第1裂 不不死男と死神娘
さて、新章。実際はこの章、もっと鬱展開なハズでしたが、書いてて鬱になったので、急遽書き直しました。そのため、話が食い違ってる場合があるかもしれませんが、お楽しみください。「クチサケ×トウカ」。
「ジロジロ見ないで下さい気持ち悪い」
「見てねぇッ!」
地獄のような夜が終わり、朝起きて、(寝たのも朝なのだが)朝食を食べるために食卓に座った瞬間にメイの箸が飛んできた。防御しようとした僕の左手をメイの箸が文字通り貫通した。
「貫通したッ!?」
「あれま」
何度も何度も攻撃を受けてはいるが、箸が手のひらを貫通したのは今回が初めてだった。骨と骨の間をうまい感じにすり抜けているのだろう。
日に日に腕を上げていきやがるこの娘。どんどん威力が、攻撃の鋭さが上がってきているぞ。
「おまっ――この威力で顔に当てたらどうなってたんだ僕は!?」
「死んだんじゃないですか?」
平然とした顔で言うメイ。いきなり攻撃してきたのは、多分昨日のことに関する照れ隠し。
「抜けっ! 痛い! 痛すぎるッ!!」
「私そんなに痛い娘じゃありませんよ」
「違うッ! そういう意味じゃなくて! 僕が物理的に痛いんだ!」
メイはため息をついて一気に箸を引き抜いた。左手から血がどぷどぷとあふれ出てくる。今回の場合は片方の手で片方の穴を抑えても逆の穴から血が出てくる。血が手をつたってイスや床に垂れる。
「ッ――あー、あー、痛いなぁ」
「おーぅ。おーぅ。あんまりよごすなよ」
羽津花姉が呆れ顔で僕たちに言った。
「ああ――悪い――」
ふああ――と、大きなあくびをする僕。眠いな――ん?眠い?
眠い。ダルい。――久しぶりのその感覚に少し戸惑いを覚えた。
とりあえず僕は朝飯を食べるために箸を持とうとしたのだが――
「痛ッ――」
痛みで箸を落としてしまう。
何時まで経っても痛みが消えない。自分の手のひらを見ると、血がどくどくと流れていて傷は直る気配を見せていなかった。
「――? 直ってないぞ?」
「頭だけじゃなく能力まで不良品になったんですかね?」
「僕の頭は不良品じゃないぞ」
思い当たる節は、あるんだよな。これが。
「――多分、昨日力を使いすぎたんだろうな」
実際、左手が化け物の状態でも治癒能力が切れかけていたわけだし、そこからさらにランクが下がったんだから回復能力が極端に下がっていても、まあ、不思議ではない。
それに昨日は殆ど寝ていないから治癒能力を回復させる暇が無かったのだろう。
今の僕は、不死男ならぬ不不死男。ぜんぜん上手くないや。
――昨日の戦いは、思い出したくない。17年生きてきた僕の中で、一番の戦いだった。いや、もう妹の為に化け物と闘うとかどんなシスコンヒーロー漫画だよ。まあ、僕も化け物なんだけど。うわ、自分で言って自分で傷ついた。
僕は立ち上がって棚から包帯を取り出すと、乱暴に包帯を傷に巻きつけた。
「せめてガーゼとか何か当てましょうよ」
メイが呆れ顔で僕の包帯のまかれた左手を指さす。
包帯に血がしみ込んで赤くなっていた。――ゾンビみたいで不気味だ。
「いいよ。こんなの、そのうち回復するし」
よくない。絶対にこれは学校で引かれる。まあ、こんなのに引くような友達はいないから大丈夫か。てか、引かれる友達がいない。友達欲しい。男友達いないんだよ。
「ダメですよ。きちんと手当てしないと」
全くその通りだ。
「誰の所為だよ」
「さあ?」
「お前の所為だよ」
「そうだったんですか!?」
「本気で驚くな」
そうこうしているうちに、以津花と羽津花姉は食事を終えて、直に家から出て行った。――もうこんな時間か。
さっさと朝ごはんを食べて学校に行くとするか。




