第1死 不死身男と友達女
新章スタートです。
第二章。シニガミ×フェニックス、開幕です。
いろいろ雑な面もあるかも知れませんが、最後まで見ていただけると光栄です。
今日も僕は、一人さびしく如月高校の校門を出た。いや。出るはずだった。校門を出ようとした時、後ろから声が聞こえた。
「オーイ! 燈火ぁーー!」
カバンを振りながら須藤雷花が走り寄って来て、肩を叩いた。僕と同じ高校2年生の、学園最強の女の子だ。
金曜日の一件で、僕と須藤は仲良くなった。日曜日、須藤が家を訪ねてきて外をぶらぶら歩いて遊んだのだが、どうして彼女は僕の家を知っているのか聞いてみたら、「つけてきた」と言われた時は須藤の行動力の高さに正直引いたモノだが、イメージと違って面白い奴だった。
「うぉっとっと……」
叩かれた時の衝撃で少しよろける僕。叩く力強いって。
「オイオイどうした。オレに肩を叩かれたくらいでそんなによろけるなよ」
「いや、お前の力が強いんだよ!」
「それは悪かった。いやな? 人に触れる機会なんて喧嘩するときくらいしかなかったもんで、どうも力加減がわかんねんだ」
「なるほどな。じゃあ今すぐ覚えろ」
僕なんか中学に入ってから人に触れる機会すらなかったけどな。プリントを回すとき指先が触れたくらいだ。
「ああ。だが、力強く叩いてしまったのは事実だからな。ワビなきゃなんねぇ」
そして、日曜日、須藤と遊んでわかったことがある。それは――
「オレのおっぱいでも触るか?」
須藤はエロいのだ。それもかなり。
「それは是非揉みしだきたいのだが、そんなことでお前との友情が壊れるのは嫌なので遠慮しよう」
お前は僕のたった一人の友達なんだよ。
「遠慮するな。オレは胸を揉まれたくらいでは何とも思わんぞ」
「何か思えよ! 女として!」
「気持ちいいとかか?」
「違うよ! 恥じらえっていってんだよ!」
気が付くと、校門の前で漫才をしている僕らを避けるようにして生徒たちの群れが帰っていく。先生ですら怯える学園最強の娘と対等に話している僕も明日から多分避けられる。ひゃっほう。さらに友達が作り辛くなったぜ。
「なあ、須藤。悪いけど僕、そろそろ帰るから」
コイツと話していると面白いんだけど、正直、これだけ人の目に着くところで下ネタ満載の漫才はしたくないのが事実だ。不良のオトモダチで変態なんてレッテルが張られたら、僕は生きていけない。
……レッテルの意味なんて解ってない僕ですけどね。
「なんだよ。もう帰るのか? 今あったばかりだろ?」
「いや。ほら、僕たち邪魔みたいじゃないか」
きょろきょろとあたりを見回す須藤。
「全然邪魔じゃないだろ? オレも暇なんだよ。あ、そうだ。今日、燈火の家に遊びに行ってもいいか?」
「ん?まあ、いいけど……」
ん?姉貴も妹も帰りが遅いって言ってたよな。――2人きりだと!?コイツと二人きりはマズい!やはりキャンセルを――
「そうか! いやー、昨日はお前の家の中までは入れなかったからな! 楽しみにしているぜ! じゃあ、帰ったらすぐ行くからな!」
まるでスキップでもはじめそうな笑顔で須藤は言うと、本当にスキップをしながら足早に須藤は自分の家の方向へ向かっていった。
うぐっ……完全にタイミングを逃した。しかも、家には入れないともの凄く言い辛い空気まで残していきやがった。少しばかり諦めながら、僕も、僕の家の方向に向かって歩く。
うわ。完全に避けられている。こりゃもう駄目だな。レッテルその1・最強の不良娘とオトモダチ
『おい』
軽く落ち込んでいると、僕の頭の中にウィンドの声が響き渡った。
――なんだよ。ウィンド。
『わらわはチョコレートが食べたいぞ』
そう。コイツは土曜日に僕のおやつのチョコレートを勝手に食べたのだが、それでチョコレートが非常に気に入ったらしく、おかげで僕は2日で2000円分のチョコを買わされる羽目になった。
まだ食べるのか。コイツ。
「わかったよ。ウィンド。でも、今日は1つだけだぞ」
『ケチだのう。わらわは5個は食べたいぞ』
「なら2個だ。これ以上はない」
『本当にケチだのう。ま、良い。3個で手をうってやろう』
「何気に今1個増やさなかったか?」
そこではっと気付く。だが、気付くのが遅すぎた。僕は口に出してウィンドと会話をしてしまっていた。ほかの人にはウィンドの声は聞こえないから、他人は僕の独り言の様に聞こえるのである。つまりは……
恐る恐るあたりを見回すと、2人組の女子生徒が僕を見ながらひそひそ話していた。
うわっ……終わった。僕のレッテルその2・アブナイ人。
その二人も、僕と目があうと足早に逃げて行ってしまった。ほんと、泣きたくなる。
とりあえず、僕はチョコレートを適当に3つ買って家に帰った。
家に着くと同時に、僕の体からポゥと火の玉が出てきて、すぐに火の玉は赤い長髪ツインテールの10歳くらいの少女になった。
ウィンドの髪型は僕好みにポニーテールからツインテールにしてやった。日曜日の須藤と遊ぶ前、ウィンドに髪型をツインテールにしてくれと頼んだら10個のチョコレートで簡単に手をうってくれた。簡単な奴だ。ちなみに、これが出費の原因のほとんど。
僕は、チョコレートの入った袋をウィンドに渡した。ウィンドは嬉しそうに階段を駆け上がって僕の部屋へ向かった。
僕も遅れて僕の部屋に入る。僕のベッドの上でウィンドはハムスターのように両手でチョコレートを持ってチョコをほおばっていた。いやん。可愛い。もっとあげたくなっちゃう。
「あんまりこぼすなよ」
「ふぁふぁっておる」
口の中にチョコを詰め込んだままウィンドは話すので、何を言ってるのかわからない。でも可愛い。畜生。僕のお財布の諭吉が全てチョコレートと化してしまいそうだ。
とりあえず僕は来たるべき須藤の来訪に備えて、制服から私服へと着替える。
僕が着替え終わったとほぼ同時に家のチャイムが鳴った。
アイツ早いな。こんな短時間で来れる距離なのか?
階段を駆け下りる。
「おう。遅かったな須藤」
そういいながら、ドアを開けるとそこにいたのは須藤ではなかった。黒いローブをはおった白い長髪の15歳くらいの鋭い目をした女の子が立っていた。少女の手には、大きな、死神を連想させる鎌が、握られていた。