026.鎧甲イノシシ料理を食べながら
あけましておめでとうございます٩( 'ω' )و
これが投稿されているということはちゃんと予約投稿成功しているはず・・・
「これ……角煮かと思ったけど、ちょっと違います?」
「概ね角煮……ですかね。角煮と似たような材料で、みりんや酒、酢の代わりにカシス酒を使ってみたんですよ」
「ご飯にもパンにも合いそうな味でいいですね」
具材と調味料を電気圧力鍋に放り込んだだけのものだが、肉はホロホロ脂身トロトロでいい出来になった。
ふつうの角煮やワイン煮とはまた違う甘みと酸味と風味がある。
醤油を使っているのもあって和風や中華っぽい感じがご飯に合うし、カシス酒のどこか洋食っぽい風味がパンとも合う。
もちろん、ビールや日本酒、ワインなどのお酒との相性もバッチリだ。
「あ。そうだセイジ。ダンジョンでセイジが出会ったムルちゃんだっけ? 良い声してたよね」
バクバクと食い散らかすよう食べていた手を止めて、急にそんなことを言い出したサイキに、嫌な予感を感じてセイジは思い切り顔を顰めた。
「彼女の声に合わせた曲を作りたいというか作ってる途中だから歌って欲しいんだけど」
「そもそも事務所が違うだろうが。作るのは良いがどこかに投げるつもりならまず星庭さんに相談しろ。前も言ったが筋を通さず動くとダルい状況になるコトってのは多いんだ」
カシス酒煮をレタスと一緒にフランスパンに乗せながら、セイジは面倒そうな顔で告げる。
「そうですよ! 勝手に進めたりしないでくださいよ!?」
それに同調したネオンは、吹き出しそうになった口に含んでたものをなんとか飲み込んでから声を上げた。
「どうして不満そうな顔をするんだお前は」
「……セイジと星庭さんが揃うとすごくうるさい」
心の底からそう口にしてそうなサイキに、さすがの二人も目を吊り上げる。
「誰のせいだ!」
「誰のせいですか!」
「むぅ……」
拗ねたような顔をするサイキに呆れながら、手にしていたカシス煮を乗せたフランスパンを一口囓り――ふと、先ほどのサイキの言葉が脳でリフレインした。
「……作ってる最中とか言っていたな?」
「そうだけど?」
「完成させたら即座にオレか星庭さんに言え。それ以外するな」
「そうですね。勝手に窟魔さんに送るようなコトは絶対にしないでくださいよ!?」
どれだけ口を酸っぱくしても通じない人間こそがサイキだが、それでも二人は何度でも口を酸っぱくする。
「……やっぱ二人ともうるさいよ……」
「何度も言うがお前はもう少し世の中の常識を覚えろ。そうすればこっちもダルさが減る」
「いつも言ってるんですけどね。もう諦めました」
ネオンは深々と嘆息して、テーブルに置いてある鍋から自分の器にポトフをよそう。
それを見て実は、失敗だった――とセイジは苦笑する。
「何も考えずに作ったせいで、イノシシ汁とポトフで汁物がダブったのは痛恨のミスでした」
「和と洋それぞれでいいと思いますよ。それに、こういう好きなモノを好きなだけ並べたようなやらかしメシって大好きですし」
セイジに対してそう笑って、ネオンはポトフのスープを口にした。
「これも美味しい……イノシシの出汁なのかな? あまり食べたコトがない優しい出汁がすごい良く出てる……お肉もすごい柔らかくて美味しいです」
「そうか」
「優しい味なのにしっかりしてるからパンをつけても旨い」
パンをポトフのスープに付けてもぐもぐしながら、サイキはさっきまで口を尖らせてたのが嘘のように上機嫌になっている。
「そういえば――」
ポトフの中のジャガイモを口にしてとても良い顔をしながら、ネオンが続ける。
「窟魔ムルさんなんですけど、事務所――近々移籍するみたいですよ」
「移籍?」
はい――とうなずいて、二口目のジャガイモを口にした。
よほど気に入ったのか目を瞑って堪能してから、ネオンは答えた。
「ネットで少し話題になってました。リークに近い情報なので、どこまで信用してよいのか分からないですけどね。今のVヴァンプを辞めて、ストリーマー系大手の箱に行くみたいです」
「そうか」
彼女が何を考えて移籍を選んだのかは分からない。
けれど、それを選んだ彼女の選択は尊重したい。
「Vヴァンプが悪い事務所だったとは言わないけどさでもVヴァンプじゃあ彼女の才能は活かせなかったと思うよ」
「サイキ?」
ネオンとのやりとりに、サイキが横からそう告げる。
「ダンジョン配信の機会を制限してまで一般配信やアイドル配信を優先させるようなやり方じゃあ彼女はダメだって話だよ大手というのが電影戯演かレイサプかは分からないけどどっちであれその辺の扱いは色々な経験を経ているから上手くやるんじゃないかなたぶんどっちに所属してもVヴァンプに居た頃より売れるコトは間違いないよ」
「そういうモノか」
セイジには分からないが、サイキがそう言うのであれば、ミマも悪くない選択をしたということだろう。
悩んだ先に選んだその道行きが、彼女にとって悪くないものであることを祈るくらいはしてもいいだろう。自分の祈りなんてものが、どれほどの価値があるかは分からないが。
「dedさんって人間としてはダメダメなのにそういうの見抜く眼というか才能とかあるんですよねぇ……」
「星庭さんはどうしてボクにそんな不服そうな顔してるんだい?」
「本当に人間性以外は完璧超人みたいだなって思ってるだけです」
二人のやりとりを横目に、セイジはモツとこんにゃくの土手煮を自分の器によそう。
しっかり下処理したモツに濃いめの味噌の味とコクが良い塩梅になっている。出来たてを試食した時も良かったが、一度熱を落ち着かせてから温め直したせいか、モツにもコンニャクにも味が染み渡り、より味わい深くなっているようだ。
ここに日本酒を合わせるのは悪くない。そう思いながらグラスを傾ける。
「ふう」
ほっと息を漏らしたあと、二口目のモツを口に運んだ。
モツをクニクニと噛みしめていると、何やらネオンと言い争っていたサイキが、こちらを見た。
「どうしたのさセイジ?」
「何がだ?」
「なんか良い感じの出来事でもあった」
「どうしてそう思う?」
「君らしい言い回しで答えるなら『悪くない』って顔してるけど? 料理に対する顔ともなんか違うよね?」
サイキであれば、そういう機微にも気づくか――そう納得しながら、セイジはそれこそ悪くない顔をしてうなずいた。
「そうだな。悪くないコトがあったような感じだな」
答えながら傾けた日本酒は、さっきまでよりも、もっと悪くない味に感じられた。




