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不死鳥!-ふぇにっくす!-  作者: 起始部川 剛
第4章 ヴァンパイア×イツカ
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第6歯 不死鳥男と吸血妹

「以津花……お前……」


 僕は、以津花と思われる生物に声をかけた。

 見慣れた、肩まで伸びた髪。見慣れた服に短いジーンズ。その(、、)生物は(、、、)鬼冴三(、、、)以津花(、、、)そのもの(、、、、)だった。しかし、それは人間(、、)鬼冴三以津花(きざみ いつか)ではなかった――


 鋭く伸びた爪と、長く鋭い八重歯、そして紅くほのかに輝く瞳。それはまるで―――化け物。

 以津花?いや、そんなわけが……


 認めたくなかった。この生物が以津花だと。僕には認められなかった。僕を睨む紅い眼の少女が以津花だと――だが――

『いや、お主の想像通り、お主の妹で間違いないようだの』

 現実は残酷だった。

 そんな現実だろうと、認めなければならないのだろう。

 コイツが以津花では無いと言われる方が、コイツが以津花であると言われるよりも説明がつかない――


「僕の妹は、こんなに攻撃的なスタイルじゃないぜ……」

 以津花らしき生物と見つめあったまま、じりじりと動く僕。僕に合わせて、以津花らしき生物もじりじりと横に動く。以津花は、キシャアァアアァァァと僕を威嚇するようにうなると、腰を落とした。戦闘態勢……やる気満々かよ。こっちは気持ちの整理が収まってないし、たとえおさまったとしてもやりあうつもりなんてさらさらないというのに……

「ちょっと遅めの反抗期か?」

以津花の攻撃に備えて身構える僕。

『大方、吸血鬼に血を吸われたんだろうな。今のあやつはお主の妹ではない。吸血鬼の、(しもべ)だ」

「はっ……吸血鬼なんかに、うちの妹をやってたまる――――うわっ!」


以津花が、地面を蹴った。僕に目掛けて高速で突っ込んでくる。僕は、体をねじるようにしてギリギリ攻撃をかわすが、お気に入りの薄い緑色のパーカーの肩を持っていかれてしまった。畜生――――速い!

僕はくるくると体を回転させて、その場から離れる。

以津花は、何故か僕の方へは向かってこず、ビジネスホテルに向かって突っ込んでいった。


赤、黄、緑、灰色、青、紫のお気に入りのパーカーも残り半分。黄色、青、緑を駄目にしてしまった。死神、河童、そして妹に、破かれてしまった。今の僕には服を買うお金なんてないのに――


「な――しまっ――!」

 以津花はビジネスホテルの壁を蹴り、ピンボールのように跳ね返って来て僕の方へ戻ってきた。先程よりも速い。僕の眼でその動きをとらえることは出来たが、対応が出来ない。高速ではじき返ってきた以津花の突進を腹に食らってしまった。激しい衝撃に吹き飛ばされまいと踏ん張ったが、僕の体は以津花に押されてザリザリと地面を削ってその場から1メートル程同じ体勢で地面を滑る。

 先程食べたばかりのおでんが、僕の胃から逆流してくるのがわかる。僕がそれを口から出すまいとこらえているのも構わずに、以津花は僕の顔を殴り、僕が殴られたと感じる前に、僕の腹を蹴り、殴り、切り裂いた。


 吐き気のする痛み。口からぼたぼたと血が飛び散る。内臓が傷ついたようだ。このまま何もしなければ、やられる。


 僕は、自分の腹にめり込んでいる以津花の脚を両腕でがっちりと掴んだ。

「目を覚ませって! 以津花ぁ!」

そのまま、遠心力で自分の体をねじるようにして、以津花を後ろに投げ飛ばした。吐き気のする痛み、全身の激痛が、一瞬で引く。傷がだいぶ治ってきたところで僕は体勢を立て直す。

顔に付いた血を拭おうと顔に手を当てる。僕の手で一瞬視界が塞がれる。僕が自分の顔から手をどかした時――

以津花は、目の前にいた。

――速すぎる。


 以津花は大きく振りかぶって僕の左頬を右手で殴った。顎の骨が粉々になる音を聞かされた。約6メートル、僕は後方に弾き飛ばされる。空中で体勢を整えてくるりと回転して地面に着地するが、踏ん張りきれずに転んで一回転してしまった。


僕はその回転を利用して後転の要領で立ち上がった。直に立ち上がったのだが、視界に以津花がいない。しかし、殺気は感じた。真後ろに感じる以津花の殺気に、反射的に自分の真後ろに上段回し蹴りをした。

 以津花は片腕で僕の蹴りを受け止めたが、踏ん張りきれずに地面が足から離れた。

以津花も、僕と同じで、攻撃力は高いけど、防御力が低い。これなら勝機はある。まだ以津花も完全に吸血鬼になっていないという事だろう。防御力が殆ど人間のままだ。なら、こちらの攻撃が通らないことはない。――が、僕にとっては戦い辛い。


低いとはいえ、人間とは比べ物にならない防御力は有しているだろうが、あまり本気を出し過ぎると、殺してしまう可能性がある。とはいえ、本気を出さずに勝てる相手でもない。僕には、攻撃するときだけ手加減して、防御するときは本気を出す――なんて便利なスイッチの切り替えは出来ない。


「ッ――て、ええ!?」


以津花は、僕の脚を掴んで、僕の脚を軸にして空中で体勢を整え、そのまま僕のこめかみに蹴りを入れてきた。


完全に油断していた――

そうだ。相手は人間ではなく、吸血鬼なのだ。人間では考えられないような動きをしてくるに決まっている。しかし、僕は発想が人間の域を超えていない。だから――人間ばなれした行動に対処が出来ない。空中で何回転もしてから地面にたたきつけられる。衝撃で肺から酸素が絞り出され、口の中にわずかに血の味が広がる。以津花は、咳き込んでいる僕の腹を蹴り飛ばした。僕はごろごろと地面を転がってビジネスホテルの壁にぶち当たった。立つことが出来ない。以津花はゆっくりとこちらに近付いてくる。倒れている僕に向かって、まるで勝利を確信したかのように、勝者の余裕をもって、ゆっくりと近づいてくる。

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