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これは私の夢物語

星姫スピンオフ 〜願いの生まれた夜〜

掲載日:2026/05/08

「星姫 〜天の星、地の人〜」のスピンオフ短編です。


涙を封じる前の、

母娘の小さな、切ない記憶。

ーー星は告げ、天は応える。

夜は隠した星を解き放ち、月は満ちて輝く。


ただひとつ、流れ落ちる煌めきは

天なる星が、命として地に生まれた証となる。


星に愛されし少女は、やがて“星姫”と呼ばれる。

避けられぬ運命の果てに、星の命運を決めるだろう。


ーーけれど、静寂に包まれた夜。


予言の成就とは違い、セレスティア家は喜びに満ちた。

愛らしい娘の誕生を告げる、微かな泣き声。

生涯をかけて守りたいと思える、大切な娘。


星姫とか、運命とか、そんなものよりずっと。


幸せになって欲しい。

それだけで、本当にそれだけでよかった。


友達を作って、笑って、泣いて。

誰かと手を取り合って、互いを支え合って。

どこにでもいる、普通の子どものようにーー。


マヒナは、小さな手を優しく包んだ。


            ◇


マナが7歳のあの日を、マヒナはずっと後悔している。


吹き荒れる風が、建物を引き裂いていた。

息もできないほどの暴風に、動けなかった。


腕が、痛かった。

涙がひと粒落ちると共に、衝撃が響いて。

傷ついたそこから、じわじわと熱が広がる。


けれど、それ以上に。


目の前には、声をあげて泣く娘がいた。


小さな身体を震わせて、言葉にならない涙。

息もうまくできずに、服を濡らしていた。

駆け寄って、慰めたいのに、何もできない。


「ごめんなさい・・・っ!」


涙を流しながら駆け寄る姿に、胸が痛んだ。


あなたは謝らなくていい。

謝るべきなのは、私なのに。


言い出せない想いが、喉につっかえていた。


けれど、それよりもーー。


ほんの一瞬だけ、怖いと思ってしまった。

愛する娘の力を、恐れてしまった。


(違う、そんなわけない)


すぐに心の奥で、否定した。


娘はこんなにも、泣いているのに。

誰よりも恐ろしくて、怖かったはずなのに。

怯えていてもなお、親を気に掛けたのに。


誘拐されかけたとき。


どうして助けられなかったのだろう。

どうして慰められなかったのだろう。


母親なのに、護ってあげられなかった。


           ◇


夏休みが明けた日、マナは笑顔で学校に向かった。


また友達と、遊べたらいい。

仲良くして、理解してもらえたらいい。


親にできないことでも、友達ならーー。


「・・・星姫なんて、いやだよ・・・」


夕方、学校から帰ったマナ。

星の宿った瞳に、雫を浮かべていた。


無理矢理、心を鎮めようとして。

涙が流れないように、なんとか抑えようとして。

あまりにも痛々しい姿に、何も言えなかった。


何を言ったら、何をしたらいいのか。

抱きしめて、声をかけて、お菓子を出して。


どれも違う気がして、言葉が出なかった。


ーーそして、間違えた。


「・・・星姫であることは、素晴らしいことなのよ」


口にしてすぐ、違うとわかった。


これは今、この子が求めている言葉じゃない。

運命に苦しむ子どもに、かける言葉じゃない。


マナの肩が、びくりと震えた。


ゆっくりと顔を上げた瞳はーー

涙に濡れて、光を失いかけていた。


色を失った星だけが、沈んでいた。


「なんで、わかってくれないの・・・?」


かすれた声で、すべてが崩れた。


ただ、護りたかっただけなのに。

ただ、幸せになってほしかっただけなのに。


それなのに。


マヒナはーー

娘を、独りにしてしまった。


願いは風に流れ、やがてーー。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。


この物語は、本編へ繋がっています。

いつかマナが出逢う“友達”たちも、

彼女にとって大切な、小さな星になっていきます。

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