表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有のマイペースダンジョン配信~  作者: 北乃ゆうひ
第3部 夏休み

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/54

054.オフの日なのに心底ダルい


 サイキが爆弾を落としてきたが、それ以外はとても楽しかった飲み会の翌日。


 昨日のうちにサイキのマネジャーである星庭(ホシニワ) 願音(ネオン)と連絡を取り、コウタと共に明日会って話をする算段は付けた。


 学校への連絡は、明日の相談の内容に合わせてやるので、今日する必要はない。


 朝食の準備をしながら、今日は特に何の予定もない空白の日だと気づいた。


「……こういう日に、配信ナシでダンジョン行くか……と考える辺り、染まってきてる気がする……」


 あくびをかみ殺しながら、そう(うそぶ)く顔は、決してダルそうではない。

 とはいえ、トラブルの可能性は十分ありうるので、配信用のドローンは念のため持っていった方がいいだろう。


 最近は、ドラレコ配信なんていうエンタメではなく、純粋な防犯意識の為だけに配信をしている人もいるくらいだ。

 ダンジョンという超人化適性のない人では入ることのできない閉鎖空間を旅する以上は、第三者の目を常に側に置いておくというのは、決して悪いことではないだろう。


「行くにしても、次の配信の下見になりそうなところか、そうでなくともダンジョン食材が採れそうなところがいいな……どこか候補はあったか」


 独りごちながら、朝食の準備を終えたセイジは、両手を合わせてから箸を手にするのだった。



    ・

    ・

    ・



 ダンジョンは、人の思いが集まりやすい場所や、いわゆるパワースポットと呼ばれる場所に出現しやすいとされる。


 実際、世界で最初に観測されたダンジョンの入り口には、日本の厳島(いつくしま)神社の海上大鳥居のところだ。


 以降は、世界中の神社やお寺や教会、遺跡や墓所、現地住民などが精霊や神が集まるとされている場所。あるいは、都市伝説の舞台やら、人々の思念が集まった場所――例えば、『あそこゲームだったら壊して隠れたエリアがありそう』みたいな壁や階段など。


 そういう場所に発生しては、消えたり、壊されたり、あるいは国は維持を指定したりしている。


 ダンジョンは人の思考や記憶、感情などが反映されやすい――あるいは反映された場所であり、ダンジョンはその中に、地球以外で発生した記憶や感情などを蓄えているそうだ。


 それがモンスターであり、植物であり、宝箱などから手に入るアイテムなどだ。

 あるいは、戦いの最中に閃いたり、マテリアルと呼ばれるアイテムで取得できる魔技(ブレス)武技(アーツ)なども、異世界から流出してきた誰かの思い出の一部らしい。

 最新の検証情報においては、エリアの内外が区切られている明確な理由も分かってきたようだ。

 エリア内とは、ダンジョンをダンジョンとして扱える範囲なのだという。

 エリア外とは、人の感情や記憶など、思い出の集積部分に近い故に、踏み入れた人の感情や思い出が、過剰に採取されてしまうのだとか。

 つまり、エリア外に人が踏み入れると、そのダンジョンだけでなく、ヘタをしたら全てのダンジョンに何らかの影響を与えかねないのだ。


 まぁさておき。

 つまりはエリア内外の境界線というのは、ダンジョンなりのセーフティあるいはセキュリティの類いなのだろう。


 それを思えば、わざわざそこを乗り越えるような危険を冒すのは、よほどの理由か研究の為でもない限りは有り得ない。



 不動山ダンジョン。


 春先に、窟魔ムルがワ○ルドを名乗る前のセイジに助けてもらったダンジョンだ。

 あの時はイレギュラーによって慌ただしいままに配信を終えてしまったので、そのリベンジも兼ねて、彼女はやってきていた。


 今、ムルは配信をしながら、そのダンジョンの中を歩いている。

 あるいは、歩いていたというべきか。


 今は足を止めて、顔を引き()らせて、ちょっとテンパっている。


「どどどどどどどど、どうしようみんな……!!」


:ムルちゃん落ち着いて

:確かにビビるけど

:っていうか助けた方がいいんじゃね??


 あの時、セイジと出会った第三層。

 そのフロアの普段はあまり通らないルートを歩いていたところ、ムルはあの時とは別のエリア端に来てしまった。


 そこまではいい。

 敢えて普段通らないルートを通るのを楽しんでいたのだから、問題はない。


 問題は――そう、問題は……そのエリア端の崖の(きわ)に、スカートタイプのレディスーツを着たくたびれた感じの女性がフラフラとしたまま眼下を見下ろしていることだ。


 精気を感じない青い顔をした女性だ。

 もうなんか、そういうことをするつもりのようにしか見えない。


:なんでダンジョンで・・・

:ていうかよく三階まで来れたな?


 最初はテンパっていたムルだったのだが、ふと――もしかしたら自分もあんな顔をしていたのかもしれない……と、そう思った。


 そう思ったら、もう彼女を止める以外の選択肢が脳裏から消える。


 次の瞬間、全身にマナを巡らせて地面を蹴り、自分が出せる全速力で女性の元へと向かう。 そして女性が意を決したように、片足を崖の外へ投げだそうとした刹那――


「え?」


 ――ムルは彼女を横から素早く抱き止めると、そのまま崖から離れた場所まで一気に移動して彼女を下ろした。


「え? え?」


 地面にへたり込みながら、何が起きたか分からない様子の女性。

 その女性に何と言葉を掛けるべきか――ムルは悩んだ結果、とりあえず思いついた言葉を口にすることにした。


「まぁ、なんで飛び降りたいかは聞きません。

 でも――エリア外へ飛び降りられると、探索者にとってはあんまり良くないコトが発生するのが明白なので、やめてもらえます?」


 セイジならもっと気の利いた言葉を口にしたかもしれないなぁ――と思いながらも、ムルはそう告げた。


 言われた女性は、ムルを見上げながら――ようやく状況を理解したのか、ポロポロと涙をこぼし始める。


「ご、ごめんなさい……でも、でも……わた、しぃ……」


 顔を覆ってわんわん泣き始めた彼女に、ムルは盛大に顔を(しか)めた。

 同時に、セイジのようなドローン撮影ではなく、スキル連動型の視界共有配信で良かった――と安堵する。


 泣き始めた女性を見て、思わず(しか)めてしまった顔が配信に乗ったら炎上必至だった。


 そして、改めて思う。


(め、目の前であんまり知らない人が泣き出すのってこんなに気まずいんだ……。

 うあー……あの時、セイジさんは、よくあんな優しく対応してくれたなー……)


 全然関係ないタイミングで、思わず反省である。


:ムルちゃん困ってるな

:いやまぁこれは困る

:ダンジョンで滅多に遭遇しないタイプだ

:ムルちゃんは今こう考えている『ダウナーさんならどう対応しただろうか』と

:それありそうだなぁw

:なんで毎回毎回あいつの話題が


 ともあれ、ムルとしても助けた以上は何かしないといけないだろうという思いはある。


「出口が分からないなら、案内しましょうか?」


 ふるふると彼女は首を横に振る。

 けれど、泣いたままで何も言ってくれないので、どうすれば良いのか分からない。


 途方に暮れつつも、放置しておくわけにもいかず、ムルが頭を抱えていると、この崖エリアの入り口の方から何かの気配を感じて、そちらに視線を向けた。


:この状況で乱入者?

:モンスターなのか人なのか

:どっちにしろ厄介な状況だぞこれ


 泣いてる女性を気に掛けつつ、槍を握る手にチカラを込める。


 そして――


「…………」


 背の高い草が集まって出来た壁の影から、見慣れた男性が姿を見せた。


:ダウナーさんじゃん!

:ナイスタイミングすぎる!!

:よしムルちゃん!丸投げしよう!


 ムルは思わず目を輝かせてセイジを見る。


 セイジの方は、目を輝かせるムルと、泣き崩れている女性の間に視線を彷徨(さまよ)わせた。

 それから、それはもうダルさをまったく隠しもしない盛大な嘆息を漏らした後で、くるりと(きびす)を返す。


「それじゃあ、オレ向こうに行くから」


:あ

:逃げる!

:逃げるな!

:逃がすな!捕まえろ!!

:でも逃げる気持ちも分かるw

:最速の反応で草

:知り合いの横に泣き崩れている見知らぬ女とか関わりたくなさマックス

:厄介事でしかないもんね笑笑


 じゃ――と軽く手を掲げるセイジへ、ムルは飛びかかるように手を伸ばした。


「逃がしません!」


:ムルちゃんも必死だwww

:すごい速度でダウナーさんに抱きついて草

:毎回毎回この男になんで

:俺がムルちゃんの立場でもこれはやる笑笑

:笑い事じゃないんだろうけど状況がコントすぎるw


「どう考えたってダルい状況だろこれ! モンスターとか犯罪者とかが絡んでないなら自分でなんとかしてくれ!」


 一切隠す気のない遠慮なしのダルい顔をしてセイジが主張する。帰らせろ、と。


:ダウナーさんも面倒くさがってて草

:いやぁ実際どう見ても厄介事遭遇シーンだし?w


 しかし、ムルは抱きついたまま逃がさない。


「そんな薄情なコト言ってないで助けてください! 正直、どうしていいか分かんないんですよー!!」


:ムルちゃんの必死な声が可愛いと思ってしまった笑

:なんていうかダウナーさん来たから何とかなると思っている自分もいるw

:確かにダウナーさんなら何とかしてくれそう感はあるなww


「…………」


 ひたすらにダルそうな顔をセイジがしたタイミングで、泣き崩れていた女性が幽鬼のような様子で立ち上がった。


「ムル、あの人、急に立ち上がったけど大丈夫か?」

「え?」

 

:お?泣き止んだ?

:ようやく話が出来るのか?


 セイジと共に女性の方へと視線を向ける。

 すると、立ち上がった女性は再びふらふらと崖の方へと歩き出した。


:ダメだ泣き止んだと思ったら!

:おいおいおいおい

:二人ともその人止めて!


「ちょッ、なんでまた飛び降りようとしてるんですかッ!?」


 彼女が何をしようとしているのか気がついて、ムルは再びダッシュすると彼女を捕まえて崖から引き離す。


「なんで、なんで飛び降りさせてくれないんですかぁ……!」


 またもわんわんと泣き出してしまった彼女に、ムルは困った顔をセイジに向けた。

 そのムルの顔には、隠すことなく『HELP ME!!』と書かれている。


心底(しんそこ)ダルい……」


 言葉通り、心の底から吐き出すようにそううめいたあと、セイジは諦めたように自分の首を撫でながら、ムルと女性の元へと歩き出すのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他の連載作品もよろしくッ!
《雅》なる魔獣討伐日誌 ~ 魔獣が跋扈する地球で、俺たち討伐業やってます~
花修理の少女、ユノ
異世界転生ダンジョンマスターとはぐれモノ探索者たちの憂鬱~この世界、脳筋な奴が多すぎる~【書籍化】
迷子の迷子の特撮ヒーロー~拝啓、ファンの皆様へ……~
【書籍化】鬼面の喧嘩王のキラふわ転生~第二の人生は貴族令嬢となりました。夜露死苦お願いいたします~
フロンティア・アクターズ~ヒロインの一人に転生しましたが主人公(HERO)とのルートを回避するべく、未知なる道を進みます!~
【連載版】引きこもり箱入令嬢の結婚【書籍化&コミカライズ】
【完結】リンガーベル!~転生したら何でも食べて混ぜ合わせちゃう魔獣でした~
【完結】レディ、レディガンナー!~荒野の令嬢は家出する! 出先で賞金を懸けられたので列車強盗たちと荒野を駆けるコトになりました~
【完結】その婚約破棄は認めません!~わたくしから奪ったモノ、そろそろ返して頂きますッ!~
【書籍化】魔剣技師バッカス~神剣を目指す転生者は、喰って呑んで造って過ごす【コミカライズ】
コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~
スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~
紫炎のニーナはミリしらです!~モブな伯爵令嬢なんですから悪役を目指しながら攻略チャートやラスボスはおろか私まで灰にしようとしないでください(泣)by主人公~
愛が空から落ちてきて-Le Lec Des Cygnes-~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
婚約破棄され隣国に売られた守護騎士は、テンション高めなAIと共に機動兵器で戦場を駆ける!~巨鎧令嬢サイシス・グラース リュヌー~
【完結】シグレ諦観剣~異世界不老少女交刃譚~
約束守りの図書館令嬢



短編作品もよろしくッ!
オータムじいじのよろず店
高収入を目指す女性専用の特別な求人。ま…
ファンタジーに癒やされたい!聖域33カ所を巡る異世界一泊二日の弾丸トラベル!~異世界女子旅、行って来ます!~
迷いの森のヘクセン・リッター
うどんの国で暮らす僕は、隣国の電脳娯楽都市へと亡命したい
【読切版】引きこもり箱入令嬢の結婚
― 新着の感想 ―
ダンジョンの中にいるのに内外とか、ちょっとわかりずらかった。チキン出てた境界かと思ったけど読み進めて分かった ダウナー「あんなダルそうなもの、誰だって逃げる。俺だってそうする」
とてもダルい状況……w それはそれとして、さすがにチキンの推測約十年後だといくらか研究進んでるんですね。 チキンの方の先でいくらか情報が分かった分も、含まれてるんだろうなぁ。
まだムルのコーンって生存できてんだ(呆れ 自殺されてダンジョンの養分になってはぐれとか生み出してもダルいし、見逃して万が一があってもだし、運を恨んでもろてw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ