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不死鳥!-ふぇにっくす!-  作者: 起始部川 剛
第5章 クチサケ×トウカ
40/60

第11裂 不死男と口裂け女が

「私、キレイ?」


 僕と霧原の背後から、声が聞こえた。

しゃがれてはいるが、確かに、井口幸子の声だ。


「ヒィッ!」

 小さな悲鳴を上げて、霧原はぶるぶると震え始めた。いつもの彼女からは想像の出来ないほどに震えている。――須藤の時と同じで、こいつは女の子なんだと思ったけど。

 それでもまだ、霧原が憎い。殺したいほどに。


「井口――」


 彼女の名前を叫びながら振り向くと――僕の目の前に血のこびりついた鎌を持った少女が、たたずんでいた。


 少女が鎌を振りかぶったのを見てから、僕は霧原を突き飛ばした。直後、手のひらに鎌が突き刺さり、血が噴き出す。


「いやあああああ!」

「霧原! 逃げろ!」


 悲鳴を上げる霧原をこの場から逃がす。それを追おうとする井口の両肩を掴んで、僕の方を振り向かせる。


――やはり、井口幸子だ。間違いない。


 口は耳まで斬れているが、間違いなく、井口幸子だ。



「アアアアアア!」

 井口は叫んで、僕の顔に鎌を突き刺した。草刈鎌とはいえ、切れ味は抜群で、僕の頬を切り裂いて、舌を削り取って、一発で僕を無残な口裂け女ならぬ口裂け男に変身させた。



 口の中に広がる血の味。両頬をおさえてふらふらと下がる。

 手で、頬の傷を触ってみる。頬を触ったはずなのに、指が歯に触れた。やっぱり貫通してるか。なんつう切れ味だ。


 そして問題は、傷の治りが遅い。左腕が化け物の状態ではないとは言え、いつもより遅い。通常なら、内臓にまで届いているならともかく頬の肉ならば、すぐにでも回復が始まるはずだ。完全回復までには至らなくとも、それでも回復が始まっていてもおかしくはないが。



 とりあえず、せっかく新しくした制服を切り刻まれないようにと、ボタンをはずして制服を脱ぎ捨てる。



「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 僕が脱ぎ捨てると同時に喉が貼りきれそうなほどに、井口は叫んで、僕の肩に鎌を突き刺した。右肩から左太ももにかけて、深い切り傷が出来る。

 内臓までは届いていないが、治らなければ致命傷にはなる。出血多量で死ぬかもしれないな。急がなければ。


 頬の傷はようやく回復し始めた程度で、こっちの傷が回復するのはちょっと時間がかかる。


 僕が傷に意識を取られていると井口が、僕の目に向けて、鎌を振り回してきた。対応が遅れた。


 僕の両目を、鎌が抉り取った。顔に一本の線が出来る。

「うあああああああああ!?」


 痛みに負けて両目を抑える。斬れている。ウソだろ!?そりゃあ僕は今まで目をえぐり取られるよりも酷い攻撃を受けたことは何度もあるが、戦闘中に、それも治癒能力が低くなっている今、視力を失うというのは致命的だ。


――だが、一生目が見えないまま、という事は無いだろうから、そんなに絶望する事でもない。それに不死鳥の力で増加しているのは視力だけじゃない――聴力だって。


耳を澄ます。――が、思うように音を拾えない。特定の音にうまく集中できないからか、余計な音まで拾ってしまう。やはり目が見えないというのは、思うようにいかない。しかし、口裂け女は不思議な事にこの絶好のチャンスに攻撃をしてこない。僕は攻撃をすることも、避けることも、受ける事も出来ないのだから、攻撃し放題のはずなのだが――ようやく目の再生が終わり、物を見るという事が出来るようになった。新品の眼であたりを見回したが、口裂け女の姿は無かった。


 何故攻撃をせずに逃げた?僕はやられっぱなしだったから僕に恐れをなして逃げるなんてことはありえない。それよりも重要なことがあったのか?僕を殺す事より重要な事――口裂け女――井口――霧原。復讐。そうだ。


 少し離れた位置で、悲鳴がした。

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