはやはり俺の隙を見逃さない。俺に向かって再度レーザーを発動する。


「まだあの魔法は見せられないな!」


 俺は一歩も動かず水魔法を発動させる。

 俺とレーザーの前にできた水の壁はレーザーを俺からずらすのに十分な効果を表した。

 光なら水を挟むだけで簡単にずらすことができる。理科の勉強がこんな所で役立つとは…

 

「ファイヤーボール」


 俺の発動した魔法が青い火の玉を20個出現させる。すべて直径1メートルほどの大火球だ。

 時間をずらして発射された火球をウルフはきれいな動きで避け続け、最後の3発ほどしか当たらなかった。


「すごいな…これなら!?」


 あまりの芸当に惚れ惚れとしつつも攻撃を手を緩める訳にはいかない。

 レナがここぞという一撃を狙っているのだ。

 今度発動した魔法はさきほどと同じ火球だが、数は5つと少なかった。

 同じように時間差で発射した火球をウルフは簡単に避ける。5つ目の火球を避けたと同時に俺にレーザーを発射しようとしていた。

 そこへ殺到する5つの火球。完全な不意打ちでウルフは全弾直撃した。

 

「ホーミング魔法は気に入ってもらえたかな?」


 俺がそんなことを言っている間にレナが再度転瞬斬でウルフに攻撃をした。

 再度ふっ飛ばされたウルフだが、今回はすぐ起き上がることができなかった。


「ふう…やっぱ強いね」


「だな」


 今までで一番の強敵。怪我を負ったのなんて今回が初めてだ。

 起き上がったウルフが口を開いた。


「ビームか!?」


 俺とレナの前に急いで水を張り攻撃に備える。

 だがその後にきた攻撃は予想外の一発だった。


ピカーン!


 目を開けていられない光量。

 俺とレナはなすすべなく目を封じられた。


「ッチ!フラッシュかよ」


 目を開けた頃には俺の前数メートルほどまでウルフが迫っていた。

 レナに目配せをして最後の魔法を組み上げる。

 俺の体をウルフが一瞬で噛み砕く…がその途端俺の体は水となって消える。


「発動していたミラージュだよ、それは」


 レナが隙だらけのウルフに会心の一撃を与え俺がさらにメテオを何発もぶち当てる。

 落ちてきたウルフは立とうと足掻いているが、その隙にまたもレナが攻撃を与える。

 その攻撃でとうとう光となってきたウルフを俺たちは瞬きもせず見続けた。

 死が確定したウルフはどこか誇らしげな様子に見えた。

 光の粒となって四散したウルフに敬意を払いつつ、ドロップ品を拾う。


「ん…狼の心?」


 落ちたのは指輪型の装備品で綺麗な魔法石もついていた。

 

「きれいな指輪…思い出の品だね」


 初めて俺たちに傷を負わした狼。

 たしかに思い出になりそうだ…

 先へ進むため二人で魔法陣へと入り次のフロアを目指した。


「「…ん?」」


 両方が同じ疑問をもった。つまり…「ここどこ?」と。

 普通なら広大なダンジョンがあるはずなのに、現在いる部屋はボス部屋の半分もない。

 中央には既に魔法陣が光っていて、その手前には宝箱が置かれている。


「もしかして、クリアかな?」


 レナが言うともっともらしい。いや、どっちも初めてだけどね?

 

「あの宝箱開けてみよう!」


 異世界といえど未だ宝箱は未発見で、ようやく発見した宝箱だ。心がおどる!

 レナも中身が気になるのか俺が開けるのをじれったそうにしている。

 俺が2つついた留め金を外すと、箱が開き中に入っているものが姿を現した。

 まばゆい光を放つそれらの物は、いわゆる「金銀財宝」である。全部で10キログラムはあるだろうか?

 初めて手にした財宝に俺たちは心を弾ませ意気揚々と宿へと戻った。


「ふふ。これで当分のお金は大丈夫そうだね。いくらになるかは分からないけど、クエストの報酬も25000ユールあるし…装備も買えるかな?」


 財務大臣は早速お金の使い道を考えている。俺だけならすぐ使ってしまいそうなものだ。

 あれこれと必要なものを出しあい、リストにまとめていく。

 

「そういえば…これどうする?」


 俺が出したのはウルフのドロップ品だ。魔法石が付いているのだし結構高く売れそうだ。

 

「魔力込めて売る…?でも…」


 レナもどのくらい価値が出るのかわからないのだろう。少し迷っているようだ。もしかしたらすごい装備なのかもしれないし…

 俺はレナが言うように魔力を最大まで込めて指に装備してみた。


ピカーン!


 またもフラッシュのような光に目がくらむ。

 今日はフラッシュ感謝デーかなんかだろうか?

 目の回復した俺達がまず見たのは、辛そうに目を細めている相手の顔と、俺にとっては右側、レナにとっては左側に存在する白いきれいな狼だった。


「ワォォン」


 大きさは1メートルほど。先ほど戦ったハイウルフレイを小さくしたそのまんまである。

 小さくなっても美しい毛並みや威厳は衰えていない。

 確かめてみようとステータスを確認してみると…



名前:(ハイウルフレイ)

召喚者名:レオン・カミシロ

残り発動時間:87599時間



「召喚者名…?」

 

 レナが呆然としている中、少し早く復活した俺は急いで自分のステータスを確認する。



名前:レオン・カミシロ

所持金:0


-職業-


魔法師

スキル:「火・水・風・土・光・闇・雷・空間・回復」魔法


錬金術師

スキル:様々な道具の調合


召喚士

スキル:召喚獣の使役が可能


-称号-


神の魔法師:【知識の上昇】


加護を受けし錬金術師:【調合の効率の上昇】【道具の情報を見られる】


精霊の恩寵:【全能力の上昇】



 うっそ…今度こそ固まってしまう俺。とうとう新しい職を得てしまった!

 レナもまだ戻ってこれないようでただ一匹ウルフだけが毛づくろいをしている。

 5分ほどウルフの毛づくろいを眺め、動けるようになった。


「どうする…?」


「戦力になりそうだし、もっててもいいんじゃない?居るだけでも癒されそう…」


 どこか嬉しそうに語るレナ。まあこいつが残したいなら売る必要もない。

 俺もこの素晴らしい狼を手放すのは惜しい。


「ええっと、名前はウルフでいいのか?」


 俺の言葉が理解できたのか、ウルフは顔を横にふる。

 その様子をみてレナが「かわいい」なんて言ってる。

 

「名前つけるのか?」


 今度は縦にふるウルフ。


「レナ。名前決めてくれ…俺には無理だ」


 俺の言葉に嬉しそうに頷くレナ。それから10分ウンウンと唸りながら考えた末に決まった名前は…


「君の名前はライトだ!レイから光に変換してまたさらに変換だよ」


 理解できたのかそうでないのか。ウルフ…ライトは嬉しそうに吠えていた。

 様子を見に来たプームさんが気絶してしまったのはまた別の話…

玲奈「きれいな指輪…思い出の品だね」

…ここだけ見ると結婚指輪のようだ。

あと戦闘中の連音の性格を注意しようと思います…


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