音
たった、数センチ。数センチ。たった、数センチ。たった、少し。少しだけ。少し。コインをはじく。その程度。その程度の力で。その程度の力を、指先に、こめる。少しだけ。ほんの、少し。その少しで、俺は人の命を、奪った。
がちがちガチ。この音は、なんだ。耳を済ませてみる。自分の歯がなっている音だ。電気を消して居る。音が聞こえる。いろんな音。俺の汗が、床に落ちる音。俺の歯の音。俺の呼吸の音。俺の服が擦れる音。俺が出してる音ばかりだ。
本当に、そうか?俺しかいないのか?この部屋には、本当に俺しかいないのか?
辺りを見渡してみる。髪が、俺の耳を撫でる。音がする。俺の音がする。人の生きている音。人。
そう、俺は人を殺した。たった数センチ、指を動かして。たった少しの力を指先に入れただけで。それだけで、人が死んだ。たったそれだけで、俺は犯罪者。
つばを飲み込む。音だ。音が。音が恐い。いつか来る。いつか、俺は終わる。俺を捕まえに、誰かが来る。動かなきゃ。でも、動いたら、音がする。
それが怖い。それが。それが。音。そうだ、俺は音が怖いんだ。音が怖い。それだけ。それだけ。俺は音が怖いだけ。だから、平気だ。俺は音が怖い。それでいいじゃないか。忘れよう。俺は何にも怯えていない。音におびえているだけ。俺を追いかけてくる人なんか、居ない。俺は俺の音が怖いだけ。そうだろ。それでいいだろ。それだけで、良いだろ。
俺は、何も悪くない。すべては、この音が悪い。そうだろ。
応えないはずの黒い冷たい塊に、俺は人差し指を添えた。
クロクロクロック、面白かったです。拳銃物の小説をマジで書いてみたくなりました。