第3死 暴力娘と死神娘
「なるほど、大体わかりました。面倒くさいですね。これでは私はどうやって仕事を果たせばいいのでしょうか」
「ふぅむ。あの時オレが見た力は、そういう事だったのか。なるほど、いまだに信じられないが、先日の事を考えれば納得するしかねぇわな」
あの後、すぐに須藤が来て戦闘は中断。須藤を家に上げたのだが、何故か死神も一緒に上り込んできたのである。一つの屋根の下に、男一人と女三人。なんか興奮する。ついでにと言うことで、須藤とメイに僕の体について話して、今やっと、説明が終わったところである。
「いやー。驚いたぜ。まさか、そんな非日常的なことが本当にあるとはなぁ!」
「全くです」
「いや、オレから見たら死神のアンタも非日常的なんだけどな」
「あら、そうでしたか」
僕の部屋で熱いお茶をすすりながらまったりとくつろぐメイと須藤。ついでにベッドの上でチョコを再度食べ始めたウィンド。さっきまで殺し合いをしていた相手の家でゆっくりとくつろげるのかお前は。
「しかし、本当に不死なんですかねぇ。どれ、一回即死させてみますか」
お茶を置いてすくっと立ち上がりメイは鎌を構えた。
「ちょいさ」
破れた衣服をどうしようか迷っている僕の背後から、気の抜けた掛け声と共に僕の頭を両断した。上顎と下顎が分かれる。ウィンドが驚いたような顔をして、大好きなチョコレートをほおり投げて僕の体に飛び込んできた。
一瞬、意識と思考が途切れるが、どうやら僕の頭は無事に再生したらしい。
『なんてことをするのだ。危ない娘だのう。わらわが憑依しとらんかったら、お主は死んどったぞ』
――え?マジで。不死身なんじゃないのこの体?
『いやの。わらわが力を貸しとらん時のお主の回復力では頭を斬り落とされるクラスの致命傷だと、致命傷を回復しきる前に絶命しておる程度の回復力なのでのう。死ぬまでの時間が少しばかり長いだけだ。……そうだのう。後30秒遅かったらやばかったかのう』
『だからの、お主はわらわが憑依しとらん時でも不死身を装って彼女に対応しろ。そうでなければ、寝込みをざっくりといかれるかもしれん』
確かにそれはやばいな。一度寝たら永遠の眠りなんて嫌だ。
「うわぁ……嫌なものを見てしまったような気がするなぁ……」
顔を抑えながらうめく須藤。確かに、僕でも嫌だ。
「あれま。確かに、死にませんね。さて、どうしましょうか。とりあえず、私は地区長に報告をしなければならないので、これで」そういうと、メイは鎌を担いで階段を下りて行った。
「なんだったんだアイツは……」
ドアを見つめる僕。いや。実際殺されかけたんだが。一方、ウィンドはいつの間にか僕の体から抜け出して、最後のチョコの最後の一口を食べ終えたところだった。
「ふむ。コレでわかったな」
須藤が腕組みをしながら言った。オイ。胸の下で腕を組むな。その凶悪な胸が強調されてとんでもないことになる。
「なにがだよ」
冷静を装って返答するが、実際は結構ドキドキしている。視線が胸からはなせない。あそこには男の夢と欲望と煩悩が詰まっているのだろう。
「いやな。オレはお前に本気を出してもいいということを」
「何で僕に本気を出すんだよ!」
「殺す心配がないからな!」
「そうじゃねえ!」
「ならどうなんだよ」
「いや、僕が訊いてるのはお前が僕に本気を出す機会がいつあるんだということだ。お前とガチ喧嘩をするときもないだろう」
「いや、オレがお前を押し倒す時とか?」
む。この流れはマズい。この方向に話が流れたら戻ってこられなくなる。須藤が。
「やめてくれ」
「む。そうかあ?おや!なんだ。ベッドが用意してあるなんで、案外燈火もノリノリじゃねぇか!」
どうしてそうなった!さっきからずっとそこにあるわ!
須藤は笑いながら僕を掴むとベッドに軽々とほおり投げた。
「げふっ!」
「ぐふっ!」
二つの声が響き渡る。須藤も、これはしまったと言う顔をした。須藤は、ベッドで横になっていたウィンドの上に僕を投げてしまったのだ。布団にくるまっていたため、存在を認識できなかったのだろう。
「何をするのだこの愚か者!」
ウィンドは布団から勢いよく飛び出すと、手のひらからスイカほどの大きさの火球を僕の顔面めがけて投げつけた。当然、あまりにも唐突すぎて僕は反応できず。顔にモロに食らってしまった。
「あっつっッ!!クソ熱い!……って、ほどでもないぞ」
確かに熱いのだが、この熱さは炎の熱さというよりは、熱湯のような、熱いけれど我慢の効く領域みたいな、そんな感じだった。
「当たり前だ。炎の鳥、フェニックスが炎に弱くてどうする」
ウィンドは不機嫌そうにクローゼットを開けると、適当な防寒具を数枚取り出して地面にばらまいた。その上に丸くなってねっ転がって、ネックウォーマーを上からかぶる。全部僕サイズなので、ウィンドにとっては十分な大きさだった。スグにすやすやと気持ちよさそうな寝息を立てて、ウィンドは寝てしまった。
「自分勝手な不死鳥様で……」
安堵していると、隙をついて須藤が、上から圧し掛かってきた。
「なかなか気の利く奴だなぁ! アイツは! ベッドを空けてくれたぞ!」
器用に僕の腕を足でからめ取って、ズボンのベルトを外しにかかる須藤。
「ぎゃーっ! わーっ!」
必死に抵抗するが、さすが最強の女。押さえつける力が半端じゃない。まともに抵抗すら出来ない。あ……でもいい匂い。肌もやわらかいし。なんかこのままでも――よくない!
時刻は夕方6時。まずい。本当にマズい。そろそろ、妹の帰ってくる時間だ。この状況をなんて説明すればいいんだ!
「お兄ちゃん――何やってるの?」
妹が、空いたままのドアからこちらを見ていた。
「以津花――!ちがうんだ!これにはわけが……」
「以津花ちゃんか! イイ名前だ! どうだっ!オレと以津花ちゃんのお兄ちゃんと三人で一緒にやらないか!?」
「うるさい! 話をややこしくするな! 元はと言えばお前の所為だろうが!」
「おーおー。何やってるんだい。ハハァン。若いねぇ」
いつの間にか、妹に加えて僕の姉、羽津花も見学に加わっていた。お前まだ20代だろうが!充分若いわ!おばさんくさいを通り越しておっさんだぞ!
「どれ、アタシも……」
上着を脱ぎ始める羽津花。ウチの姉はこういうノリが大好きすぎて大変だ。なんというか、須藤と気がすごく会いそうで怖い。そして須藤!この状況で先ほどと変わらぬ力で僕を脱がそうとする精神は尊敬するが!
「いい加減にやめろぉぉ!」
「うるさい! 黙れ! もう少しなんだ!」
「何がだ!?」
「おねーちゃん、邪魔みたいだから下いこ!」
「あー。そうだねぇ。じゃあ、終わったら飯食いにきなよ?」
階段を下りていく姉妹。
「まってくれ! 僕を一人にしないで! 逃げられないんだコイツから!」
「とったどー!」
「うぎゃああああああ!」
ベルトを握り締めて叫ぶ須藤の声と、ベルトを奪い取られて悲鳴を上げる僕の声が、家中に響き渡った。
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さて、次の日。
僕は学校を終えて、また今日も須藤と遊ぶ約束をして家に戻った。
ドアを閉めると同時に、聞き覚えのあるチャイムの連打音。ドアを開けると、そこには昨日と同じように、鎌を持った死神が立っていた。
「……今度は何の用だよ。天国観光ツアーの勧誘ならお断りだぜ」
「いえ、私、あなたの魂を回収できなかったので、死神をクビになってしまいました」
メイは表情を変えずにいった。なんか、ごめんね。不死身で。てか、死神って職業なんだ。
「行くあてもないので、しばらくやっかいになります。ふつつかものですがよろしくお願いします」
「他を当たってくれ」
ドアを閉めようとしたとき、彼女は素早くドアの隙間に足を差し込んで、ドアが閉じるのを阻止した。
「私みたいな野良元死神が街をうろうろしていると、妹さん、おうちに首だけで帰ることになるかもしれませんよ」
とんでもない脅しだ。
まったく。僕の周りには、どうしてこんな奴ばっかり集まるのだろうか。僕はメイを部屋にあげて彼女に熱いお茶を出した。
これで第2章 シニガミ×フェニックスはおしまいです。
今回は短めの章でしたが、楽しんでいただければ光栄です。
では、また次章で。よい不死身を。