第1泳 不死の男と鬼冴三家の食卓
第3章、カッパ×マーメイド開始です。何が出てくるのかは、タイトルで一目瞭然ですが、最後までお楽しみいただければ光栄です。
「ご飯出来ました」
下の階で、メイが僕達を呼んだ。下の階からいい匂いが漂ってくる。月曜日、メイを姉達は簡単に受け入れてしまい、と、いうわけでメイは僕の家に居候している。
メイは料理がうまいので羽津花姉はえらく気に入っている。
ちなみにウィンドの事や僕の体の事は鬼冴三姉妹には教えていない。姉と妹はあくまでメイを「普通の女の子」として見ており、メイが本当は死神を、クビになった女の子だとは知らない。
「おーぅおーぅ。美味そうだねぇ。相変わらずメイは飯が上手いなー」
はっはっはーと笑いながらメイの頭を撫でる羽津花姉。
「わぁ~お! いっただっきまぁーす!」
何時の間に席についていたのか、以津花は手を合わせて元気よくそう言うとガツガツと食事を始めた。
「さて、僕もいただきます」
僕は自分の席について、目についた唐揚げを口に入れる。うん。美味い。
「お前の飯は相変わらず美味いな」
月曜日から今日までの夕飯が楽しみにしながら帰ったものだ。
「ありがとうございます。さて、いただきます」
僕の隣のイスを移動させて僕にイスを近付けて座るメイ。近過ぎだ。
「オイ……離れろよ。食べにくいだろうが」
「いえ。別に私は平気ですけど」
「僕が平気じゃないんだよ!」
いろいろな意味で!僕ももう高校生だからそれだけでお前が僕の事を好きなんて勘違いはしないけど!
「おーぅおーぅ。仲がいいねぇお二人さん」
「ひゅーぅひゅーぅ♪」
はやしたてる姉と妹。まったくこの姉妹は……
黙々とご飯を食べていた僕達だが、以津花が何かを思い出したように顔を上げた。
「あ、そうだ、お姉ちゃん、明日ちゃんと山に連れて行ってよ」
ご飯を飲み込んで以津花は羽津花姉に向かって言った。ああ、そういや、友達と山に行くとかなんとか。
「ん。わかった。で、一緒に行く友達って誰なんだー? 彼氏かー?」
にやにやと笑いながら以津花のほっぺをつつく羽津花姉。どうしてその方向に持って行きたがるんだ。
「ちがうよー、人美ちゃんとだよ」
人美……ああ。魚住人美か。仲がいいもんな。
少し前に、僕は妹の以津花にほぼ強制的にその、魚住人美が出場する水泳大会の応援に連れて行かれた。魚住は見事に県大会で優勝していた。まるで人魚のように華麗に泳ぎ、他の選手を圧倒していた。全国優勝できるんじゃないかと僕は思ったが、既に優勝済みらしい。末恐ろしい中学二年生。魚住は昔からウチにもよく遊びに来て、僕ともある程度の面識はある。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんも行こうよ! メイさんも一緒にさ」
「なんで僕とメイをセットにするんだ」
「私と一緒にされるのがそんなに嫌ですか」
メイは素早く僕の首に箸の先端を当てる。……コイツなら、箸を僕の首に突き刺すことぐらい容易に出来るだろう。箸を脅しの道具に使う奴なんて多分お前だけだ。
「すいませんでしたメイさん! とっても嬉かったので照れ隠しです!」
僕が言うと、メイは恥ずかしそうに顔を赤らめながら箸を引っ込めた。やめろ。萌える。
「で、アタシはどっちでもいーんだけど、燈火、お前、行くの?」
「ん……ああ。僕も行くのはいいんだが、明日は須藤と遊ぶ約束がなぁ……」
僕が言い終わると同時に、僕の後ろの窓がガラッと開いた。
「話は聞かせてもらった! 心配するな燈火! そういう事ならオレも一緒に行こう!」
窓を乗り越えて家の中に侵入してくる須藤。ちゃんと靴はぬいでいるところが偉い。
「須藤! 貴様ッ! 何時からそこにいた!?」
「フッ……愚問を……オレは何時でも燈火のそばにいるぞ!」
「恐いことを言うな!」
ニコニコと笑顔で言う須藤だが、コイツなら本当にやりかねん。
「おーぅおーぅ。いいじゃんか。いいよ。アタシが責任もって連れてってやるから」
その言葉を聞いて須藤は眼を輝かせた。
「本当か! ほら、お姉さんの許可も出た。明日はアタシも行くぞ! 燈火!」
正直、須藤と一緒に遊びに行けるのは嬉しいのだけれど……なんかなぁ。嫌な予感しかしないんだよな。
「で、メイ。お前はどうするんだ?」
面白くなさそうにご飯をもくもくと食べているメイに聞いてみる。
「ええ。私もご一緒させていただきます」
視線も表情も変えずにメイは透き通るような声で言った。
よぉし!これで車の中は僕以外女だらけ!ひゃっふぅ!急なカーブでちょっとくらい触っちゃっても怒られないよね!……いや。メイにやったら殺されるか。車ごと一刀両断だな。気を付けよう。ちなみに、僕の車は6人まで乗れる。
「よし! そういう事なら、オレは家に帰って準備をしてくる! ……で、何時ごろにここにこればいいんだ?」
「ん……おお。9時だっけ?」
羽津花姉に聞いてみる。
「んー。おーぅ。まぁ、そんな感じでいいんじゃね?」
すげー適当だな。羽津花姉。
「では、明日のお弁当は任せてください」
メイが自分の茶碗を持って立ち上がる。ああ。僕らが話している最中もコイツ食べてたからな。僕らより食べ終わるのが早くてもおかしくはない。
「じゃ! オレはこれで!」
軽く手を振って須藤は窓から外に飛び出た。 そのままシュタタッと走り去っていった。アイツは忍者かよ。闇に消えていく須藤の後ろ姿を見つめながら僕は思った。