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不死鳥!-ふぇにっくす!-  作者: 起始部川 剛
第5章 クチサケ×トウカ
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第4裂 泣いた男とレッテル

 帰り道――――僕と須藤は暗い夜道を並んで歩いていた。須藤だから心配はないと思うが、それでもあんなことがあった直後だから、心配で、須藤の家まで送ることにした。


 ――あの後、先生が飛んできて、僕と須藤は居残りを食らわされた。喧嘩+不順異性交遊的な扱いを受けて、かなり長い間質問攻めにあったが、井口の死で取り乱して暴れた僕を須藤が止めて、僕が泣きじゃくったので慰めてくれていたという僕が殆どの罪をかぶる形(事実だけど)でこの居残りから解放されたのだった。


 窓ガラスの弁償は全部僕が払うことにした。――須藤の超不良のレッテルが、少しはがれて、僕に不良のレッテルが貼られた一件だった。


 ――しかし、本当にレッテルというのは恐ろしい。なにせ、超不良のレッテルが貼られているだけで教師は須藤を犯人に仕立て上げるのだ。まるで、僕が脅されて濡れ衣をかぶっているかのように扱って、須藤を集中的に質問攻めにしたのである。本当に第一印象と言うのは重要だ。それが定着してしまった日には、どんないいことをしても、悪い事をしているようにしか見えないのだろう。


 井口もいじめられっこのレッテルを貼られて、何をしてもクラスの奴の眼についてしまったのだろう。


 さて、僕がなぜこんな無駄な話を延々と続けているのかというと――


 なんつーか、究極に気まずい。井口が……死んで、僕も取り乱していたとはいえ、須藤の胸の中で何分も泣き続けていたのである。恥ずかしい。




 と、とりあえずこの空気をどうにかしなければ――

「――今日は、その、ありがとな」

「んー。ああ。気にするなよ。いいよ。面白いもの見れたし」


 須藤は特に恥ずかしがる様子もなく、自分の胸を抱きしめるようなポースをした。


「ああ。可愛かったなぁ……今日の燈火。母親になった気分だったぜ。――おっぱい飲むか?」

「飲まねぇよ」


 心配いらなかった。コイツに余計な心配はいらなかった。あっさりした性格のおかげで助かった。


「ん。ついた。サンキュ」

 無言の時間が長かったせいか、思ったより早く、須藤の家に到着した。

 軽く別れの挨拶をかわして、須藤が家に入ったのを確認すると、自分の家に向かって歩を進める。


 井口。どうして死んだんだ?何かあったのか。本当のことを知っている奴は、多分――――霧原と東間知美だけだ。


 一人になると、どうしても井口の死に関して考えてしまう。考えるたびに、心が壊れそうになる。それでも考えることを辞めることが出来ない。



「ウィンド」

 電柱の陰に身を隠すようにして、電柱にもたれて、僕は僕の体の中にいる少女に話しかけた。声をかけてから数秒程して、不機嫌そうな声が頭の中で響いた。


『なんだ。わらわの睡眠の邪魔をするでない。お主も知ってのとおり、吸血鬼との戦闘の所為で調子が優れんのだ』


 ふああ、と大きなあくびをするような声を出すウィンド。


「ああ。悪い。明日チョコレート買ってやるから。……で、ウィンド。お前がそうであるように、僕も今、殆ど人間に近い状態なんだけど――お前、いくら調子が優れないっていっても僕よりも不死鳥としての力は残っているだろ?――今、どれくらい能力が残ってる?」


『うむ……そうだのう。今はお主に力を貸せる程の力は残っておらんぞ。明日になればお主も力を殆どと言っていいほど取り戻すとは思うがの……明日じゃいかんのか?』


 多分、今から僕がやろうとしていることは落ち着いている明日の方がいいのかもしれないが――僕が力を取り戻してからは危険すぎる。殺してしまうかもしれないから。


「ダメだ」

『フン。そうか。分かりやすく言えば、今のわらわは『左腕だけのお主』と、ほとんど同じくらいの力だ。――――化け物がらみの問題には首を突っ込むなよ。――死ぬぞ』


なるほど。確かに弱くなっているが――弱っていてもそれだけの力っていうのは凄いな。吸血鬼クラスを相手には出来ないが、今はそれで十分だ。


「なら、霧原と東間の――馬鹿な女の二人組の場所、分かるか?」

『――そういう事か。仕方がないのう。本来ならこんな事をしたくはないのだが――お主の心が壊れてはわらわも困る。別に、わらわはお主さえ無事ならばよいのだ。たとえ、お主が他人を殺したとしても、わらわには関係ない』


 そんな不吉な、化け物らしいと言えば化け物らしいセリフを吐いて、ウィンドは僕の体から飛び出した。大きな炎が徐々に人の形をかたどっていき、鳥の羽のような紅いふわふわのドレスを着てぴょこぴょことツインテールの赤い髪をを揺らしながら腕を組んでいる10歳くらいの少女、ウィンドが現れる。


「ふむ、気のせいか17話程、わらわは外に出ていなかった気がするの」

「何言ってんだよ、毎日のようにチョコレート食ってたクセに」

「フン。まあ、よい。では、さっさと始めるかの。お主の中でわらわもあの娘達の声は聞いておるからのう――聴覚と眼で、ある程度の場所は把握できる」


 彼女の赤い瞳が、鈍く光る。――僕の瞳は黒いため、能力の発動は分かりやすいが、彼女の場合は瞳が紅いため、能力を発動しているかどうかは、瞳の光でしか区別できない。昼間だと区別はつきにくいが、夕方から夜に変わる今の時間帯なら、よくわかる。



「フム。近いな。今のお主でも、走って3分と言ったところか」

 言ってウィンドは、恐らく霧原と東間がいると思われる方角を、顎で示した。      

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