第5裂 半不死男と悪娘
「うざかったよねー」
「わかるわぁw」
ウィンドに案内された通りの道を進んで、2分もしないうちに霧原と東間を見つけることが出来た。
人通りの少ない路地。そこに、霧原と東間、それに名前も知らないような不良が4名。
普段ならいざ知らず、今の僕には不良4人と闘うのは少々重労働かも知れないが、完全に力を失ったわけではない。治癒能力が落ちているとはいえ、午前中には手の傷も治っていたわけだし、思わず怒りに身を任せて机を蹴りあげた時だって、人間の力ではなかった。
それに、朝と比べると若干ではあるが、不死鳥の力が戻ってきているようだった。
と、いうことは戦闘になっても勝機が無いわけではない。ただ、ナイフを持ち出されたりすると、ちょっとキツイかもしれないけど。
ナイフを持ち出してくる可能性はゼロではない。詳しくはわからないが井口をズタボロに追いやったやつらだ、ナイフくらい持っていてもおかしくないし、ナイフの使用を躊躇するとも思えない。いざとなったら逃げればいいし、少なくとも動体視力の方は、それなりに上がっている。囲まれると厄介だが、一対一の戦いならば、相手の攻撃をかわすことくらいは出来るだろう。
何も言わずに、ただ、静かに、霧原と東間に向かって、歩を進めた。
後数歩で霧原に掴みかかれるという所で、霧原が僕の存在に気付いた。
「あれ? 暴力男の泣き虫君じゃんー?」
――朝の事を根に持っているらしい。ギャハハ、とか下品な笑いを立てて、不良の内の3人が僕の周りにわらわらと群がってきた。
「お前等、井口に何をした?」
「井口ィー? あー? 誰だそれ?」
筋肉モリモリの金髪オールバックの舌ピアスサングラス男が僕の首を掴みながら霧原と東間に向かって言った。
霧原や東間は、不良がついている為に調子に乗っているのか、ゲラゲラ笑いながら「あーwこの前のあのブスだよ」と言った。最後に、「そいつも同じくらいボコボコにしちゃってよ」「アイツみたいに口斬っちゃってもいいしさ」と付け加えて。
「了解ー! じゃ、覚悟よ僕ちゃん! お財布置いて行ってね!」
そういって、金髪オルバピアグラ男は僕に向けて強烈なストレートを放ってきた。普通の人間だったら避けることも出来ず、気付いた時には地面に倒れているのではないのかと思えるほど強烈なストレートパンチだったが――やはり、僕の読み通り、動体視力の方は恐ろしいほどに上がっている。
僕はそれを、右手で楽々と受け止めて――なるほど、多分、今僕の持っている力じゃ吸血鬼どころか死神の強烈な突っ込みにすら殺されるかもしれないが――一般人相手なら、十分過ぎる程だった。
「同じ金髪オールバックでも吸血鬼とは全然違うな」
男の拳を掴んでいる手に力をいれる。
「がぁッ――!?」
化け物とはいかないにしろ、人間にしては強力過ぎる握力に、男は悶え、振りほどこうとするが、僕の手は拳を放さず、不良はただうめき声を上げるしかできない。
「お前らがやったことは大体わかった」
空いている左手で、筋肉男の腹を殴って気絶させて、力なく地面に倒れ僕に拳を掴まれている男をその辺に捨てる。
それを見て、ビビったのか、不良達は僕が一歩歩を進めると、不良達は一歩下がる。
あんな攻撃、昨日に比べればハエ見たいなものだし――それに、吸血鬼に比べるとコイツ等の方がよっぽどゲスに思える。
まあ、僕の視点から見れば吸血鬼は糞野郎なのだが――吸血鬼の視点から見れば、食事という一般的な行動をしただけで、食事の邪魔をした僕を懲らしめただけであって、僕たちが牛や豚を食べる為に殺すのと同じ――食事中に現れたゴキブリを殺すのと同じ。むしろ、殺さずに食べてくれたおかげで、妹が生きているのだから、感謝してもいいほどなのだ。
それに比べて――こいつらは、楽しみで、ストレス発散の為だけに他人を傷つけている。
こんなの、許せるかよ。僕だって仏様じゃない。三度なんて多すぎる。一回だって僕は許さないぜ。
「や……やっぱり!」
一人の男が、僕を怯えながら見ていた。この眼にはもう慣れっこなのだが、一人の男を殴り倒しただけでそうなるものだろうか。考えてみれば当たり前かな。恐らく特攻隊長と思える人物を一撃で沈めたのだから、怯えてもおかしくは無いのかもしれない。
「コイツ、この前話した、一人で俺等のグループ潰した奴だ!」
僕を指さして、僕を取り囲まなかった一人の不良が叫んだ。
グループ?そんなの潰したっけ?
ちょっとばかし考えてみる。僕は、人間相手の喧嘩なんてほとんどしていないはずだけど……ああ、須藤を助けた時か。
初めて須藤に出会った日。僕は、須藤を助ける為に一人で不良12人を(正確には11人。一人は須藤が倒した)殴り倒した事があるのだ。
と、僕が数歩、歩み寄ったところで僕を怯えた目で見つめていた一人が逃げ出した。
「うわあああ!」
そんな悲鳴を上げながら逃げていく仲間を見て、マジっぽいと思ったのだろう。気絶している男と、霧原、東間を残して、不良達は走り去っていった。なんて出番のいらない奴等だろう。クリボーだってどんなに負けるとわかっていても突撃してくるというのに、なんて情けのないやつら。
「あ! オイまて!」
「ッ! ウチら、マジでやばそうだって!」
不良達を追いかけるように、路地に逃げる霧原と東間。彼女たちを逃がすまいと二人を追いかけて路地へ向かう――が、見失ってしまった。
迷路みたいになっているこの場所は、離れることは難しくても隠れる事なら用意だ。ばったり出会ってしまう可能性もあるが、少なくともこのステージは、追いかける側よりも逃げる方のが有利な用に出来ている。
――逃がすかよ。
しかしそう簡単に諦める僕では無い。
アイツらの事だ、明日は学校を休むはずだ。下手したら、しばらく顔を出さないかもしれない。しかし、家に乗り込むわけにもいかないから、ここで決着をつけるしかない。別に殺すつもりはないが――井口に謝るくらいはしてほしい。
そう思いながら、路地を駆けていた時、不意に後ろから声をかけられた。
「私キレイ?」