第16歯 朝日と明日
「僕が純粋な不死鳥じゃなかったらどうなんだよ!」
吸血鬼に向けて横なぎに腕を振る。吸血鬼は軽くしゃがんでかわすと、ニヤリと笑いながら言った。
「本来なら、吸血鬼が不死鳥に勝てるわけがないのだ」
「――あ?」
お互いに、攻撃が止まる。
「純粋な不死鳥との闘いならば――いい勝負なんて出来るわけがない」
「私も、まさか人間に不死鳥が憑いているとは思わなかった――」
「本来、不死鳥が人間に憑く場合は、「転生」として行うのだよ」
転生――?どういう事だ?死なないんじゃないのか?
「不死鳥は、死ぬ代わりに他の生物の体の中に入って、その生物の体を奪って第2の人生――正確には人生ではないが――を、始めるのだよ」
「それが今の僕と何の関係がある?」
「お前は馬鹿なのか。本来、不死鳥に転生された生物の魂は死に、その体は完全に不死鳥となる――つまりは、不死鳥が本気で転生としてお前を使った場合は、お前が自我を保っているわけがないのだよ」
つまりは――こういう事だ。
不死鳥が他人に憑くのは、その体を奪う為であって、共生していくわけではない。
本来、ウィンドがただ生きたいだけで、僕に憑いたのならば僕が自我を保っていられるわけが無い。
死にたくなければ僕と共生せずとも、僕の体を奪ってしまえばイイだけの話なのだ。
僕が頭の中の整理を終える前に、吸血鬼は手刀を構えた。僕も考えることを辞めて、対応できるように身構える。
「フン――私としたことが無駄話をしてしまったな。さて、私は私の名誉の為にお前を殺すぞ。人間に憑いているとはいえ、不死鳥を倒せば、私の名誉も上がるというものだ」
…お前が名誉の為に僕を殺すというならば
「僕は妹の為にお前を殺す」
そうか、と言って吸血鬼は僕に飛びかかってきた。僕は吸血鬼の攻撃を回転するようにしてかわすと、吸血鬼のコウモリのような翼に軽く触れた。――敵意を込めて。触れた。同時に、吸血鬼の翼が炎に包まれる。
「忘れたかよ」
僕には――こんな能力だってある。
「ぐああああっ!」
翼が炎に包まれた吸血鬼はバランスを失って、地面に向けて垂直に落下していった。ズシンと、音を立てて吸血鬼が地面に墜落する。
吸血鬼から少し離れた位置に着地して、吸血鬼に向けて火球を投げつけた。
吸血鬼は大量のコウモリに化けて火球を回避した。――それでも、何匹ものコウモリは炎に包まれてぼたぼたと落ちていったが。
――数が多いな、一匹一匹対応するのは無理か。
僕は大きく翼を広げ、羽ばたいた。
僕の翼が巻き起こした風は炎を纏った暴風となり、コウモリたちを巻き込んで辺り一面を包み込んだ。
暗い深夜の教会を、紅い真紅の炎が照らす。
ぼたぼたと殆どのコウモリたちが地面に落ちて炭と化していく。何匹かのコウモリが地面に落ちた時、吸血鬼が姿を現した。
自身の分身を大量に失った吸血鬼がぼたりと地面に倒れる。全身が焼けただれている。
「貴様ッ――」
吸血鬼が、僕を睨んだ。確かな殺意をもって。
僕はちらりと自分の腕時計を確認した。この腕時計、あの状況でよくもまあ無事だったものだ。血でベタベタだったが、防水だから大丈夫のようだ。
時刻は、朝の4時ちょっと――そろそろ、日の出。
僕は紅い大きな翼を折りたたんで、うずくまって僕を見つめている吸血鬼に素早く移動して蹴り倒し、吸血鬼を踏みつけた。
ぐはっと、吸血鬼の口から息が漏れる。
「くくくっ……流石だな。元人間とはいえ、やはり不死鳥か……800年生きた私とした事が、油断した」
「800年生きた? それがどうした。僕はこれから800年以上生きる」
「ふっ、違いない……」
吸血鬼は、どこか遠くを見るような目をしていた。
「だがな人間。私も800年前は人間だったのだ。吸血鬼に吸われ、化け物になった。だがな、800年たった今、私は既に人間ではなく吸血鬼だ。心までも吸血鬼だ。人間、お前はまだ人間だ。体がいくら化け物になろうと、お前の魂は人間だ。魂まで化け物になるな」
「……言われなくても」
「そうか」
「……でもありがとう。僕を人間と呼んでくれて」
「なに、気まぐれだ不死鳥。もうすぐ日の出だ。ふふふっ……思えば、吸血鬼になって、夜に絶望しなくなったあの日が、私が化け物になった日なのかもしれんな……」
「……もうお前に絶望の夜はない」
暗い暗い夜に、終わらない絶望の夜に、一筋の光が――朝日が、明日が、吸血鬼を刺した。
僕はこの朝日と共に明日を迎え――吸血鬼は朝日と共に死を迎える。いや、吸血鬼にとっての悪夢が終わる。
「朝日は、800年ぶりだ――――ぁくっ――」
声にならない悲鳴を上げて、ほんの1秒ほどで、吸血鬼は形の無い塵となり、風に吹き飛ばされて消えた。
ぺたんと、地面に腰を下ろした。僕も限界だ。――僕の腕が人間のそれへと戻り、背中の翼は消える。――人間に戻れなかったらどうしようかと思ったが、その辺は大丈夫のようだ。
――――これで以津花も戻る。
さて、安堵と同時に大量の疲労が僕を襲った。どうやら、キャラにあわずに頑張りすぎてしまったらしい。僕の意識は、そこで消えた。
メイと姉妹の呼ぶ声で目を覚ますと、僕のベッドの上だった。メイあたりが、意識を失った僕を運んでくれたのだろう。
重い体を上げて、僕は下の階へ下りた。人間に戻った以津花が僕を迎えてくれた。
とりあえず、今回は一件落着なのだろう。
幸せな気分だった。全てが上手くいったと思った。
だから――――僕は、あんなことが起きているなんて、思いもしなかった。
ようやく終わりました。「ヴァインパイア×イツカ」。
次章は書いていますが、まだまだ途中なので、明日公開できるかは微妙です。
ようやく燈火さんをカッコよくすることが出来ました。化け物相手にはずっとボコボコにされてきただけでしたから。
では、愛想を尽かしていなければ、これからも読み続けてください。




