第16話 ダイモン神殿へ
いよいよダイモン神殿へ出発する日がやってきた。
カスガ村の門前には、俺たちを見送るため、大勢の村人が集まっていた。
「それでは、しばらく留守にするでなあ。
あとのことは頼んだぞ」
カインド村長は、弟であるライク副村長の両肩をポンポンと叩いた。
「はい。
兄さんもお気をつけて」
「うむ」
ふたりはガッチリと握手をかわした。
「モグモグくん。
村の警護は頼んだよ。
もし、困ったことがあれば、預けている卵を使ってもいいからね」
「はい。
ライトさま、お気をつけて、行ってらっしゃいませ。
留守中は、私とポッポ、サスケそして戦闘員でこの村を必ず守ってみせます。
それと、地下トンネル網につきましても着手しておきます」
「うん。
よろしく頼んだよ。
それと、ポッポ。
何かあったら、必ず俺たちの元へ、知らせに飛んできてね」
「承知いたしました。
お気をつけて行ってらっしゃいませ」
ダイモン神殿へはシューク・リームの姉妹、トゲトゲくんとラー油、そして新たに加わった、ヨーゼフ(セントバーナード怪人)とカエサル(サイ怪人)を連れて行くことにした。
青空の下、ジャスティスのメンバーたちは整列し、サッと敬礼をした。
わぁーっと村人から歓声と拍手が沸き起こる。
俺はバイクに跨り右手を上げた。
俺が出発の声を出そうとすると、小さい影が俺の視界を遮った。
「さあ、出発よ!」
ほんとにこいつときたら……
「お姉ちゃん!
それはライトさまのセリフでしょ!」
リームが両手を腰に当てながら、シュークを怖い目で睨んだ。
「硬いこと言わないの。
なんたって私はコマンダーなんだからね」
やれやれと言う顔をして、リームは俺に視線を向けた。
俺は苦笑いしながら、バイクに跨った。
キーを回すと、低いエンジン音が、一帯に響き渡る。
ブロロロローン
シュークとリームは定位置である、俺の両肩に腰を下ろす。
トゲトゲくんと村長は軽トラの運転席と助手席にそれぞれ乗り込み、ヨーゼフとカエサルも荷台に飛び乗った。
車両を使えば、ダイモン神殿へは半日の道のりである。
「夕方前には到着できるはずだ」
俺たちは手を振る村人たちを背に、一路、ダイモン神殿を目指し出発した。
道中はポカポカとした陽射しが降り注ぎ、時折、やさしい風が頬を撫でる。
右肩に座るリームが俺の耳元で呟いた。
「ライトさま。
左を観てください」
「なんか、気になる景色でも?」
「いえ、違いますわ。
左肩……
お姉ちゃんですよ」
ツイツイとリームはシュークを指差した。
ちらりと、ミラー越しにシュークを見ると、コックリ、コックリと舟を漕いでいた。
「あっ、こいつ……
きったねえなあ。
ヨダレまで垂れやがって!
こらっ、シューク!
起きやがれ!」
俺は少し首を左に向け大声で叫んだ。
その様子を見て、後ろを走る軽トラは笑いが起こっている。
「う、う〜ん……
うるさいわね、ライト。
到着したの?
ふぁ〜……」
シュークはヨダレを拭い、大きなアクビをした。
「お前なあ。
なに、呑気なこと言ってんだよ。
こっちは、ずっと運転してるんだぞ!」
「いいじゃないのさ、私が寝てようが、起きてようが、あんたの労力に違いなんてないでしょうに!」
シュークは逆ギレ気味に屁理屈をこねた。
「あのね、お姉ちゃん!
そういう問題じゃないのよ!」
リームがシュークを叱りつけた。
「あんたはずっと起きてたの?」
「当たり前でしょ!」
「ほんとに、リームは良い子ちゃんなんだから」
「お姉ちゃんがだらけ過ぎなのよ」
またいつもの喧嘩が始まった。
こうなったら、かかわらないのが得策だ。
俺は、黙って前を向き、運転に専念することにした。
林道を抜けると、陽射しが目に飛び込んできた。
「眩しい」
トンネルを抜け出たときと同じように、俺は一瞬、視界を失った。
そのとき、後ろの軽トラのクラクションが唐突に鳴った。
ブッ!
俺はバイクをゆっくりと停車し、後ろを振り返る。
助手席のカインド村長は、左の方をクイクイと指差している。
そこには轟々と音を立てて流れ落ちる巨大な滝がドンと構え、下方に広がる滝壺は、辺りの景色までをも呑み込んでいた。
水しぶきを巻き上げ、ゴウゴウと大滝は吠える。
俺たちの腹の内側は、何度も乱れ打たれた。
滝の頂に目をやると、白銀に輝く岩の神殿が、大滝とは正反対の様子で、何も語らず、荒れ狂う大滝を支配しているかの如く、ただ静かに座っていた。
滝壺へと絶え間なく流れ落ちる水流が、陽光を反射し放たれる虹色の光輪は、なお一層、ダイモン神殿を神秘的なものであると刻み込む。
さながら、その神殿は天空の城とも見て取れた。
俺はしばらく、その光景に目を奪われていた。
シュークとリームも喧嘩そっちのけで、ポカンと口を開けている。
カインド村長が軽トラを降り、俺の横に並んだ。
「どうじゃ、ライトよ。
あれがダイモン神殿じゃ。
覚えておったか?」
「……いえ。
以前、両親に連れられて来たのは、かなり幼いときでしたから。
あんまり覚えてないんですよ。
でも……」
幼き日、父と母に連れて、この場所から今のように神殿を眺め、驚いていたような記憶の断片が、心の片隅を揺さぶった。
「あっ!
一つだけ思いだした。
俺はこの場所で、母さんに抱っこされて、あの大滝を見たことがある!
再びこの地に帰ってきたんだ!」
なんだか温かい気持ちが胸の内から込み上げてきた。
「父さん!
母さん!
俺は戻ってきたよ!」
俺の瞳からは、涙とともに、大滝の光景が、ちぎれながら落ちていく。
「そうか、そうか。
ひとそれぞれ、思うところがあるのじゃろうて。
ワシは何度ここへ来ても、その迫力と厳かな雰囲気に言葉を失うのじゃ。
ワシも若かりし頃はこの地で修行を積んだ。
確かに、お主が言うように、温かい気持ちになるのう。
さあ、あと少しじゃ。
ダイモン神殿へ向かうとするかのう」
俺たちは再びダイモン神殿に向かい車を走らせた。
「あれっ?」
リームが右手の森の中を見て、首を傾げた。
「どうしたのよ、リーム?」
「森の中に赤い目のようなものが光っていた気がしたのよ。
一瞬で消えちゃったんだけど……」
「動物かなんかでしょう?
そんなの珍しくもない。
さあ、とっとといきましょう。
ライト」
シュークはリームの話を一蹴した。
「それにしても、道中、拍子抜けするぐらい、何事もなく到着しちゃったわね〜」
「いや、お姉ちゃん。
何事もない方がいいに決まってるでしょ!」
「そうなんだけどさあ……」
「余計なこと言わないの!
ろくなことにならないわよ」
「はい、はい。
わかりましたよ〜」
シュークは面倒くさそうに答えると、また俺の肩に寝っ転がった。
「ハア……」
俺は呆れてため息を吐いた。
兎にも角にも、俺たちはダイモン神殿に、もうすぐ到着する。
そこでは、魔族の未来をかけた特別な会議が行われる。
はずだった……
リームの言葉に俺は少しだけ心をざわつかせたけれど、不安をかき消すように、スロットルを少し強めに捻った。
俺たちは、何も知らなかった。
ダイモン神殿でなにが起ころうとしているのかを……
第二章 完




