第2羽 不死鳥男と不良娘
授業の終わりを告げるチャイムがなった。
一生化け物。その言葉が、僕に重く圧し掛かる。いつも授業を聞いていないが、今日はいつもよりも授業の内容が頭に入らなかった。一生化け物。化け物。僕が。化け物。
とぼとぼと、重い脚で家へ向かう。もう、公園に向かおうとすら思わなかった。
足元を見ながら歩いていると、人の少ない路地で何かにぶつかった。思わず僕はしりもちをつく。恐る恐る、ぶつかったものを見上げると――そこにいたのは、学園最強の不良。須藤雷花だった。
時代遅れのロングスカートに茶髪に長いポニーテール。美人でおっぱいも大きいのだが、上級生の不良グループのリーダーをワンパンで沈めたとかで、現在この学園最強の女だ。一匹狼なのに、その強さは学校一つつぶせるとかなんとか。僕は同級生の、恐れ多き学園最強の女に追突してしまったわけで、案の定僕は、襟をつかまれて恐ろしいパワーでグイっと持ち上げられた。
「アァン? お前今オレにぶつかったよな?」
「あ……あの……すいませ……」
もちろん、弱気な方が僕。強気な方が僕なんて天変地異が起こったところでありえない。弱者を作り出すのは強者と言うが、ならば僕は作り出される弱者だ。どうやら最強の女はオレっ娘らしい。まあ、今から死ぬ僕には関係ない。さようなら、妹よ。姉よ。愛してたぜマイシスター。
「誤って済むと思うかっ!」
僕の腹に重い拳がめり込む。と、同時に彼女が僕を放した。僕がその場に崩れ落ちる前に、僕の頭に衝撃が走る。どうやら彼女の蹴りが額に入ったらしい。
人間の脚力でそれほど飛ぶのかというほどの距離を僕は吹き飛ばされ、地面に頭から激突した。額からどくどくと血が流れる。
僕を蹴り飛ばした女は、どすどすと僕に近付いてくる。
本当に殺される。マジで。殴られた腹が痛い。僕は這うように逃げようとしたが、僕は髪の毛を引っ張られ、無理やり立たされた。
「オレは今日、用事があるんだ。今回はこれで勘弁してやる」
そういうと、須藤は、僕の顔を殴った。僕は、再度吹き飛ばされて電柱に激突した。
僕の額からは、恐らく僕が生きてきた中で初めてと思われるほどの量の血が流れ、僕の視界をふさいでいた。
最悪だ。僕はこんなに運が悪かったのか?化け物になるわ不良にボコボコにされるわ。
『情けないのう。お主は人間ではないのだぞ。傷を触ってみろ』
痛くて動けねぇよ。……あれ。痛くない。動ける。言われた通り、僕は額の傷を触ってみると、傷が無い。ここまでなのかと、僕は改めて不死鳥の恐ろしさを知ったと同時に、少しばかり自分の能力の高さに高揚した僕であった。
―――――――――――――――――――――――
僕は、回復した体で自分の家に帰った。そして、ウィンドが言った、自分の化け物の力というものを急に試してみたくなった。
「ウィンド! 不死鳥の力とやらを試してみたい。僕に力を貸してくれ!」
住宅地で一人で叫ぶ僕。コレかなり恥ずかしいんじゃないか?
『うるさいのう。お主の考えていることはわらわにダイレクトにつたわっとるのだ。叫ばなくても、頭の中で呼んでくれればわらわも応じるわ。・・・どれ、ほいっと』
左腕が、また、鳥の化け物のようになるが、大きい力を手に入れたら試してみたくなる。スパイダーマンだってそうだっただろう?
手始めに、僕の家の屋根の上にでもジャンプするか。
「とうっ!」
両手を振り上げてジャンプしたのだが、はてはて、僕の左腕はしっかりと化け物のそれへと変化しているのに、僕のジャンプ力は普段のままだ。
化け物って、言うものだから、てっきりそれくらいできると思っていたのだが、空を飛んだり出来ないのかよ。回復能力と腕だけかよ。スーパーマンみたいに空を飛べないのか。
『飛べるぞ』
頭の中で、ウィンドが話しかけてきた。
『とはいえ、お主にはまだ無理な話だろう。自分の背中に翼の生えるイメージが出来るか? 自分のジャンプ力が、上がるイメージができるか? 無理だろう。お主が使える能力なんてデフォルト状態で増加している聴力、視力、回復能力位だろう。そのうち使えるようにはなれるかもしれんが、きっかけがなければ無理だろう』
うそーん。スーパーマン大作戦失敗。
回復力と聴力と視力でどうやってヒーローになれっていうんだよ無理無理無理。
要するに、時間をかけて想像力を上げれば、そういうことが出来るらしい。
でも、せっかく手に入れた能力だ。使わなければ損だろ。
とりあえず、何も考えずに遠くに見える山を見てみた。山に意識を集中させじっくりと観る。
僕の眼が、紅く染まる。
「おおぅ」
思わず声を漏らす。すげえ。山の木々の間までくっきりと見える。それどころか、落ち葉1枚1枚まで鮮明に見える。お、キツネだ。初めて見た。耳に意識を集中させてみるとそのキツネの足音まで鮮明に聞こえる。これはいい。役には立たないが、いい暇つぶしになる。
さて、ここで僕はノーベル賞並みの素晴らしい発想を思いつく。――僕は頭が悪いので、実際凄い事=ノーベル賞に結びついてしまうのだが。
前言撤回。これ凄い役に立つ。これでのぞきをしよう
そう決めた時の僕の漢らしさったらもう。
とりあえず、除きやすくするために僕は自分の家の屋根に上った。人間のころと比べて身体能力が上がっているのか思ったより簡単に屋根に上ることが出来た。
さぁて。どこから行くか。
へっへっへっと変態チックな笑いを上げる僕。今まではなぜこんな笑い方をするのか疑問だったが、今ならわかる。これ、普通にこうやって笑いたくなる。
とりあえず、僕はこの眼を使って、町中を見渡した。マンションの部屋、家の窓など手当たり次第に除く。
ふと、僕が昨日刺された公園が気になって見てみた。僕の血だまりが残っていたら大変だ。DNA鑑定とかで僕の家に来られたら困る。
うーん。血は残ってないな。というか、僕の倒れていたと思われる場所がそこだけ焼野原みたいになってる。これはこれで問題だろうけど。
ふと、公園で何人もの不良が騒いでいることに気が付いた。
――――なんだ。喧嘩か?
絵にかいたような見た目の不良のグループが、喧嘩をしているようだった。というか、一人の女を十数人でボコボコにしているようだ。――――ボコボコにされているのは。
須藤雷花。
僕は、思わず立ち上がった。