034.森林樹塔の外へ出よう
セイジが思っていた以上にフウリュウの腕が立ったので、安全に花畑へやってこれた。
途中でモンスターが出ても危なげがなかったのは、かなり助かった。
道中の雰囲気からしても、引き続き露払いをお願いして問題なさそうだ。
「ワルニキ、このあとどうするんだ?」
「ここから外までの露払いも頼めるか?」
「もちろん!」
うなずくフウリュウに、セイジは南側の壁に視線を向ける。
「なら、オレの代わりに調べてきて欲しいモノがある」
「まかせて!」
「そっちの南側の壁。中央より右側のエリア。中央と右の壁のちょうど中間辺り。調べてきてくれ」
「りょーかい!」
何を調べろ――と言わなくてもフウリュウは察したようだ。
その背中を見ながら、のんびりと歩いていると両手に掴んだ少年たちが、うめくように声を掛けてくる。
「あの……そろそろアイアンクロー……やめてくれない?」
「顔痛いし、なんか振り回されて辛いし……やめてください……」
「ヤダ」
セイジはにべもなく答える。
それから再びフウリュウの方へと向かおうとすると、今度はシヅルが訊ねてきた。
「ワルド殿はあまりこの辺りでは見かけないのに、詳しいのだな」
「学生時代……資格を取り立ての、こいつらと同じくらいの歳の頃はここに時折来ていた」
「なるほど。最近、来てなかっただけというコトか」
「そのわりには、ショートカットとか詳しくない?」
シヅルの手を借りているキョウコの言葉に、それは否定しないと苦笑してからセイジは応える。
「ここへ来ていた学生時代に、偶然壊れた壁を見つけたんだ。その時に、他にもあるかもと探ってみたら見つけてしまったものだからな――ふと、どのくらいあるのか気になりだした」
「調べたのか? フロア全部を?」
「……ああ。数日掛けて、一階から三階まで全部」
「一階から三階まで!?」
:ワルニキは無駄に凝り性らしいしなw
:ダルいダルい言いながら完璧主義っぽさあるし
:なんだろうニキならするだろうな感がすごい笑
「四階から上はやらなかったのかね?」
「当時の実力だと四階は生存は可能だけど、探し物をしながらだと厳しかった」
「そういうコトか」
「今はやらないの?」
「やれなくもないが、今やると配信どころか寝食も放置して延々やりかねないからな……ヘタしたら頂上まで行くかも知れない……」
「変なところ凝り性というコトか」
「まぁ、そんなところだ」
:それは凝り性というべきなんだろうか
:ギルド的にはやって欲しいだろうけどw
:相応の依頼料必要だろその場合
そんなやりとりをしていると、
「ワルニキ! あった!」
「ああ。今行く」
:フウリュウくんにワンコ味を感じる
:わかる 今尻尾ブンブン振ってる感じする
「しかしワルド殿。良いのか? あの四人……ずっとついてきているが」
「ここのショートカットなら知られても問題はない。それに……行き先は出口で、ギルドだ。問題あるなら突き出せる」
「それもそうか」
シヅルはそううなずいてから、「あ」と小さく声をあげた。
「地図上で考えた時――ここを抜けると塔のエントランスの近くだな?」
「ああ。そうなるが……どうした?」
「少しの間だけ、キョウコを支えてて貰えるか?」
「それは構わないが……」
「別にただ立ってるだけなら、手を離しても平気だよ?」
シヅルはキョウコから手を離す。
あまり女性をベタベタ触るべきではないな――と判断したセイジは、万が一キョウコが倒れそうになったりした時の為に警戒だけしつつ、自然体を保つ。
「ところで何をするんだ?」
「いやなに。探索中はさておき、この格好で人の多い場所を歩くつもりはないだけだよ」
そう告げると、腰元の蛇腹剣を一度SAIへと仕舞った。
それから、ホットパンツをSAIから取り出してそれを履く。続けて白衣を思わせる白いコートを取り出して上から羽織って前を止めた。
シヅルが下着のようなベルトスーツの上から服を着る様子に、フウリュウだけでなく、四人組たちも困ったように視線を逸らしたり、顔を赤くしてガン見したりしている。
それを揶揄うように、セイジは小さく笑って見せた。
「思春期の少年たちには刺激が強かったらしいぞ?」
「元の格好からむしろ服を増やす行いだったはずだがな」
「女子大生の生着替え見ちゃった背徳感とかあるんじゃなぁい?」
キョウコの言葉になるほど一理あると、うなずきながらセイジに訊ねる。
「ワルド殿はどうなのだ?」
「元の格好に服を増やす行いにしか見えなかったな」
:少年たちをからかうような声よかった
:ニキ性欲枯れてる?
:キョーコちゃんの小悪魔ボイスもよかった
:いやオレも普通に装備変えただけにしか見えなかったよ
:ダンジョン内だしそこまでエロ目線にはならんよな
:マジかよお前ら オレは水着の上から服を着る姿を見ちゃった気分でドキドキしたのに
:ん?そこにドキドキするの男子って?
:思考が探索者寄りか男子高校生よりかで見え方違うっぽいな
:ダウナーニキの着替えが見たいか見たくないかでいえばかなり見たい
「改めて行こう」
「ああ」
シヅルはキョウコの手をとると、フウリュウの元へと向かう。
「フウリュウ、先に入って反対側の様子を見てきて欲しい。
まだモンスター出現エリアのはずだからな。人がいるかどうかより、モンスターがいるかどうかが優先だ。問題なさそうなら戻ってきてくれ」
「わかった!」
素直にうなずくと、フウリュウは花をかき分けて壁の隙間へと潜っていく。
ややして、フウリュウは戻ってくると、周辺にモンスターは無さそうだと報告をしてくれた。
「次はオレが行く。
その後、シヅルだ。キョウコはシヅルの後ろから肩に手を乗せる。フウリュウもキョウコの肩に手を乗せて電車ごっこの要領で潜る分には、抜けれるはずだ」
「了解した。さすがに手を繋いだり、抱き上げたりしながらは潜れないサイズだからな」
「気を遣わせてごめんね」
「いや、いい。それよりフウリュウ。お前が殿の理由は分かってるな?」
チラリと四人組を見ながら訊ねれば、フウリュウはうなずく。
「この状況でイタズラしてきたりするような度胸はないと思うが一応な」
「あいつらもキョウコ姉の目が今は見えないの分かってるだろうから、セクハラとかしてくるかもって話だろ」
「じゃあ、フウくんには報酬で何かしてあげよっか?」
「え?」
「どうしたの? 疲れたの? おっぱい揉む? みたいな?」
「え? え? え?」
「キョウコやめておけ。お前のそれは思春期の少年への特攻威力が高いだろうからな」
咎めるようにシヅルがツッコミを入れるが、それに対してセイジは小さく首を傾げた。
「キミの格好も相当だったと思うが」
「あ、あれは服そのものの効果もあるが、使っている蛇腹剣が、肌を露出しているほどマナ伝導率が上がるというのもあってだな……!」
合理をとってのあの格好のようだが、シヅルなりの羞恥はあるようだ。
これ以上はシヅルの装備に言及するのはやめておこうか――セイジがそう思っていると、話を聞いていたフウリュウが純粋な顔で訊ねる。
「もしかして、邪悪な剣と関わりの強い一族の方で?」
「フウリュウ少年。そのネタは君が初めてだと思うなよ?」
半眼になってフウリュウを睨むシヅル。
その感じから、恐らくは何度も言われて聞き飽きている――というところだろうか。
(同じコトを思ったが、言わなくて正解だったな……)
:同じコト思ったけどコメント欄開いてなくてよかった
:邪悪な剣って何?
:格闘ゲームでシヅルちゃんみたいな格好の子がそういう設定だったのよ
:同じコト思ったけどコメントしなくてよかった
:お前は一度目の口だが私は百度目の耳だ状態ってやつだな
:言いたいコトは分かるがその状態名は初耳なんだが?
ちょっとだけセイジの内心とコメント欄がシンクロしたりもしていた。
「ともあれ、行こう」
睨まれ続けるフウリュウを助けるつもりでセイジはそう口にすると、少年二人をアイアンクローしたまま穴を探る。
「あ、あの……後頭部がガリガリ壁に……」
「少しくらい……おれたちのコト手放しても……」
「殺されないだけありがたくおもっておけ。ヘタしたら死人の数が二桁出てたかもしれないコトをしでかしたのだと理解しろ」
:ずっと掴まれてるのもシュールではある
:これ変なところ切り取られてニキの少年虐待映像とかにされない?
:それへの反論要素を残す為にずっと撮影しっぱなしの帰路なんだろ?
多少、掴んでいる二人を気遣いつつセイジは穴へと身体を滑りこませる。
ドローンもその後ろをついていくように、セイジのあとから穴へと入ってきた。
穴を抜けると、セイジは即座に周囲を見回す。
フウリュウが確認した時点でいなくても、僅かな時間の間にモンスターが近づいてきている可能性はゼロではないのだ。
「シヅル、いいぞ」
「ああ。では我々も行こう」
「オレは穴の左脇に待機している」
「了解だ」
セイジが一声掛けたことを不思議に思ったのか、右手で掴んでいる少年が訊ねてきた。
「左にいるって言う意味あるの?」
「脇に立っている場合、穴を出た直後にオレを見失う可能性がある」
「それなら穴から出てすぐ気づける場所にいるのはダメなのか?」
「通常ならそれでもいいが、今は目の見えないキョウコがいる。穴を出た直後に何があってもフォローできる位置の方がいいだろ。
それに、オレが左にいるなら、先頭のシヅルは右を警戒するだけでいい。ケガによる貧血で全力を出せないシヅルからすれば警戒の負担が減るだけでもラクができる。
殿のフウリュウも、穴の外にある気配の正体を事前に知れているから、余計な警戒を減らせるはずだ」
アイアンクローをされて動けない二人は、何やら神妙な雰囲気で黙り込みだした。
急にどうしたんだこいつら? と思いつつ、セイジは三人が出てくるのを待つ。
「よし、無事に出れたな。少し出口の天井が低い。キョウコはもう少し膝を曲げろ」
「はーい。しーちゃん、あんがと!」
「ワルニキ。後ろのやつもここ潜ってきそうだけどいいの?」
「花畑に行けるだけの実力があるやつが使う分には問題ない。だからわざわざここを使った」
しかし調子に乗りやすい連中に、階段まで行けるショートカットはあまり教えたくない。
無駄に元気がありあまった状態で上の階に行けば、その分調子に乗りやすさが増すだろうという懸念があるからだ。
そして、上の階ほどモンスターが強くなり、トラップが増えるというこのダンジョンの性質上、上で調子に乗ればそれだけ死が近づくともいえる。
だからこそ、そういう要素は可能な限り減らしておきたい。
「さて、ここから少し歩けばすぐに塔のエントランスだ。フウリュウも、もうひと踏ん張り、よろしく頼む」
「分かってる。ミッションクリア間近のここで油断するのが一番危ないってヤツだしな!」
「そこが分かっているなら上出来だ」
セイジはそう言って小さく笑うと、動き出した。
「あと一息だ。行こう」
それに、シヅル、キョウコ、フウリュウもうなずいて歩き出すのだった。




