ルーキー
「対戦相手は『カグツチ騎士団』だって!!」
「ん、聞いたことなんだが…」
「この前話した予選ギルドの名前だよ。剣士が多くて、中には魔法剣士もいるんだって」
三回戦は一対一の戦いで、最高で5人が戦うらしい。どちらのギルドにもメンバーが5人いれば、5回戦で行うのだが、俺達のように5人に満たないギルドがやるときは少ないギルドに勝負数を合わせる。俺たちの場合は二人しかいないため、3回戦ルールとなる。二勝すればいいのだが、もしどちらかが負けて一勝一敗になったときは、勝ったほうが三回戦に出る。もちろん相手は別の人でも良い。
こんなルールであるため、出る順番は大切なのだが、こちらは二人しかいないためどっちが先に行こうが変わらない。他のギルドの場合なら相手を考えて出るメンバーを決めるはずだ。
「レナは先がいいか?それとも俺が先行こうか?」
「うーん、レオンが先行ってくれるとうれしいな」
うーん…負けられないね。
三回戦の会場へ行くための魔法陣に入り、結界の中へと入る。
三回戦の会場は一辺50メートルの正方形。お互いは30メートル以上離れてスタートしなくてはならず、魔法師ならギリギリまで後ろへ下がるのがセオリーだ。
わざわざ注目をあびるのもなんなので、セオリー通りめいいっぱい後ろに下がり、相手との距離を稼ぐ。相手は最初に移動できるギリギリのラインまで前に来てるのでだいたい40メートルほどしか離れていない。
「貴方がファインのマスターですか?」
対戦相手、名の知らぬイケメンさんから声をかけられる。僻むわけではないが、銀髪に長身、細いけれど筋肉がついてるのが分かる体つき、どこからどうみてもイケメンさんだ。
「マスターのレオンです。貴方の名前は?」
名を聞くのなら自分から名乗れ、とも思ったのだがこの世界で通用するかわからないので今回はボツ。
「私はカグツチ騎士団のマスター、バレンです。同じルーキーですのでお手柔らかにおねがいしますね」
微笑みながら言ってくるイケメ…バレンさん。物腰は優しいがどこにも隙がないあたり経験は積んでいるのだろう。
「こちらこそ…楽しんでできるといいですね」
「三回戦第13戦目ファイン、レオン対カグツチ騎士団、バレンの戦いです」
開始の合図とともに身体強化を施し、足留め用の魔法を発動する。
使ったのは水魔法と火の魔法。今回は爆発するほどの威力は出さず、霧を作るためだけに発動した。
「霧…それに私の所だけに集めるとは、面倒なことをしてくれます」
あらら…ばれてしまってるね。生み出した霧は風魔法でコントロールし俺の周りには一切ない。逆にバレンさんの周りには一メートル先も見れないであろう濃い霧が立ち込める。自分の周りに集まったと分かったのは俺の足音でためらいがないことに気づいたのだろう。
「斬られるのは怖いですからね、サクッと終わらせてもらいますよ」
生み出すのは土でできた槍。それに火属性を付加しバレンさんに向けて放つ。
高速で放たれた槍は霧を貫き見えなくなる。普通なら霧がなくてもあの速度の槍を避けるのは難しい。だが槍の当たった気配はなく、静寂が訪れる。
魔力を感じ、危険だと思った時には既に横に飛んでいた。ボス戦でも同じ感覚を味わったことがあるのだ、直感を信じないなんて選択はなかった。そして直感に従って良かったと安堵する。俺のいた場所には先ほど放ったはずの槍が刺さっていたのだから。
「今のを避けましたか。魔法師の動きじゃないような気がしますね」
「…バレンさんも人のことを言えない気がしますよ。風魔法、使えたんですか」
俺の操っていた霧はバレンさんの生み出した風により霧散していた。魔法剣士か…レナとどっちが強いだろうか?
俺の疑問をよそに、バレンさんは疾風のような速さで俺の前に踊りでる。風魔法でも付加しているのだろうか。
「ッセイ!」
俺の胸に向かって突きが放たれる。その動きに無駄はなく、剣士としても一流であることが分かる。
「斬られるのは嫌ですよ!!」
風魔法を自分に向かって放ち突きから逃れるように後ろに下がる。突きのほうが速く、このままいけば斬られてしまうだろう。ただし、剣先が届くかどうかは分からないが。
風魔法と同時にバレンさんの背後に木魔法を使って蔦を出現させる。その蔦でバレンさんの体を拘束し威力を弱める。即席の蔦だけではバレンさんの威力を完全に止めることができなかったが、あとは自分で止めるだけで十分だ。
「本当に…魔法師とは思えませんね」
バレンさんが台詞とは裏腹に、どこか楽しそうな声で告げる。
俺の手には止まった剣先が挟まれている。所謂真剣白刃取り…。もちろん突きであったために形は少しおかしいが似たようなものだ。
止められたと分かったと同時にバレンが蛇のような動きで斬撃を繰り出してきた。
右、左、蹴り、突き、右。
体全てを使った攻撃をギリギリの瞬間でかわしていく。身体強化がなければ既にみじん切りされてもおかしくない。
「…仕方ありませんね」
「?」
大きな蹴りを放ったと同時にバレンさんの魔法が発動する。
「カーテン!?」
俺を囲むように放たれた魔法…それはまさにカーテンの如く俺を纏う。
炎を風で操り俺を囲むように円状になる。炎の壁で逃げるのもままならない。逃げた所で出た瞬間斬られるのが落ちだ。
「魔法剣士と魔法師の格の違いを見せてあげようか!」
今大会初めて感じた高揚感を胸に、最大級の魔法を発動する。
「エレメンタルマジック!」
四属性全てを使う俺だけの魔法。空を火と風で、地面を水と土で支配する。全ては俺の思うままに、天国と地獄の領域に分けられる。
「全属性魔法…!!」
俺の攻撃に離れれば良いと思ったのか、バレンさんは魔法を駆使して大きく後ろに下がる。
一瞬で数十メートルの差が開き、俺の魔法の範囲外で出る。…今だけは。
普通の魔法師ならこんな大魔法を発動と同時に間力の枯渇で気絶だろう。だが俺が普通じゃないのはこれから起こる魔法によって証明された…。
「ここまで範囲を出せるのか!?」
最初は10メートルほどの範囲でしなかった魔法は、バレンさんを追うように拡大しフィールド全域を支配する。
支配された空間によってバレンさんの周りには風が吹き荒れ炎が燃え盛る。足元には沼が生まれ逃げることもできない。そのままバレンさんは5秒ほど耐え抜き、気絶した。
「っしょ、勝者、レオン!!」
アナウンスと同時に俺は控え室へ飛ばされ代わりにレナがフィールドへ入る。
レナの相手は見るからに力のありそうな男だ。
試合開始の合図がなっても、二人は動かず相手の隙を伺っている。
先に動いたのはレナだった。身体強化に加え風魔法でも使っているのだろう、先ほどのバレンと同じ…もしかしたらそれ以上の速度で相手を斬りつける。
相手はその一撃をかわすこと無く、真正面から受け止め…そのまま流した。
「おお…あの姿で細かな技…。素晴らしいギルドだ」
俺の呟きをよそに筋肉さんは攻撃で腕の伸びているレナに蹴りを放つ。当たれば場外は確実だと思ったが、レナは慌てずにその攻撃を魔法で体を飛ばすことでかわす。
その後も両者少しずつダメージを負いながら数分が経過する。どちらも体中に細かい傷ができているが大きな怪我はない。
今度もまた、レナが攻撃を仕掛けた。先ほどとは違い身体強化だけの斬撃、もちろん相手はそれを軽々とよけ隙だらけのレナに斬撃を放つ。それを狙っていたのか、レナが風魔法で体勢を整え正面から迎え撃つ。そしてレナは、その攻撃をさきほどの男のように流してみせた。
「才能か…」
レナは容赦なく筋肉さんに転瞬斬を使い勝負を決めた。
戻ってきたレナは落ち着いていて、息も上がっていない。
「お疲れ。魔法で攻撃しなかったのはどうしてだ?」
そう…今回の戦いでレナは魔法での攻撃をほとんどしていないのだ。魔法剣士は魔法を使ってこそ最大の力を発揮できる。遠距離攻撃のない剣士の弱点を補う、魔法を使ってこその戦い方が必要なのだ。
「魔法を使えば簡単だと思ったんだけど、やっぱ剣技って使わないと覚えられないから…魔法を抑えて技だけで勝ちたかったの」
「それであの流し技か…。まあ勝ったし、格好良かった」
俺の言葉に嬉しそうに笑いながらも、少し拗ねたような顔でレナが言う。
「格好良いよりも、綺麗って言ってほしいな」
天使の微笑みでレナが言うのだが、俺の心はここにあらず…。
どう返せばいいのか、俺はただただ笑うことしかできなかった。
誤字脱字ありましたらご指摘ください。
テスト勉強の合間に少しずつ書いていたやつです。




