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不死鳥!-ふぇにっくす!-  作者: 起始部川 剛
第5章 クチサケ×トウカ
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第8裂 半不死男と死神娘の胸

 さて、どのくらい力が戻ったか確かめてみる必要があるな。一番手っ取り早いのは傷をつければいいんだけど……自分でやるのはちょっとな……そうだ。

 不本意だけど、この死神娘に攻撃してもらおう。ふむ、適当に体を触っていれば、攻撃してくるだろう。いや、決してやましい気持ちなんてこれぽっちも無い。いや、本当に、どのくらいステータスが戻ったか調べるだけだから。ちょっとだけだから。


 よし。イッツショータイム。


 むにむに


 寝ている死神少女のほっぺをつついてみた。攻撃してくると思ったのだが、全く反応が無い。よしよし、第一段階クリアー。いや、違うよ?これじゃあ攻撃してこないから、次の段階に行こうとしてるだけだって。やましい気持ちなんてないよ。僕は紳士なんだ。

「メイちゃーん? 起きないとおっぱい触っちゃうよー?」

 キタコレ。第二段階クリアー。本機は、これより、最終段階に入ります!


 もにゅもにゅ


 触ったぁ。が、反応なし。

 もにゅもにゅ

 さらに続ける。

「はん……」

 メイが軽い喘ぎ声のようなものをあげた。反射的に思わず手を引くが、なんというか非常にいやらしいシチュエーションだ。しかもベッドの上。これはもう危険だ。やましい気持ちなんてこれぽっちもなかったけどいやらしい気持ちになってしまう。


 さて、僕がこの何とも言えない至高の感触を楽しみ続けていると――――はて、先程と触っている位置が微妙に動いているというか

……

「ぁ」

「……」


 メイが。起きていた。水どころか血液すらも凍結してしまいそうな程冷たい眼で、僕を睨んでいた。背筋にぞわぞわと嫌な感覚が走る。


――殺される


 その鋭い視線の恐ろしさときたら、見るだけで心臓の弱い者は死んでしまいそうな程で――不死身でありながら死を覚悟した事は何度かあったが、見つめられただけで死を覚悟したのはこれが初めてだ。



「あー……えっと……おはよう?」


 何を言っていいのかわからない僕の口から出た言葉は、朝のあいさつだった。朝起きて直に交わすべき挨拶ではあるものの、この状況にはおよそふさわしくないと思える言葉。

しかし、この言葉にこの状況を打開できるほどの力は無い。


 メイは、目にも止まらぬ早業で、僕の首を握るように掴んだ。首にバットを叩き込まれたのではないかと思えるほどの衝撃が走り、咳き込みそうになったが、咳き込むことすら許されないだろう。僕はただ、何も言わず、話さず、喋らず、メイに許しを請うしかない。


「何をしているんですか?」


 僕の首を握っている手に力が入る。メイがこのまま力を入れれば、僕の首の肉を掴み取ってしまうのではないかと思えるほどの力だ。


「何をしているんですかと聞いているんです」


 しかし、そのメイの問いに、僕は答えることが出来なかった。僕の首を掴んでいるメイの手が、僕の呼吸を止め、喋ることを許してはくれない。

 僕に向けられている殺気も尋常ではない。不死鳥の力を全く出していないのもあるだろうが、メイとの力の差が大きすぎて、一昨日の吸血鬼との戦いで感じた、吸血鬼の殺気よりも高いように感じる。


 この殺気の恐ろしさときたら、RPGや漫画の主人公が初めてラスボスに出会った時に感じて、動けなくなってしまうというベタベタな展開にふさわしいと思うほどの恐ろしさだ。


 その貴重な体験を、僕はこんなところで体験してしまったのだが。



「全く、燈火さんはどうしようもない変態ですね。寝ている女の子の胸を触るなんて。このまま私が起きていなければ私の初めては寝ているうちに終わっているところでした」



 そこまではしない!と、突っ込もうと思ったのだが、やはり僕が言葉を発する事を許してはくれない。

 これは死ぬかもしれない。マジで。


 しかし、僕の予想に反して、メイはその全身から放つ殺気を即座に沈めると、僕の首から手を放した。

 安堵感が僕を支配するが、油断はできない。いつ攻撃してくるかわからない。それほどまでに、殺されても足りないくらいの事をしてしまったのだ。コイツはちょこっと目が胸に行くだけで、僕を攻撃してくるんだから、胸を触った日には細胞単位で殺されかねない。

「全く……言ってくれれば胸くらいいつだって……」


「死ぬかと思った……え?」

よく聞き取れなかった。何を言ったのかもう一度聞こうとすると――


「なんでもありません!」

 言って、メイは顔を真っ赤にしながら、僕の頭部目掛けて腕を振り回してきた。

反射的に腕でガードするが、関節のないはずの所で腕が直角に曲がってしまった。


 メイは、小走りで部屋から出ると、大きな音を立てて部屋のドアを閉めた。

 そんなに嫌だったのかな。ちょっと悪いことしたかな。


 でも、まあ、本来の目的は果たせた。さてさて、肝心の腕はというと――折れた腕は完全に治ってこそいなかったものの、直角に曲がっていた腕は元の形へと戻っている。この分ならば、完治まで1分かからないだろう。

いつもよりも回復速度が遅いところを見ると、何度も死ぬわけにはいかないが、それでもある程度は戦う事が出来る。吸血鬼の時のように、相手を殺す事が目的ではない今回は、そこまで大きな力を求める必要もない。口裂け女は戦闘力という点では、河童にも劣るくらいだし、勢い余って殺してしまうという事が無いから、逆に丁度いいくらいだ。


 体感的に、視力や動体視力、聴力等は、完全に戻ってきているようだし、この能力、使えないように思えて意外と使える。

 いや、いつぞやの時の様に覗きではなくて、人探しなど、様々な面で役立つ。こちらの能力が封じられていた方が、治癒能力が下がっているよりも不便なので、少し心配したが、大丈夫みたいだ。


 しかし、能力を取り戻した今、心配するべき点は、僕が昨日の様に暴走してしまう方が心配だ。これだけの力を取り戻してしまった今、歯止めが効かなくなってしまえば死者を出しかねない。

 昨日みたいに、須藤が止めに来たとしても、恐らく今度は、僕は須藤を殺してしまう。

出来るだけ慎重に、僕の心に刺激を与えないようにしなければならない。もしも僕が誰かを殺してしまったら、僕はもう僕ではなくなってしまうような気がする。本物の化け物になってしまうような気がする。


 体は既に人間では無いが、唯一残っている、不死鳥の治癒能力ですら介入出来ない人間の心が、消えてしまうような気がする。

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