第5腐 メールと小さな呪い
話をまとめてみよう。メールの内容は、ただ、助けてとびっしり書かれているだけ。
はじめはいたずらだと思い、放置。次の日に、気味が悪くなってメールアドレスを変更。変更したのに、メールが届くという事で、僕に相談しに来たそうだ。
須藤の携帯を軽く握り締めて、目をつぶってゆっくりと深呼吸をする。
指先から伝わってくる冷たい鉄の感触に紛れて少しばかりではあるが、あの幽霊ホテルのような、嫌な感覚がする。僕宛のメールならば、不死鳥の能力やらで残留思念とかいうやつを探れるのかもしれないが――他人あてへのメールだ。僕に伝えたいことじゃない以上、うっすらと嫌な感じがするだけだ。
ウィンドなら自分宛てじゃない呪いのメッセージとか、簡単に読み取るんだろうけど、僕は不死鳥として全くの初心者なのである。自分自身すらすべてを把握できていない。
そんなだから、小指ではじける程度の化け物に後れをとるのだとウィンドに何度か言われているが、それ以上になってしまうと僕が僕でなくなってしまうような気がしてならない。
どうしても本気を出さなければならないその時まで、このままでいいと僕は思う。
「――でもこれはやっぱり、化け物か、幽霊の仕業だな」
携帯を須藤に投げ返そうとして軽く須藤に向かって投げる、と、いつの間にか僕の体から飛び出していたウィンドが、須藤の携帯をキャッチして、一番最近に送られてきたメールを睨んだ。
魚住は、突如現れた紅い少女に怯えたようだが、敵意が無い事を見ると、少しウィンドから距離をとりながらも、先程と同じように座りなおした。
「ふん。こんな安い呪い、呪いの解除は苦手な不死鳥でも祓うことが出来るわ」
不死鳥は見えないタイプの精神的ダメージや、呪い解除は専門分野ではない。無論、出来ないという事は無いが、高度な呪いを解くには、呪い解除の順序が必要だ。
逆に、一角獣は精神的ダメージや呪い解除が得意らしいけど。
須藤の携帯を投げ捨てるようにして、須藤に返すウィンド。
純粋な不死鳥なだけあり、その立ち振る舞いからあふれる気品と威厳。そして、わずかに見え隠れする圧倒的な圧力に、僕もわずかにひるんでしまった。ウィンドの様子が、いつもと少し違うのが手に取るようにわかる。
「……どうして、そこまでピリピリしているんだ?」
「……お主が触れるだけで、解除されるような薄い呪い。問題はそのメールではない。そのメールを送ったものは、何か大きな負の力にさらされて、化け物となってしまった幽霊――」
「……どういう意味だよ?」
ウィンドは、苦虫をかみつぶしたような顔で、うつむき、小さくつぶやいた。
「…近くに、龍がいる可能性がある。いや、まさかと思ったが、まだ探しているのか。しつこい奴め。弱い幽霊が龍のオーラに触れれば、零れ落ちる龍のカスを吸収し、強化され、凶暴化する…まずいぞ・・・このあたり一帯が、化け物だらけになってしまうやもしれん・・・」
龍――その単語を聞いたとたん、僕の背筋が凍りつくような寒気に襲われた。




