異世界でもお金は大事
「レナ様に、レオン様ですね。現在の職業は何ですか?」
雛の宿亭から10分ほどにある冒険者ギルド連合。
職を得ようと来たのに、今の職業を聞かれている。
無職、ニート、遊び人?何といえばいいのだろか。
「えっと…冒険者って職業ではないんですか?」
得ている知識は生活に必要なことや簡単なことだけで、詳しいことや必要のないことは一切含まれていない。冒険者の存在がわかっていたのは、ただたんに歴史の1ページとして出てきたからだ。
「冒険者は職業ではありません。また、称号でもありません。言うのなら冒険に関わる職業全般の名称といったところでしょうか」
「そうだったんですか。では私たちはまだまだ無職…?」
「いえ、すでに職業は得ているはずです。精霊の加護でどなたでも2つは絶対ありますよ」
精霊…たしか神の代わりにこの世界を守る奴らか。どこまでもファンタジー一色だ。
「どうやったら調べることができますか?」
「まだ確かめたことがありませんか?それなら魔水晶を持ってきますね」
そう言って受付のお姉さんは奥へと入っていった。
「…どうせならもっと詳しい知識が欲しかったね」
「たしかにな。でも会話や文字が読めるだけでも十分すぎるかとも思う」
数分で戻ってきたお姉さんの手には、占い師の持ってそうな水晶がのっていた。
お姉さんはその水晶を持ったまま、俺達を呼んで隣の部屋へ向かう。
「これが魔水晶です。精霊が与えてくれた天職を神々の窓に反映させる魔法がかかっています。触るだけで天職と、その才能に応じた称号が貰えますよ」
何が何やらさっぱりだ。
「あの、もう少し職業や称号っての教えてもらえません?」
俺の質問にお姉さんは気軽に答えてくれた。
「職業は先ほど言った天職2つと、自分で選べる3職の合計5職を選べます。天職は捨てることができませんが、普通の人よりも比較的簡単に技術を習得出来ます。冒険者の場合残りの3職をどれにするかで戦術や効率、生存率すら変わります。この3職を得るには職業ごとに決まった体験をしなくてはいけません。ほとんどはまだ得る方法が不明となっています」
3職か…天職によってはこれで冒険者用の職を得ないといけないのか。
「次に称号の説明ですが、これも最初に2つ得ることがあります。天職にあった称号を得られますし、その2つは後からでは絶対得ることができません。そしてこちらも合計5つしか得ることができず、職と同じよう慎重に選ばなくてはいけません」
「もし5職を得ている状態や5つの称号を得ている状態で新しいものをとったらどうなるんです?」
「不可能です。5つ得た時点でそれ以上を増やせず、変えたいのであれば神殿で捨てたいものを消すしかありません」
ようやくある程度分かった俺は、お礼を言いさっそく魔水晶を使わせてもらう。
最初は隣でウズウズしているレナからになったが…
レナが魔水晶に触ると、きれいな球状の光が飛び出した。
光球は1メートルほど上昇し、停止したと思ったらすぐさまその形と色が変わった。
「木剣と…杖?」
俺のつぶやきには誰も反応しない。向かいに座っているお姉さんは大きく口を開けて停止している。
茶色い剣と杖に変化した光球はさらに同じ形を保ったまま色、いや…材質を変える。木から銅、銅から鉄へと変わりもとの光球に戻る。
また変化が始まり今度は…浴衣?これもまた材質が変わっていき、3回目の変化で鉄の浴衣というちょっと怖い状態になってから光球に戻った。
「…」
「…?」
「…どうした?」
俺の呼びかけに口を開けたままだった女性は慌てて説明を始める。
あそこまで「心ここにあらず」を表す顔はなかなか見れそうにない。
「あ、す、すみません!ちょっと驚いてしまって…」
良いほうか、悪いほうか。
「最初に出た剣と杖は魔法剣士として才能があることを示します。それに加え変化が3回。つまり3段階ということは剣士としても魔法師としても一流の域にいける才能があることを指します。なんらかの職の3段階の方は年に数名ほどしか出ません。もちろん本人の努力次第ではありますが、ダンジョンに潜ったり世界を歩くのならすぐに才能の片鱗を感じることができるはずです」
魔法剣士か…格好良いな。
「次に2つ目ですが…あれは巫女という職業で回復系統の魔法が使用出来る職業です。魔法師の方の中にはもともと回復魔法を覚えている方もいらっしゃいますので、もしかしたら戦ってる最中はそちらの魔法を使うことになるはずです。効果は高いのですが少し発動まで時間を必要としますので…」
説明を終えたようなので、早速俺も魔水晶に触れる。
同じように光球が飛び出し、形を変え始める。
「杖か!」
良かった…お荷物にはならなくてすみそうだ。
俺がそんな感傷に浸っていると、さらに杖の材質が変化していた。
木から銅へ、鉄、銀、金、宝石、最後は宝石が虹色に光り出した。
光球はそこで変化をやめ、次に変化したのは…丸い物体だった。
丸い物体は5段階、つまり金色にまで変化して光球に戻った。
7段階と5段階か…さっきのレナは3段階だったのになぜ俺はここまで多いのだろう。
「…」
再度「心ここにあらず」顔のお姉さんを見ることができた。
この人の将来が不安だ…そんな顔見せてたらお嫁に行けませんよ?
「あのー、またですか?」
「す、すみません!」
謝りはしたもののまだ説明はできないようだ。
それから30秒ほど彼女は何もしゃべらず、こちらも喋ることができなかった。
「杖は…魔法師を表します。段階は7でしたが現在確認されているのが3段階までのためどれほどのものかまでは説明出来ません。あの1つのほうですが、あれは確か錬金術師だと思います。賢者の石を真似て分かりづらい形をしていますが間違いありません」
詳しくは神々の窓を見てくれとのことなので、俺達は早速確認をする。
それならそうと早く言ってほしいものだ。
名前:レオン・カミシロ
所持金:0
-職業-
魔法師
スキル:「火・水・風・土・光・闇・雷・空間・回復」魔法
錬金術師
スキル:様々な道具の調合
-称号-
神の魔法師:【知識の上昇】
加護を受けし錬金術師:【調合の効率の上昇】【道具の情報を見られる】
精霊の恩寵:【全能力の上昇】
名前:レナ・タカナシ
所持金:0
-職業-
魔法剣士
スキル:「火・水・風・土」魔法
巫女
スキル:「回復」魔法
-称号-
天才魔法剣士:【力の上昇】【知識の上昇】
天才巫女:【知識の上昇】
「どうですか?」
どうって…何なのよ「天才」とか「加護を受けし」…とか。それに「神」って…
もう恥ずかしくて街を歩けない!
「えっと、俺称号が3つあるんですけど?」
「称号が最初に3つあるからもいらっしゃいますよ。種族や身分によって得るものもありますので」
そうですか。そう言ったはいいが「精霊の恩寵」って…俺まさかの人外?精霊に友達も知り合いもいませんよ。
その後色々なものを紙に書いていき、登録を済ませる。
ダンジョンに二人行くのならギルドに入るか作らないといけないようなので二人で作ることにした。
ギルド:ファイン
ギルドマスター:レオン・カミシロ
ギルドメンバー:レナ・タカナシ
二人…ッフ。いつか大きくしたら面白そうだ。
ファインにしたのは単なる言葉遊びで「いせかい」を「かいせい」にして英語に変換。つまり「Fine」をカタカナで「ファイン」にしただけだ。
色々お世話になった受付嬢に挨拶をしてギルド連合をでる。
能力などについては情報を公開することがないというメルさんを信じるしかない。
それに今の問題は別にある。
「なあレナ、お金どっちも0だったぞ?」
神々の窓…ステータスを見た時気づいたが、俺達はどっちも金がないのである。
宿の宿泊が結構あるが、それでもたった10日ほどだ。
「ダンジョンに潜るか、依頼だね」
「依頼か…街すら分からん俺達にはまだ無理だろ。ダンジョンしかないか?」
俺の答えにレナはなぜか嬉しそうだ。
ダンジョンに入りたいのだろうか?
ダンジョンか街の外でならモンスターを狩って道具を得ることができる。
それを売りさばいて金を得るのだが、危険がともなうのも事実。
なぜここまで嬉しそうなのかが分からない…
「じゃあダンジョンだね!明日早速行こうか」
やっぱりか…
装備なし、道具なし、経験なしの俺たちが狩れるのか心配だ。
あるのなんてメルさんを「心ここにあらず」顔にするほどの才能だけだ。




