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不死鳥!-ふぇにっくす!-  作者: 起始部川 剛
第4章 ヴァンパイア×イツカ
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第8歯 不死鳥兄と眠り妹

僕は、気絶した以津花をお姫様だっこをしながら、家に帰った。

気を失った人間は、ここまで重いものなのか――とはいえ、僕の左腕はまだ化け物のそれになっているため、腕力が通常の人間の何倍にも増幅されており、いくら重くても人間の体重程度なら全然平気だ。多分、200キロくらいは軽くもてる。場合によってはそれ以上かもしれないが、どうも僕には力の強弱があり、左腕が化け物の状態でも、戦闘力に大きな差がある。


まあ、よくはわからないが、きっと体が慣れていないからだろう。本気の出し方がいまいち分かっていないのかもしれない。

極普通の男子高校生の器に、人間の数十倍もの力を持つ化け物の魂が入っているのだ。許容量を大きく超えている。そう簡単に慣れるとも思っていないし、慣れようとも思わない。


中途半端だが、それでいい。無理に器をデカくする必要はない。勝手に器が大きくなってしまったらそれはそれでいいのだが、無理に化け物になるために器を大きくしようなんて僕は思わない。というか、僕は自分が化け物になるのが嫌なのだ。

無論、この力が無ければ以津花は吸血鬼のままだっただろうし、それどころか以津花と出会った時点で――もっと言えばあの公園で、僕は既に死んでいたのだから、嫌なものだ。


だから、僕はこの不思議な力を手に入れて、嬉しいとも思うし、半面苦痛でもある。

仮面ライダーやウルトラマンみたいに、「普段は人間だが敵と戦う時だけ大きな力を得る」という力ならば素直に喜べたのかもしれないが、僕の場合は「普段から常に化け物で、敵と戦う時はもっと化け物になる」という感じなのだ。


別に大きな力を手に入れたのが嫌なわけじゃない。自分が化け物なのが嫌だ――というのもあるが、それよりも友達そんなにいないけどと喧嘩をしたり、ちょっと人をどついただけで、相手を大怪我――場合によっては殺してしまうのかもしれないのが嫌なのだ。


自分で自分の制御が出来ない。


制御しているつもりでも、強化されている脚力や、左腕の腕力の制御は難しく、通常の状態でも軽く石を蹴ったつもりが、かなりの飛距離をたたき出す事なんて多々ある。


ペンを握っている左手(ちなみに僕は左利き)が、気付いたらペンをへし折っていた時はかなり凹んだ。それからは右手で文字を書くようになったほどだ。うとうとしていた為に制御がきかなかったのだろう。自分では殆ど力を入れていないつもりでも物を破壊するほどの力を出してしまっているというのは、恐ろしい。


そんなことを考えながら家のドアを開けると、心配そうな顔をしたメイと、羽津花姉が居間から飛んできた。


「どうしました!? 燈火さん!」

メイが、以津花と、僕の状態を見て、取り乱したように僕に言った。こんなに取り乱しているメイを見るのは初めてだ。

両方の顔を見てから、以津花を玄関に下ろして言った。

「以津花が、吸血鬼に襲われて、吸血鬼になった」


以津花をおろして、僕は自分の部屋に上がった。メイは部屋に上がる僕を心配そうな目で見ていたが、まずは以津花が先だと思ったのだろう。

以津花を布団に寝かせて、縛り付けた。多分、以津花が意識を戻した時に、暴れないように――さすがは死神だ。手際がいい。


そのまま自分の部屋に入ってドアを閉める。ふう、と一度ため息をついた後、クローゼットを開けた。

僕は破れた薄い緑色のパーカーを脱ぎ捨てて、クローゼットから赤いパーカーを取り出して、着た。赤い赤い赤。僕の血の色。不死鳥の炎の色。そして――吸血鬼の眼の色。



何気なく時計を見ると、午前3時を過ぎていた。随分と長い間走り回ったものだ。急がなければ。朝になれば吸血鬼はきっと、どこかに行ってしまう。――いや、もしかしたら教会で寝ているから寝こみをグサッと行けるのかもしれないが、それを待つわけにもいかないし――待つ気も無かった。


僕は、ベットに縛り付けられている以津花の所に行き、以津花の額を軽く撫でた。よく見ると、以津花の着ている服はボロボロだった。きっと最後まで、血を吸われまいと抵抗したのだろう。主に胸から上の部分が、ビリビリに、何かにひっかけたように破れている。


それを見て――僕は怒りをを覚えた。誰かにここまで大きな怒りを覚えるのは随分と久しぶりだ。もしかしたら生まれて初めてかもしれない。それほど大きな怒りが僕を支配した。


吸血鬼――許せないな。これは。


「待ってろ以津花。絶対に助けるから」



そう言って僕は靴を履いて家を出た。何も持たずに。ただ、ジーンズと赤いパーカーを着て。行く場所は決まっている。あの、森の中の古びた教会。


僕は怒りに身を任せるように、静かな、明りの無い夜の街を駆けた。

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