第4歯 不死男と死神娘の箸
家に帰ると、既に夕食の用意が出来ていた。
「あ、燈火さん、お帰りなさい。『ないすたいみんぐ』ですね。丁度ご飯の用意が出来た所です」
「おーぅ。燈火は間に合ったかー」
羽津花姉とメイが食卓についていた。
「あれ? 以津花は?」
そのまま自分の席に着く。
いつもなら、僕の前に座っているはずの以津花の姿が無かった。
「うーん? まだ帰ってないみたいだな? 一回帰って来たんだけど、着替えてすぐにどっかいっちゃったしなぁ。男の家にでも上り込んでるんじゃないかー?」
「羽津花姉でもあるまいし……」
「あぁ? なんか言ったか?」
「いえ。何も行ってません」
姉の気迫に押されて思わず敬語で反応してしまう僕。怖い。不死身でも怖い。
「はい。どうぞ」
「あ、サンキュ」
メイが僕のご飯を盛り付けて僕に手渡す。相変わらず僕とぴったりくっついてご飯を食べるメイ。コイツ、僕に気があるんじゃないか?なんて男子中学生みたいな勘違いはしない。僕はもう大人なのだ。この程度でそのような勘違いをするほど僕の頭は単純ではない。が。それにしてもメイはいい匂いだな。
「何、人の頭の匂いを嗅いでいるんですか。不快です。一回死んでください」
「いっ!」
僕のふとももに痛みが走る。犯人と凶器を予想した僕の推理に間違いはないとは思うがとりあえず自分の太ももを確認する。
メイが僕のふとももに箸を突き刺していた。
やはりかっ!コイツが僕の近くにいるのは攻撃するためだ!間違いない!
コイツ箸を僕のふとももに突き刺しやがったぞ!?しかもかなり深い!5センチは突き刺さってるぞ!
「うるさいです。静かにしてください。そんなに珍しい事でもないでしょう」
「箸を凶器としてふとももに突き刺す女子は世界中探して多分お前だけだ!」
メイは血だらけの箸を引き抜いて、そのままご飯を掴んで口へ運ぶ。血で白い米がほのかにピンク色に染まる。
僕の血を拭き取らずに食べるな。怖い。
口の周りに僕の少量の血がついていた。箸に付いた僕の血が付いたのだろう。それはまるで、人の血を吸った吸血鬼のようだった。
「何、人の唇見ているんですか気持ち悪い。不快です。もう一回死にますか?」
「いや……なんか吸血鬼みたいだな――ッでぇ!」
ぐちゅっ
目つぶし入りましたー。指で付きやがった。今の音って、目、潰れてない?
「あでだっ! 失明するだろ!」
「あんな血を飲んで生きている種族と一緒にしないでください不快です」
痛みが和らいでいくのと同時に何も見えずに暗黒を映していた瞳(先程まで存在していたかどうかも怪しいが)に徐々に光が戻ってくる。
「あー……痛いな……吸血鬼に恨みでもあんのか?」
メイは素早く箸でおでんを掴んで、僕の顔におでんの大根を投げつけた。
「熱ッ! 食べ物を粗末にするな!いい加減に、僕を攻撃するのをやめろ!」
炎に耐性はあっても何故か熱い物に耐性が無い不死鳥。とはいえ、火傷もすぐに消えるし水ぶくれも出来ないけれども熱い物は熱い。
僕に怒られてしゅんとするメイ。なんだ、可愛いとこあるじゃない――
「そうですね。ごめんなさい。大根に失礼でした」
「大根じゃなくて僕に謝れ!」
前言撤回。やっぱり死神だコイツは。
メイは僕の言葉を無視して、僕の膝の上に落ちた大根を拾って食べた。ちゃんと食べるのね。えらい。
「3秒ルールです」
3秒ルールを知っているのか。なんて人間的な死神。でも3秒ルールなんて嘘だからな。一回落ちたら3秒も4秒も変わらん。流石に1週間クラス地面に置いておくとアウトだけど。
というか、僕の膝は床扱いかよ。そんなに汚くないだろ。血だらけだけど。
もちゃもちゃと口を動かして大根を飲み込むメイ。そのまま表情を変えずにメイは僕を睨んだ。
「吸血鬼。貴族ですからね。嫌いです」
「貴族ねぇ……『ルネッサーンス!』ってやってんのか?」
「……」
うわ。滑った。何と無くわかってたけど。口を開いた瞬間失敗だと思った。そんな冷たい目で僕を見ないで。元から冷たい目つきだけどその目つきがさらに冷たい目つきになると怖すぎる。