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不死鳥!-ふぇにっくす!-  作者: 起始部川 剛
第5章 クチサケ×トウカ
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第12裂 燈火と幸子

 舌打ちをして、声のした方向へと駆けた。

 やはり、聴力の増加は役に立った。どのあたりで悲鳴が聞こえたのが一発で分かった。

 能力が使えないといっても、ウィンドに毎回訊くわけにもいかないし、彼女は寝ている場合のが多いから聞きそびれている場合も考えられる。自分の耳が一番信用できる。


 脚力も、万全の状態と同じとは言えないけれども、オリンピックの選手顔負けの速度で走ることが出来るし、スタミナだって殆ど減らない。走ったところで、筋肉の疲れは持ち前の治癒能力で回復させてしまうし、酸素の供給も不具合が起きれば治癒能力で無理やり正してしまう。と、言っても酸素を作り出すことは出来ないから――たとえば溺死などは、不死鳥でも有効ということらしいけれども、口裂け女の攻撃に、そういう例外に当てはまる攻撃は無い。例えば、ウィンド曰く、サキュバスみたいな能力は、僕の不死鳥としての能力ごと吸い取ってしまうから、この例外にあたるらしいけど。


 認めたくはないが、こういう点では、僕が化け物でよかったと本当に思う。


 と、そこを曲がれば声のしたところ――


 僕が路地の角を曲がった時、まず僕の眼に飛び込んできたのは血の滴る鎌を持った少女である。

 そして次に目に映ったのは――血だらけで倒れている、頬の切り裂かれた霧原姫奈だった。


「霧原ッ――」


 僕が倒れている霧原に近付こうとしたとき、僕の眼の前を草刈鎌が通り過ぎた。咄嗟に足を止めて直撃は避けたが、このままでは霧原がマズい。不死鳥ならいざ知らず、というか、あんなのは傷の内に入らないのだろうが、人間にとっては致命傷だ。中途半端ではあるが、僕の頬を斬られた時も、舌を微妙に刈り取ったところを見ると、下手したら霧原もやばいかもしれない。


 僕なら、攻撃をかいくぐって、霧原の傷を治せたかもしれないが、あえてそれをしなかった。

 僕がコイツに触れたら、燃やしてしまうかも知れなかったから。僕はまだ、こいつを許していないから。




「ウアァァァァアアァァァァ!!」


 口裂け女――井口は相変わらず正気を失っているようだったが、井口を助ける方法は、僕の中で一つしかなかった。殺す――と、いう案もあったが、これは浮かんだ瞬間に却下した。が、今からする行為で井口を救えなかった場合は、殺すしかないのかもしれない。



 成仏させる。


 その成仏させる方法は、この世の未練を断ち切ること。未練なんて山ほどあると思う。ただ、口裂け女をこの世に縫い付けているものは、怨念だ。復讐――と言う最大の目標は既に井口は達成してしまった。

 もう一つはおそらく、顔の傷。もしくは、自分を助けてくれなかった僕への復讐。


 それがどんな自分勝手な理由で、僕が助けられないのは仕方がなかったことだとしても、妖怪になった井口には、僕が彼女を見捨てたようにしか思えないはずだ。



 僕を襲った理由も、恐らくそれだ。井口の性格は分からないけど、もしも不特定多数の人間を自分と同じ目にあわせる気だとすれば、被害者が2人というのはあまりにも出来過ぎている。


 あの2人の取り巻きの不良よりも、それを命令した2人の方を憎んでいたんだろう。ずっといじめられてきたのならば当然だ。


――ただ、2人に復讐を終えた時点で、不特定多数の人物にターゲットが変わってもおかしくない。今日は井口を逃がすわけにはいかない。


 いくら僕の頬を井口が斬ったところで、僕の傷はたちまち回復してしまう。故に、井口がこれから一生僕を狙い続けてくれるのなら、簡単なのかもしれないが――それは僕にとっても、井口にとってもいい事ではない。




 ならば井口の傷を僕が治し、僕が井口に謝罪すれば、両方とも解決する。


 僕はどんな傷でも治療することが出来るし――――僕は、井口を恨んでなんかいない。

 治療は出来る。やってやる。口裂け女にだって、有効なはずだ。



 既に僕の左腕は、化け物のそれへと変化していた。自分のものではない、人ならざる者の腕。しかし、最近は見慣れてしまっている。

 もう、僕は化け物なのかもしれないけど、それでも!まだ、人間だ。



「井口!」


 姿勢を低くして、井口に飛びかかる。僕の頭の上を鎌が通過していったが、当たらなければどうという事は無い。そのまま、井口を地面に押し倒す。


 男子高校生が同学年の少女を押し倒すという何とも危険な絵ではあるが――――そんなことに構わず、僕は彼女の前髪を

右手でかきあげる。


 口の裂けた井口の顔を見て、僕は言った。

「それでもお前は綺麗だよ」


 井口の眼から、殺気が消えていく。少しずつ、狂気に満ちていた目から、人の光を映す眼へと、戻っていく。


 そして、僕を見て、井口は、ぼろぼろと涙をこぼし始めた。

「うええええええええん……鬼冴三君……鬼冴三くぅん……わたしぃ……わたしぃ……」


 井口の頭を左手で撫でて、それから唇に手を当てる。緑色の光が井口の顔を包み込んで――井口の顔は

 生きていたそれと変わらないものになる。――そして口の裂けていない口裂け女なんて口裂け女であるはずが無く、どんどんどんどん、井口の体が透けていく。成仏していく。


「鬼冴三君……鬼冴三君……」


 涙をぽろぽろ流しながら、井口は僕に抱き着いたまま、どんどんどんどん消えていく。僕も井口を抱きしめて。

「もう大丈夫だから。何も心配しなくていいから。もう、楽になれ」

「うん……」


 一呼吸おいて、井口の体がそこに存在しているのか思えるほどに薄くなったところで


「大好きだよ。鬼冴三君」

 そう言い残して、僕の腕の中にあった温かい感触が、消えた。


 井口は消えて、口裂け女も消えた。彼女はこれで、無事に天国へと行けただろう。不死身の僕がそっちに行くことはないかもしれないけど――――もしもそっちにいく事があれば、また遊ぼうぜ。井口。

ようやく終わりました。クチサケ×トウカ。次章の更新は、少々時間がかかると思います。次章がまだ完成しておりませんので…;

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