星姫スピンオフ 〜願いの生まれた夜〜
「星姫 〜天の星、地の人〜」のスピンオフ短編です。
涙を封じる前の、
母娘の小さな、切ない記憶。
ーー星は告げ、天は応える。
夜は隠した星を解き放ち、月は満ちて輝く。
ただひとつ、流れ落ちる煌めきは
天なる星が、命として地に生まれた証となる。
星に愛されし少女は、やがて“星姫”と呼ばれる。
避けられぬ運命の果てに、星の命運を決めるだろう。
ーーけれど、静寂に包まれた夜。
予言の成就とは違い、セレスティア家は喜びに満ちた。
愛らしい娘の誕生を告げる、微かな泣き声。
生涯をかけて守りたいと思える、大切な娘。
星姫とか、運命とか、そんなものよりずっと。
幸せになって欲しい。
それだけで、本当にそれだけでよかった。
友達を作って、笑って、泣いて。
誰かと手を取り合って、互いを支え合って。
どこにでもいる、普通の子どものようにーー。
マヒナは、小さな手を優しく包んだ。
◇
マナが7歳のあの日を、マヒナはずっと後悔している。
吹き荒れる風が、建物を引き裂いていた。
息もできないほどの暴風に、動けなかった。
腕が、痛かった。
涙がひと粒落ちると共に、衝撃が響いて。
傷ついたそこから、じわじわと熱が広がる。
けれど、それ以上に。
目の前には、声をあげて泣く娘がいた。
小さな身体を震わせて、言葉にならない涙。
息もうまくできずに、服を濡らしていた。
駆け寄って、慰めたいのに、何もできない。
「ごめんなさい・・・っ!」
涙を流しながら駆け寄る姿に、胸が痛んだ。
あなたは謝らなくていい。
謝るべきなのは、私なのに。
言い出せない想いが、喉につっかえていた。
けれど、それよりもーー。
ほんの一瞬だけ、怖いと思ってしまった。
愛する娘の力を、恐れてしまった。
(違う、そんなわけない)
すぐに心の奥で、否定した。
娘はこんなにも、泣いているのに。
誰よりも恐ろしくて、怖かったはずなのに。
怯えていてもなお、親を気に掛けたのに。
誘拐されかけたとき。
どうして助けられなかったのだろう。
どうして慰められなかったのだろう。
母親なのに、護ってあげられなかった。
◇
夏休みが明けた日、マナは笑顔で学校に向かった。
また友達と、遊べたらいい。
仲良くして、理解してもらえたらいい。
親にできないことでも、友達ならーー。
「・・・星姫なんて、いやだよ・・・」
夕方、学校から帰ったマナ。
星の宿った瞳に、雫を浮かべていた。
無理矢理、心を鎮めようとして。
涙が流れないように、なんとか抑えようとして。
あまりにも痛々しい姿に、何も言えなかった。
何を言ったら、何をしたらいいのか。
抱きしめて、声をかけて、お菓子を出して。
どれも違う気がして、言葉が出なかった。
ーーそして、間違えた。
「・・・星姫であることは、素晴らしいことなのよ」
口にしてすぐ、違うとわかった。
これは今、この子が求めている言葉じゃない。
運命に苦しむ子どもに、かける言葉じゃない。
マナの肩が、びくりと震えた。
ゆっくりと顔を上げた瞳はーー
涙に濡れて、光を失いかけていた。
色を失った星だけが、沈んでいた。
「なんで、わかってくれないの・・・?」
かすれた声で、すべてが崩れた。
ただ、護りたかっただけなのに。
ただ、幸せになってほしかっただけなのに。
それなのに。
マヒナはーー
娘を、独りにしてしまった。
願いは風に流れ、やがてーー。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
この物語は、本編へ繋がっています。
いつかマナが出逢う“友達”たちも、
彼女にとって大切な、小さな星になっていきます。




