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不死鳥!-ふぇにっくす!-  作者: 起始部川 剛
第5章 クチサケ×トウカ
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第2裂 男と心

「ん、まあ、ギリギリ間に合うかな」

 駆け足で学校に向かっていると、ポニテをぴょこぴょこ揺らしながらのんびりと歩く須藤雷花を見つけた。


「あれ? 須藤じゃん」

「おう。燈火。どーしたんだ? 遅刻ギリギリだぞ」

「だから走ってるんだろうが」


 須藤の横について歩く。学校は既に見えているし、歩いて行ってもまあ、本当にギリギリだけど間に合うだろう。



「あれ? 燈火、怪我か?」


 それ、と、僕の左手の血で赤く染まった包帯を指さす。


「んー、ああ。まあな」


 右手で軽く左手を触ってみると、もう痛みは無かった。傷は治っているのかもしれないが、治ってなかったら嫌なのでつけたままにしておく事にした。


「珍しいな。どうした?」

 怪我はもう珍しくないくらいにしまくってきているのだが――怪我が残っているというのは僕に関しては珍しいのだろう。

「ああ、いや、これは――お前相手に隠す必要もないか。昨日、ちょっと力を使い果たしてな」

「――そうか」


 珍しく、下ネタを言わない須藤だった。僕としては「何!? 性行為を一晩中していたのか!? なんだ、オレも誘えよ」とか言ってくると思ったんだが……て、これじゃあ僕が変態じゃないか。それにしても、妙に深刻な顔をしている。何かあったのだろうか。


「なあ、燈火――」

「ん?」

「昨日、夜、ブラブラしてたら偶然聞いた話なんだが」

「っと、悪い。ちょっと時間がやばいから、僕、ちょっと走るわ。じゃあ、お前も遅れないようにな」

 歩いていけば大丈夫とか言っていたが、止まって話してたんだよな。


「待て――」

「あとで話聞くから」


「……燈火」

◆◇◆◇◆◇◆

 予想通り、遅刻ギリギリの時間に教室に飛び込んだ。あのままだったら遅刻だっただろうがなんとか間に合ったようだ。HR開始直前の沈黙の中を、ささっと動いて自分の席に着いた。


――おやおや?今日は井口が休みなのか?


 何気なく教室を見回してみると、井口の席が空いていることに気付いた。あれまー。みたいな事を思いながら教室に入ってきた担任の顔を見る。酷く――暗い顔で僕達を見ていた。


 なんだか嫌な予感がする。不死鳥の能力かどうかはわからないが、このところ、予感だか直感だかが良く当たる。


 やはりそれは的中した。

「今日は、皆様に残念なお知らせがあります」

最悪の形で。その言葉に――残念なお知らせがあると言った後の先生の話は基本的に特に残念ではない。先生が事故にあって入院したとか、誰かが転校したとか。

 やはり、その通りだった。次に言われた言葉で、本当に悲しんだ人間(、、)はいない。――ただ、不死鳥が一匹、壊れただけだった。


「私たちのクラスの一人、井口幸子が昨日の夜、事故で亡くなりました」



――――は?


 その言葉を聞いて、クラス全員が騒ぎ始める。がやがやと。担任が静かにしろと言っても収まる気配はない。



 え?ん?亡くなった――?死んだ?井口が?え?


 しばらくの間、僕は放心状態だった。何を考えていたのかすらまともに思い出せない。

 ただ、はっきりとしない意識の中で、僕は聞いてしまった。不死鳥の聴力で、霧原(きりはら)姫奈(ひな)と、東間(あずま)知美(ともみ)の会話を聞いてしまった。知ってしまった。


「自殺じゃない?」

「なんでw?」

「昨日あれだけのことされちゃーねー」

「はwわかるわw私も自殺するわwマジウケるww」

「だよねー。ほっぺあんな風にカッターで斬られてさぁー」

「もう治らないよねwアレwマジザマァw」

「ひどーい。キャハハハ」

「ザマァww」



 心臓に杭を打たれたようなその胸部の痛みに顔をしかめて、僕は胸を強く抑えた。激しい嘔吐感が僕を襲う。

 死。死。死死死死死死。人の死。身近な人間の――――親しい人間の――死。



僕の周りで誰かが死にそうになったことはあっても,誰かが死んだことはない。それは僕が護ってきたから。助けたから。今回は……助けられなかった。


 井口は昨日何をされた?


 担任が言うには、事故らしいのだが、それでも、自殺の事を事故と言ってもおかしくはない。自殺よりは、事故で済ませたほうがいいのかもしれない。自殺に追いやった。霧原と、東間が。殺した。井口を。殺した。


 HRが終わって教室に担任が消えたことを確認した生徒たちは、皆一斉にグループを作って話し合っていた。間違いなく、井口の事だろう。

 だが、非常に腹立たしい事に、その中に井口を失ったことについて面白がっている生徒はいても、悲しんでいる生徒は一人もいなかった。僕が炎の鳥にはふさわしくないと思われる目から延々と零れ落ちる雫に気付いたのは、そのことを知った時だった。

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