ギルド戦開幕
いきなり大会への出場が決まった俺達は、何の対策もできず本番を迎えた。
大会のおおまかなルールとしては全96チーム出場で負けたら終了。一回戦は一度に3チームで戦いその中の1チームだけが二回戦に進める。残った32チームで二回戦を行い、こちらは一度に2チームで戦う。ここでも勝ったチームが最後のトーナメント戦へ出場することができ、勝ち抜けば念願の優勝となる。優勝チームには賞金として125000ユールが支払われ、2位と3位はそれぞれ100000ユールと75000ユールが支払われるらしい。
「…レナ、本当に優勝を狙うのか?」
もう何十回目の確認。そして何十回目の…
「うん。どうせいつかは有名になるだろうし…早いか遅いかの違いだよ」
「それはそうだけどさ…」
「ほら、一回戦が始まるよ?」
一回戦は3チームによるバトルロワイヤル。残った一人の所属するチームが勝利となる。1チームから出場できるのは3人。戦闘場所はランダムで、魔法で作られた結界の中で戦うらしい。この結界がなんとも便利で、中で怪我しようが何しようが結界から出れば治るらしい。それはつまり相手を殺しても大丈夫ということで、大会中は結界の中で何人も死ぬらしい。
結界内で行われる戦闘は王都の中央広場にある巨大水晶で中継し、勝ち残ったギルドは名声を得られ、ギルド連合はより信用を得ることができる。
「一回戦第24戦目ファイン・ネルトト・エイエンマホウの戦いです」
実況による案内の後、魔法による爆音で戦闘が開始される。俺達は二人だが他のチームはやはり3名揃えている。ネルトトは俺達の同じB級でエイエンマホウはA級らしい。ネルトトの方は分からないが、エイエンマホウは魔法師特化のギルドだろう。そうじゃなかったら名前変更の抗議を出すつもりだ。
「私がネルトトの方行くから、レオンはエンマの方お願い」
エンマ?ああ、エイエンマホウか。略すのはいいと思うがよりによって怖い略称をつけるのはどうかと思う。
「終わったら一応行くよ。がんばれよ」
お互い相手のスタート地点へと直線ルートで向かう。今回のフィールドは岩ステージと言われているもので、そこらかしこに巨大な岩が置かれている。その岩の上を俺たちは走っていったのだ。
「ミーティアストリーム!」
メテオストリームとは違い小さいものを数十倍の数で発射する魔法。威力は小さくなるが数がたくさん出せるため広範囲攻撃に特化している。
「ッ!?水よ!!」
相手の一人が居れの攻撃に反応し水の防御魔法を展開する。それによってやるべきことを思い出したのか他の二人も魔法を発動する。
「ファイヤーランス」
「アップドラフト!」
俺の攻撃は水魔法によって威力が下がり、当たっても打撲程度にしかならない威力へと変わる。それを残った二人が火と風の魔法で迎撃する。無駄のない連携、A級ギルドは伊達じゃないということか。だけど俺だって伊達に速攻でB級に上がったわけではない。
「ミーティアストリーム!(ポイズンボグ!)」
先ほどと同じ魔法を発動しながら無詠唱で新たな魔法を発動する。別にもともと言葉を言う必要がないので特別というわけではない。ただやはり、言葉による想像力の増加?ができないのか魔力の消費が多くなるのは事実だ。まあ俺の魔力保有量から見れば微々たるものだ。
降り注ぐ流星群を同じように防ぐエンマの3人。だが上へ関心を向けたせいで足元が疎かになっている。その足元が毒沼へと変わっていることも知らずに…
「…やってくれたな」
リーダー(反応が早いので勝手に判断)が足元の変化に気づき俺を睨みつけてきた。他の二人は既に沼に付加した麻痺毒で喋れる状態ではないようだ。
「よく喋れるね?一応動けなくなる毒を付加したつもりだったけど…」
「毒抵抗の付加がかかったローブだからね。少し痺れてるだけでも相当驚いてるよ?」
「そうか。でも話してていいのか?もう太ももまで沈んでるぞ」
「問題ないよ…ウォーターボール!」
リーダーの言葉と同時に俺の前に直径一メートルほどの水の玉が作られる。
だが俺に向かって発射されることはなくただ浮かんでいるだけだ」
「ファインさんだっけ?悪いけどA級として負けるわけにはいかないんだよ」
そう言って何かをたくさん投げるリーダー。あれは…鉄球?
直径1センチメートルほどの鉄球達が水の玉に近づいていく。
「ヒート…エクスプローション」
投げた鉄球が溶けるほど熱している。高温になった鉄球は水の中に突入し…
ドカーン!!
目の前でいきなり爆発が生じる。周りにあった鉄球もそれによって高速で飛ばされ幾つかが俺の方へと飛んでくる。
「…ブースト」
無属性魔法を体にまとい身体能力を強化する。飛んでくる鉄球を避けずに爆風にだけ耐える。
「…水蒸気爆発かな?」
勝ったと思っていたのだろう、リーダーは俺の全く傷のない姿をみて唖然としている。まああそこまで威力のある魔法を放ったのだから気持ちもわからなくもないが…
「ど、どうして!?」
「別に体を強化しただけだ。それで水蒸気爆発で終わり?」
俺の言葉を理解できないのかずっと「ありえない…化物だ」などとつぶやいている。さすがに化物呼ばわりはひどいじゃないか?
「…サンダー」
わざと毒沼に弱め雷を落とし少しずつダメージを与えていく。我ながらこの攻撃は化物のようだと思ったり…。
数秒でダウンした相手を確認し、そのとなりで一緒に食らっていた仲間をみて悪いことをしたと心のなかで謝る。
レナは既に倒し終わっていたのか敵が気絶したのと同時に試合終了の鐘がなる。
結界から出され、選手控室へと飛ばされる。
「ん、レオンは手こずったみたいだね?」
「流星群を止められたよ。それに水蒸気爆発も使ってきた」
「…それはまた相手もすごいね」
「そっちはどうだったんだ?」
「一瞬だったぞ。ファイヤーボールを反対側から発射して注意を向けた後突撃する…簡単ながらも引っかかりやすい良い作戦だ」
ん、今のはレナじゃない。というより男の声だし。
「誰だ?」
「俺はウルフェン。狼の牙のマスターだ」
狼の牙…?ああ、ベルメトのダンジョンの時のギルドか。だが俺達はあそこで会ってないし知られてるはずがないんだが…
「俺はレオンだ。それで、何の用だ?」
俺の素っ気無い声に気づかないふりをしながらウルフェンはしゃべりだす。
「知ってるよ…レオンと、レナさんだっけ?最近名を上げてきたルーキー。聞いた話じゃ俺達の狙っていたベルメトダンジョンをクリアしたそうじゃないか?」
街の人間に聞いたのか…まさかメルさんってのはないだろうし。
それよりもなぜ話しかけてきた?今更先を越された恨みを晴らすってわけでもなさそうし…
「…クリアはしたな。あんたらも20Fまで言ってたんだろ」
「まあな。後3日ほどで挑戦するつもりだったが…ボスは強かったか?」
「ボスは光属性だったよ。19Fの2・3倍といったところかな」
「…そんなに強いのか。挑戦しなくてよかったのかもしれないな。まあ…今回の大会でお前たちと戦えば腕試しにもなる。負けずに勝ち上がってきてくれよ」
そう言って返事を待たずにどっかへ行くウルフェン。結局何をしにきたのだろうか?
「何だったのかな?」
「分からんな…次の試合を見ながら飯でも食うか」
頷いたレナに何を食いたいか聞き、レナが食べたいというケーキのようなお菓子を食べに行く。これでは昼食というよりデザートじゃないか。
俺達の後に始まった戦闘は密林ステージだった。全員B級とのことだったが、剣の腕も魔法の腕も素晴らしく見応えのある試合だった。その後は特にこれといった戦法もでず3日続いた一回戦も幕を閉じた。
残ったチームは32。A級が2チーム残っており、B級が28チーム、ギルド選抜と予選代表が各1チームずつ残っているそうだ。どのギルドも俺達のように二人しかいないなどという恥ずかしいような誇らしいような(少なくても勝てたから)ことを味わったギルドはいないらしい。というよりそれのせいで変に注目が集まり街を歩き辛い…。
「2戦目は明日だっけ?今度は初日か…」
「まあ2日連続だけどそこまで疲れてないし、いざとなったらライトも召喚すれば楽だよ」
大会を十分に楽しんでいるレナ。嫌々ながらも昔は注目をずっと浴び続けていたのだから周りの視線など今は気にならないのだろう。だがそんなことを味わったことのない俺には辛い1日となった。
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