第14歯 不死鳥と死神娘の…
ぼーっと、瓦礫にうまって、足だけが出ている吸血鬼を見ていたが――僕ははっと我に返った。
――何をやっているんだ僕は。怒りに我を忘れて、メイの事を忘れていた。
急いでメイに駆け寄る。メイは大量の血を失い、白い肌がさらに白くなっていた。
――急がないとマズい。
人間は、全体の3割の血を失うと死ぬというが死神はどうなのだろうか。僕に至っては今回、全体の50割以上失っているとは思うけど死んでないし――てか、失った血が戻って来てる。じゃなかったら50割なんてありえない数値が出てくるわけない。
――とりあえず、死んではいないようだから大丈夫かな。死んでいなければ、直せる。
今の僕は、世界中のどの医師よりも腕が優れていると言っても過言ではない。
どんな万病も直せるのだから。
僕は丁寧に、しかし素早くメイの胸に突き刺さった鎌を抜いてメイの胸に手を当てる。緑色の光がメイの全身をつつみこんだ。
ふにゅっ
彼女の小さな、手のひらサイズの膨らみに――ああもう面倒くさい。胸を触ってしまった――バレたら殺され……なんてそんなことをしている場合じゃない。……あ、でもどうせ意識無いんだし、別に揉んでても治療は出来――
「何しているんですか?」
メイが、鋭く、冷たい眼で僕を睨んでいた。どうやらこの状態では、他人への回復能力もかなり上がっているらしく、一瞬で傷を完治させてしまったらしい。もう少しあの感触を楽しみたかったが、オーケー、今は僕の命の心配をしよう。
余りにも唐突に意識を戻したメイに、気をとられて、メイの胸から手を放すのを忘れてしまった。僕は固まってしまっていた。
数秒間、メイの小さな、しかし、確かにそこに存在する胸に触り続けていたことになる。
オーケー。命の心配も無駄だな。さようなら、地球。
ふう、とメイはため息をついた。思わずビクッとしてしまう。いや、まあ確かに純粋な戦闘力面でみれば、今の僕はメイに劣る所なんてそう無いのだろうが、怖いものは怖い。
いや、力で表すことが出来ない何かを、メイは持っている。てか、多分日常敵にメイの攻撃を受け続けているから、本能がメイを恐れているのだろう。
「全く、変態さんですね。燈火さんは。このままでは私の貞操が危ないです。服もこんなにビリビリで――」
確かに、メイは先ほどの戦闘で服はびりびり、服というよりは布に近い。下着は着用しているが、胸に当てる方の下着、俗にいうブラジャーは胸を貫いたときに既にまったく意味をなさないものへと変貌している。
よって、場合によってはメイの胸をダイレクトに拝めてしまうことになる。というか、僕は今ダイレクトに触っているわけだが――――――
僕が恐怖と興奮で固まっていると、メイは顔をほんの少し赤らめて……暗いのでよくは見えないが、多分、ほんの少しだけ赤らめて僕の方向を向いた。
「先程の戦闘でダメージを受けすぎました。動けません。……ですから、そのままで、私を回復させてください」
「へ?」
んー、と、状況整理。
僕=メイの胸を触っている。――治療治療。いや、治療だってはっはっはっは。
その僕に「そのままで」治療しろ。と、メイは言った。
何だと――!?これはもうオーケーサインなのか!?
ありがとうございます!わたくし、鬼冴三燈火は見事当選いたしました!世界中の皆様温かいご支援を誠にありがとうございました!この鬼冴三燈火、本日、漢になります!
「襲いかかってきたら千切りにしますからね」
オーケーサインじゃなかった。残念。さっきまでのテンションがガタ落ちした。てか、もう動けるんじゃないか?僕の手から緑色の光が漏れていないということは、治療が終了した合図だから。
――それでもまだ治療してという事は――え?マジで?
「わかった。僕が全身全霊を持って、お前をこの状態のまま、治療しよう」
僕は極めて「はーどぼいるど」に言った。
いや、この状況でもうすでにハードボイルドのハの字もないんだが。てかハードボイルドの意味がようわからん。
僕の言葉を聞いてメイは、ふっと笑うと「黙ってください変態さん。動ければこんなことさせませんから」と言った。
とりあえず、僕はこのまま至福の時を過ごすことにしよう――――ん?
メイとイチャイチャしていると、ガラガラと瓦礫をかき分けて、吸血鬼が立ち上がり、僕の方へ駆けて来た。
しまった――忘れていた――!
畜生!予想外のおいしいハプニングに油断をしていた――やられ――――なかった。
僕は自分でも驚くほどに素早く動いて、吸血鬼の突進を受け止めた。まさか自分でも対応できるとは思わなかった。そのままもつれ合うようにして教会の窓を破壊して外に飛び出した。




