第1闇 化物と化け物
――龍が直に引いてくれて正直助かった。
大量にダメージを受ける前に龍が消えたため、僕はダメージを翌日へ持ち越すことなく翌日を迎えることが出来た。ウィンドは、そうもいかないが、まあ殆ど回復してきているらしい。明日と言わず、今日の昼には完全回復しているだろう。
何事もなく自分の教室までたどり着くとクラスに違和感を感じた。
――クラスの雰囲気が妙だ。僕が教室に入った瞬間、急に静かになった。しかし、なんだこのデジャヴ。不審に思いながら、しかし友達のいない僕は静かになった理由を聞く事なんて出来ないものだから、顔をしかめながら教室を見回すしかなかった。
六右馬の周りに人が集まっている。サキュバスだから、男子を呼び寄せるのはいいとして、女子もかなりの数いる。
カバンを自分の机の上に投げ捨て、机に伏せて寝るふりをしながら耳を澄ませると、六右馬のすすり泣く声が聞こえてきた。泣いている――いや、これは嘘泣きだ。あくまでも感ではあるが、不死鳥の感はよく当たる。というよりは、第六感が完成している。
感はなんとなくではなく、根拠こそないがそうだと確信できる。
そしてこの何となくする嫌な予感も、結局当たるのだ。
「日曜日――燈火君のうちに行った時、燈火君が、無理やり私を――――」
思わず立ち上がってしまった。
アイツ、何適当な事を言ってんだ!レベルの低いいじめっ子かよ!大体僕のうちにお前が来たのは日曜日じゃなくて金曜日だ!重要なのはそこじゃねーし僕!それ以前に、立場が逆だ!
道理で僕が入った途端教室が静かになるはずだ。強姦魔に対する当然の拒絶反応。これはマズイ。
多少矛盾があっても、サキュバスの能力で虜になった男たちは、六右馬のいう事はすべて信じるだろう。
男子は僕の敵であることは間違いない。そして女子も、僕を庇う事でその男子の攻撃の矛先が自分に向く事を恐れて僕を男子と一緒に攻撃してくることだろう。
ついでにいってしまえば、僕にはこれから始まる地獄の学園生活が、容易に想像できた。これもあくまで感に過ぎないのだが、結局当たるのだ。不死鳥の六感は、完成しているのだから。
六右馬は、僕を見て、にやりと笑った。
舌打ちをして睨み返した途端、僕に衝撃が走った。クラスの中の、リーダー格の男だ。不良とまではいかないが、喧嘩っ早いところがある。そいつが、僕の顔を殴り飛ばした。いつもの僕ならばかわす事も出来ただろう。かわせなくとも当たる直前に殴られることを察知し、多少なりとも身構える事は出来ただろう。
今回は完全に不意打ちだった。予想できなかった。僕は軽く吹き飛ばされ、一人の女生徒の机に飛び込んだ。骨に激痛が走る。が、直にその痛みも引く。
「鬼冴三ィ……てめぇそんな奴だったとはな……」
同情の目を向ける者など誰もいない。当然、本人も誤解だと気付いていない。正義感で動いている彼は、悪いことをしている気分など全くないのだろう。やり返そうかと思ったが、それで面倒なことになっても困る。
どれだけ力が強くても、結局数の力には勝てない。不死鳥は、人より弱い存在だと思い知った。けれども、僕は人間への執着心が薄くなった気がした。
立場が変わると、人間という存在を客観的に見る事が出来る。するとどうだろう。人は完璧な存在なのだろうか。確かに人間は素晴らしい。愛があり、社会があり、仲間がいる。
けれども僕みたいに愛されない人間だっている。僕みたいに社会に入れない人だって。僕みたいな仲間はずれだっているさ。井口もその一人だ。
結局、人間の世界に入ることが出来なかった除け者である人間は、化け物になった。
僕も、井口も、河童も。もしかしたら、吸血鬼やゾンビだってそうかもしれない。
そうなって、初めて人間はいいと思ったが、最近そう思わなくなってきた。
大きすぎる力に酔いしれたから?それもあるかもしれない。
だけど一番の理由は、人が怖いからだ。完全すぎて、不完全。
仲間に入れない人を、気に入らないものを、楽しみの為に、破壊する。
その末路が井口をああした。
僕はもう、このままでいい。
人間のが、化け物よりよっぽど化け物だ。
吸血鬼の様に食べる為――生きる為では無いのに人を、同族を痛めつける。
河童の様に理性がないわけでも無いのに、私欲の為に人を殺す。
死神よりもよっぽど死神だ。
屍よりもよっぽど屍だ。
僕は目をつぶり、無実の罪を黙って認めた。




