第12話 転落
「うげっ!
ひでえありさまだなあ……」
あのレッドが一瞬固まってしまうほど、その光景は衝撃的なものだった。
というよりも、おとなしかったはずの魔族に、ここまでされたことに驚いているのかも知れない。
「なんじゃこりゃあ。
でっかい穴たいねえ。
魔族を追いかけたうちのヤツらも、ほれ、真っ黒焦げたい」
ヒーロー戦隊の目の前には、爆心地の土がえぐられ、その周りには自軍の兵士たちの亡骸が散らばっていた。
周りの草は焼け焦げ、木々は葉をまき散らし、幹はただれ、或いは砕け、いまだくすぶった臭いが辺りを支配している。
ここはフロンティア時代の名残がある地。
古くは、大陸から初めて人間族がこの島に足を踏み入れた頃、資源としての木々を得るために、宿営地となった場所。
新しくは数年前、ネオンシティの大規模なリゾート開発化にともない、資源を調達するための宿営地になった場所である。
生活臭は一切なく、かつての賑わいはどこへやら、今はゴーストタウンと化していた。
ブルーは足元に転がっている、爆発によって砕け散ったであろう、焼け跡が残る岩の欠片を拾い上げた。
「なんだよ、この岩場の惨劇は……
あいつらと戦ったら、爆発ばかりじゃないか。
ネオンシティではトラックで突っ込んでくるし、ここではクレーターができるぐらいの爆破だ。
レッド、お前はやり過ぎたんだ!」
「なんの関係があるってんだよ!」
レッドはブルーに詰め寄り、顔を近づけ怒鳴った。
「言葉の通りだ。
必要以上に追い詰めたら、ヤツらも捨て身になってかかってくるに決まってるだろう。
窮鼠猫を噛むって言葉を知らないのか!
俺たちの目的は魔族を殺すことじゃない。
人間族の土地を広げ、豊かにすることだ」
怯むことなく、逆にブルーは冷静に意見する。
「うるせえ!
そのためには徹底的にヤツらを叩き潰さないといけねえんだよ!
魔族なんてゴミは手っ取り早く始末したらいいんだ!
お前、なにいい子ぶってんだ。
ちまちまなんてやってられっか!
俺たちの活動資金はスポンサーや株主から出てるんだぜ。
結果をださなくちゃならないんだよ!
それに、勘違いするなよ。
言っとくけどな、俺がリーダーだからな!」
レッドは興奮し、ブルーの胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「二言目にはリーダー、リーダー……
それしか言えないのか。
この惨劇は、お前の狂気が原因だとなぜわからん」
ブルーはレッドの手を振りほどき、尚も冷静な口調でレッドを諭す。
「甘っちょろいんだよ。
魔族なんて生きる価値もねえ虫けらなんだよ。
ゲーム感覚で狩りを楽しみながら任務も果たす。
お偉いさんは喜んで、俺たちも金がガッポガッポ!
最高じゃねえか!」
レッドの狂気じみた目は、どこかぶっ飛んでいた。
ブルーは何を言っても無駄だと思い、それ以上、レッドに意見するのをやめにした。
「最後に言っておく。
なぜ俺がサブリーダーとしてバードラーにいるのかお前は考えたことはないようだな?
自分は雇われリーダーだということを自覚しているのか?」
今までは、どんなに腹が立っても口にしなかった言葉……
俺はどこかで、レッドが自分自身の狂気に気づき、いつか引き返してくれると少しだけ期待をしていた。
しかし……
こいつの頭の中には、省みるという言葉はなかったようである。
俺が吐いた汚い言葉は、もう、こいつとの関係性を、修復できるものではない。
否、もともとこいつとは、まともな人間関係は築けてはいなかった。
もう限界だ……
こいつは切り捨てるしかない。
「なっ!
誰が雇われだって!?
ふざけんなよ!」
バシンッ
レッドの拳がブルーの右頬に衝撃を与えた。
焦げ臭い空気の中、乾いた音が響き渡る。
ブルーはキッとレッドを睨みつけた。
あまりの迫力に、レッドは思わず後退りして、小石に躓き転倒した。
ドタンッ
「グッ……
くっそう、いってえなあ……」
勝手に転がったレッドは、下からブルーを睨みつけた。
それはまるで、思春期の子供が、適うはずもない親に向ける精一杯の反抗的な目にも似ていた。
「お前の答えは受け取った」
そう言いブルーは踵を返す。
もう、レッドにかまうことをやめて、黙々と現場検証を始める。
ブルーは静かに作業を続けた。
まるで、そこにはレッドがいないかのように黙々と。
カシャ カシャ
誰も口を開こうとはしない。
無慈悲に記録用のカメラのシャッター音だけが鼓膜に響く。
現場検証を終えると、ブルーは兵士の亡骸に手を合わせ、ひとりひとり、スコップで土をかけ始めた。
その様子を見たイエローとグリーンも黙って埋葬を手伝い始める。
「けっ!
勝手にやってろよ。
てめえらになにがわかるってんだ。
それに……
この場所はな、この場所はな……」
レッドはなにかを言いかけたが、途中で話すのをやめた。
「俺は先に帰るわ!
てめえ、覚えとけよ、ブルー!」
ブロロロローン
不貞腐れたレッドは、捨て台詞を残し、とっととネオンシティに帰ってしまった。
レッドがヒーロー戦隊を解任されたのはそれから一週間後のことであった。
とある裏通りの酒場……
「けっ!
総司令の野郎、偉そうにしやがって!
俺がクビらって?
ふざけんなっての。
あの戦隊は俺あってのもんらっつ〜の!
ヒック」
レッドはカウンターに突っ伏しくだを巻く。
「マスター、水割りもう一杯!」
空のグラスを取り上げたマスターは、呆れ気味にレッドを見下ろす。
「もう、その辺でやめておいた方がいいですって」
「うるへえ!
水割りらって言ってんらろうが!
ヒック」
ガシン〜ッ!
レッドはカウンターに置かれたアイスペールから氷の塊を掴み取ると、力いっぱいマスターの顔に投げつけた。
マスターの口元から赤い血が溢れて、顎を伝う。
「あんた、いい加減にしろよ。
そんなに飲みたいってんなら、いままでのツケをきっちり払ってからにしやがれ!」
堪り兼ねたマスターはレッドの頭にドボドボと水をかけた。
「な、なにしやがる!
ヒック」
「酔いを覚ましてやってんだよ」
「てめえ!
俺はレッドさまらぞ〜っ!」
「なに言ってんだ。
あんたがクビになったことはみんな知ってんだよ。
今まで散々偉そうにしてきやがって!
バードラーはブルーさんがいてくれるから成り立ってんだよ。
このお荷物野郎が!」
「誰に口を聞いてやがんら〜!
ヒック」
「お前だよ!
ツケは選別代わりにチャラにしといてやるからよ。
もう二度と来るんじゃねえよ!」
マスターが目で合図すると、ボディガードが数人、店の奥から出てきて、レッドの腕を掴んだかと思うと、出入り口のドアから蹴り飛ばした。
ドカッ
「いてえなあ!
この野郎!
こんな店ぶっ潰してやるからな!
ヒック」
「やれるもんならやってみろってんだ。
この店のオーナーはブルーさんのお父上だ。
この街の司令部に顔が利く権力者なんだよ。
お前ごときが歯向かえるわけねえだろうが!」
この言葉でレッドは合点がいった。
普段からバードラー内では、お互いに、素性を明かすことはほとんどなかった。
このあいだのブルーの『なぜ俺がサブリーダーとしてバードラーにいるのかお前は考えたことはないようだな?』というセリフの意味……
やつの父親はヒーロー戦隊のスポンサー、あるいは大株主だったってことである。
そういうカラクリかよ……
「ちくしょ〜うっ!」
道路に大の字に寝転びレッドはこれでもかと言わんばかりに、天へ向かって吠えた。
やがて、ネオンシティは厚い雲に覆われ、ポツリ、ポツリと大粒の雨が降り出した。
夜も更け、ひとつ、またひとつ看板の灯が消えていく。
やがて、辺りからは人の気配はなくなり、大雨の中レッドは世界からひとり取り残されるのであった。




