第3話 双子の蜂娘
あくる朝、悲しみが覚めやらぬ中、三人で話し合いの場を設けた。
結論として、まずは組織の人数を増やすことになった。
ただし、食料の問題などもあるので一気に人数を増やしすぎるのはやめておくことにした。
「まずは戦闘員だな」
俺はウズラぐらいの小さな卵を50個まとめて金のお皿に置き、赤いレバーを引いた。
ピコン ピコン
グイーン
ガシャガシャ
例によって中央のカプセルに煙が立ち込め……
やがて白いカプセルの扉が開かれた。
「ウッヒョ!」
「ウッヒョ!」
「ウッヒョ!」
次々に出るわ出るわで総勢50名の全身黒タイツの戦闘員。
「『イーッ!』じゃなくて『ウッヒョ!』なんだね」
「次はどの卵にしよかな?
あっ、このピンク色のかわいい卵なんてどうだろう。
ねっ、父さん?」
「いいんじゃないか。
いってみよう!」
父さんのオッケーも出たことだし、俺はピンクの卵を手に取り、金の皿の上にそっと置きレバーを引いた。
ガチャン
ピコン ピコン
グイーン ガシャガシャ
ウィーン
ピンク色の煙がカプセル内に立ち込め、やがてガラス扉がゆっくりと開かれる。
中から怪人が姿を現す……
はずだったのだが……
「あれ?
怪人はどこ?」
カプセルの中は空っぽだった……
俺はカプセルの中を覗き込んだ。
父さんはその様子をジッと見つめたままだ。
「怪人の姿が見えませんぞ?」
トゲトゲくんも首を傾げる。
「おかしいなぁ……」
俺が辺りを見回したそのとき……
「ここよ!
こーこーっ!
あんたバカァ?
こっちを見なさいよ!」
耳元で甲高い声が響いた。
振り向くと目の前を小さな虫が飛んでいる。
「へっ?
……蚊?」
「失礼ね!
私は蜂よ蜂!
蚊はもっと小さいでしょ!」
その小さな虫はえらくご立腹だ。
「ひょっとして今カプセルから出てきた怪人さんって……
キミ?」
「そうよ!
なんか文句ある?」
「い、いえっ!
滅相もございませんっ!」
俺は思わず姿勢を正して否定した。
「私の名前はシュークよ!
仲間になってあげるんだから、あんたたち感謝しなさいよ!」
「えっ!?
怪人に名前ってあるの!?」
思わず俺は聞き返した。
「あったら悪いの?
なんか問題でも?」
「い、いえ……
ノープロブレムです……」
俺は気をつけのまま答える。
「で?
私になんか言うことがあるんじゃないの?」
蜂娘は腕組みしながらこっちを睨む。
「はぁ?
何を?」
俺は首を傾げた。
「私が仲間になってあげるんだからさ!
感謝の言葉くらいあるでしょうが!」
「あっ、はい!
仲間になってくださってありがとうございます……」
「わかればいいのよ。
最初からそういう態度なら、私も怒らないんだからね。
以後、気をつけなさいよ!」
父さんにチラリと視線を向けるとクククと必死に笑いをこらえている。
少しは助けてよと目でサインを送ると、父さんはサッと視線をそらした。
どうやら状況を楽しんでいるようだ。
ひどいよパパーン……
「あんたたち返事は!」
「「「は、はい!」」」
シュークの勢いに押されて笑っていた父さんまでもが姿勢を正し返事をする。
「声が小さいっ!」
「「「「はいっっっっ!」」」
一同の声がアジトに響く。
「もうっ!
すぐカリカリと怒らないの!」
どこからともなく女の子の声がした。
「あれ?
女の子の声がするぞ?」
俺たちは辺りを見回した。
「ここよ!
ここよ!
ここですわ!」
声のする方へ顔を向けると、小さな影がふわりと舞っていた。
「えっ?
また、蜂?」
俺は声に出して言ってしまった。
また、怒られる!?
だが、それは杞憂に終わった。
「初めまして。
大首領ソル様。
大幹部ライト様。
そしてトゲトゲ隊長。
私はリームと申します。
お姉ちゃんが失礼なことばかり言って申し訳ありません」
姉妹は姉妹でもこの差はなんだ。
仕草はきちんとしていて、声のトーンは柔らかい……
どっかの跳ねっ返りと大違いだ。
俺はチラッとシュークを見た。
「あんた、なんか言いたそうね」
シュークは睨みをきかしてくる。
「い、いえ、なにも……」
「シュークちゃんとリームちゃんは双子の姉妹なのかな?」
父さんが尋ねた。
「はい、双子の姉妹ですわ。
姉はシュークで私は妹のリーム」
「「ふたり合わせてシュークリームです」」
ふたりは空中で可愛らしくカーテシーをした。
「へえ……
姉妹でも性格は真逆なんだね」
あっ、思わず余計なことを口走ってしまった。
シュークは俺の前をブンブン飛び回りながら口を尖らせる。
「どう違うのか、ぜひ聞かせてよ?
返答次第ではあんたの前頭葉に毒針をぶっ刺すわよ!」
「もう!
お姉ちゃん!
そんな失礼な態度はやめなさい!」
「だって〜……
こいつの方が無礼じゃん!」
「だからライト様に向かってそんな言葉を使ってはいけません!」
「はい、はい。
ほんとにあんたは真面目ちゃんなんだから」
「だ、大首領様。
いかがいたしましょうか。
引き続き新しい怪人を製造いたしませんか?」
トゲトゲくんが気を使って場の雰囲気を変えようとする。
「そ、そうだね。
じゃあライト、続けて卵を載せていこうか」
「う、うん。
そうするよ。
さ、さあ今度はどんな怪人かなあ。
今度もシュークみたいに可愛い怪人が出てくるかなあ(棒読み)」
「あんた、そんな薄っぺらいヨイショで私をバカにしてたら、本当に前頭葉に毒針ぶっ刺すわよ」
「ごめんなさい」
シュークに謝罪すると、俺はあらためて白い卵を金の皿の上に置いた。
ガチャン
ピコン ピコン
グイーン ガシャガシャ
ウィーン
「ハムスター!?」
なんだか微妙だな……
俺は父さんと目が合い苦笑いする。
「キミの名前はハムっちね」
俺は失礼ながらも、次の卵に期待を込めて金の皿の上に置く。
ガチャン
ピコン ピコン
グイーン ガシャガシャ
ウィーン
「モグラ……
キミはモグモグくんね。
つ、次いきま〜す。
モモンガ……モモちゃんね。
はい次……ハト……?
はいポッポ!
次……ラッコ……
もう、ラー油でいいや。
リスザル?……サスケで!」
「ライト、ここまではなんというか、なかなか個性的なメンバーだね」
父さんは頭をポリポリと苦笑いする。
「よしっ!
今度はこの黄色い卵だ!」
俺は祈る気持ちで黄色い卵を金の皿の上に置いた。
ガチャン
ピコン ピコン
グイーン ガシャガシャ
ウィーン
「おっ!
黄色い煙だ!
こいつは期待が持てるぞ!」
モク モク モク
黄色い煙が立ち込める中から出てきたのはスカンクだった……
「黄色い煙だったから期待したのに……」
俺がボソッと呟くとスカンクくんが口を開いた。
「えっ?
煙は白ですよ?」
「だって、ほら……
黄色いじゃん」
「ああ、これは私のオナラです」
「え〜っ!?
うわっ、くっせえ」
俺はたまらず鼻をつまんだ。
他の皆もパニックだ。
「やばい、やばい!」
「ゲロゲロ」
「窓開けろ窓!」
「こんな地下に窓なんてねえよ。
換気扇だ換気扇!」
「ウゲー!
こ、呼吸が……」
バタンッ
バタンッ
バタンッ
次々と気絶していく仲間たち。
「も、もうダメだ……」
俺も我慢の限界を迎え気を失う。
「と、父さんも限界だ……」
最後まで堪えていた父さんも俺と同時に意識を失った。
どれくらい時間が経っただろうか。
なんとか全員意識をとりもどした。
「もう!
スカンクくん!
キミはアジト内でオナラ禁止だからね!
だいたい、真っ先に自分のオナラでぶっ倒れるなんてどういうことだよ!」
「面目ございません」
「キミの名前はガッスンに決めたからね!
ほんとにもう!」
「まあまあライト、スカンクくんも反省していることだし、それぐらいにしときなって」
父さんが諌めてきたので、俺はそれ以上スカンクを責めるのをやめることにした。




