第6腐 雨と少女たち
あんなことがありながらも、僕らはのんきに遊んでいた。呪いは払ったし、心配することはほとんどない。
「止む気配がないなー。雨」
コインランドリーの中から、止む気配も見せずに振り続ける雨を見ながらぼそりとつぶやく。
「何やっているんですか燈火さん」
と、静かな声が僕のずぶ濡れの背中に浴びせられる。
後ろでは、コインランドリーのイスに、須藤とメイが座ってホットコーヒーあたりを飲んでいるはずなのだが、僕は振り向く事が出来ない。
何故なら須藤は私服を全て脱いで下着姿で、メイは下着姿とまではいかないが、濡れた黒いローブを乾かしている為、白いワンピースなのだが濡れてしまっていて、スケスケなのだ。
この状況で彼女達を直視したら、僕が理性を保っていられる保証は無いし、なんというか須藤の方の心配はないのだがメイの方は振り向いたら首が落とされかねないので、まあ見張り役兼外から見られないようなガード役もかねて僕はホットコーヒーを片手に一人、ガラスの引き戸の前にたたずんでいるのであった。
何故このような妄想でしか起こりえない状況にあっているのかというと、これまたベタな事に須藤と遊んでいる最中に夕立にあい、須藤と一緒に近くにあった無人のコインランドリーに避難したところで、同じく買い出しに出かけていて夕立の被害にあったメイとばったり出会ったのだ。
そしてまあ、いつもの事で須藤が「乾かす」と言って脱ごうとするのだが、二人がかりで抑え、説得して何とか全裸にさせることは諦めさせたのだ。
「しかし、これじゃあ帰れそうにないな。……せめて傘があればいいんだけども」
連絡手段がないんだよな。羽津花姉の携帯電話にかけても反応しない率は異常だろう。以津花は部活で家にいない。
「オイ燈火! そんなとこじゃ寒いだろう! 風邪を引くと行けないからこっちへ来い! 抱きしめてあっためてやる」
なははーと、須藤がポンと僕の肩を叩いた。
「いや、僕は風邪なんて引かないし……」
人間だったころの名残か、反射的に振り向いてしまう。そして、硬直した。
目の前で下着姿の須藤が仁王立ちしているのである。男の性か必然的に少々視線を下げると目に映る柄付きの白い下着に包まれた凶悪な胸を直視してしまう。
「な、え、あ……ありがとう?」
戦闘不能。行動不能。どうもありがとうございました。
もう何が何だかわからなくなった僕の口から出た言葉は、お礼だった。なんというか、誤解を招きそうなのだが、何を言えばいいのかわからなかった。
「燈火さん。私が温めてあげます」
いきなりあらわれたメイが、すこしむっとした顔をしながら僕の腕をつかんで、引っ張る。須藤もメイが掴んでいる方とは逆の腕に胸を押し付けるようにして僕を掴んだ。
メイも負けじとその少ない胸を僕の腕に押し付けるもんだから全身の感覚が腕に集中してるわけよ。
何コレ?目の前に下着姿とスケスケの女の子がいるって何コレ?
「あー、なんだか僕喉がかわいちゃったなー」
僕の理性が吹き飛ぶ前に、半ば振りほどくようにして二人の悪魔から離れると、目に入った自販機にわざとらしくお金を入れて、さっき飲んだばかりで特に飲みたくもない温かいコーヒーのボタンを押した。
「あつっ……やっぱり熱い物は熱いな」
熱い缶コーヒーのふたを開けて、一口飲む。僕はどうも熱い物の食べ方が下手なようで、見事に舌を火傷してしまった。
とはいえ、やけどのあのひりひりする痛みも数秒で消える。そんな自分の治癒能力に複雑な感情を抱きながらも、缶コーヒーを飲みほして、空き缶をゴミ箱に投げ入れる。
「燈火さん何でわざとらしく逃げるんですか? そんなにいやですかこの男の妄想を具現化したようなこの状態が」
「いやいや、嫌とは言っていないけど……」
やはりバレバレだった。ていうかそこは察しろよ!嬉しいから嫌なんだ!ちょっと自分でも分けわかんねぇよ!
「いや、メイちゃん。燈火はきっと変態なのだ」
「なんでだよ! ちょっと待てよ! 「照れ屋」とかせめて「ツンデレ」とかだろ! お前は会話のキャッチボールというものを知らんのか!?」
「知ってますよ。燈火さんは超ド級の変態です。今日も朝、起きたら燈火さんの布団にいて驚きました」
「なっ……それはどういう事だ!? 詳しく教えろ」
「ええ。燈火さんが抱き着いてきたので、そのままベッドインしました」
「ハショリすぎだ! ちょこっとあってるとこがムカツク!」
正確には、メイにボロボロにされて、落ち着かせるために抱きかかる形で意識を失って、メイが僕をベッドへ運んだ。やましい事なんてこれぽっちもありません。
「それはそれは激しい夜でした」
「ええい! そこは断固否定するぞ!」
ギャーギャー暴れながら、外を見ると、空には虹が浮かんでいた。
「雨、止んだみたいだな」
何故か不安な気持ちに襲われながらも、僕は空を見上げた。




