020.行き過ぎた余計なお世話はクソダルい
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「…………」
ドローンのカメラが、ムルの表情を克明に捉える。
:で?推しにあの顔させておいてまだファンを名乗るの?
:ほとんど見ず知らずの女の子なのに顔見てるだけでこっちが泣きそう
:騒いでた冒険者たちが急に大人しくなったな
「ムルちゃん……」
槍男は、信じられないものを見る目をムルに向けた。
それに対して、ムルは無言のまま剣を振るい、槍を弾く。
:槍使いのはずのムルが剣使ってるな
:それで余裕なあたり実力差が如実すぎる
ムルとの技量差が小さければ、耐えられる程度の動き。
だが、槍男はダンジョン適性の鍛え方が足りていない。槍使いとしての技量も低い。
だから、手にしていた槍は弾き飛ばされ、その手から離れていく。
「…………」
表情が死んだような、あるいはそれこそ死人のような顔をしながら、ムルは剣を一閃。
男が身につけている安物の防具では、ムルの実力と技量の前で意味を成さない。
男から袈裟懸けに鮮血が迸る。
:ムルちゃんなんで!?
:ファンを切っちゃった!?
:今更ファンとか
:現実受け入れとけ
:それをさせたのは自称ファンのあの槍男だ
当然、ムルはてかげんしている。
鮮血は派手だが、傷としては大したことはない。死ぬことはまずないだろう。
見る者が見れば分かるものなのだが、セイジの配信のリスナーも、理解のある冒険者たちも、それを敢えてコメントしないことを選択した。
「痛い……痛いよ、ムルちゃん! なんで……!?」
「……他人に武器を向けるクセに、反撃されたら痛がるんですね」
転がって怯え出す槍男を下目使いで見下ろしながら、据わった目で淡々と口にする。
:それなー
:対人戦の覚悟が足りてなさすぎる
:嫌がらせの延長のつもりだろうけどライン越えなんだよな
:本当にムルちゃん?ムルちゃんはこんなことしないでしょ?
:本来のあの子がこんなことしない子ならやらせてるのは誰だろうね
「ここはダンジョンです。わたしは今プライベートです。配信用の配慮とかしませんよ?」
「で、でも……! あの男は今配信中で……!」
「ダウナーさんが配信中なのは知ってるんですね。つまり本来の目的はわたしでなくダウナーさんの配信を邪魔するコトでしたか」
:へー
:そういうコトか
:だとしたらマジでムルちゃん不運だったんだな
:で?理解力の乏しい冒険者の皆様にあらせられましては何か言うことは?
:理解力の乏しい冒険者たちが本当に申し訳ございません
:ていうか配信乱入したら止められようが止められまいが妨害をライブ配信される時点で詰みでは?
:ダンジョンでなくとも咎められるネタよなぁ
:浅はかすぎるよなー
「いや、でも……おれたちはムルちゃんの為を思って……!」
次の瞬間、男の首横を通って細身の長剣が地面に突き刺さった。首の薄皮を一枚裂きながら。
「なにが、どう、わたしのため……なんですか?」
「いやだって、あんなもっさい男はムルちゃんに相応しくないというか……」
:そうそう相応しくないんだよ
:なんでムルちゃんはあんな男と一緒にいるんだよ
:この光景を見てそれをコメントできるのはある意味で勇気あるよな
男がもごもごと言い出すと、首元の剣は引き抜かれ、逆サイドに同じように剣が突き立てられた。
「相応しくない? 何を言ってるんですか? ダウナーさんは、わたしの命の恩人です。
それに、探索者としての技量、判断力、その他諸々含めて、尊敬できる人です」
:この期に及んで槍男に便乗するコメとか出来るのすげーよ
:これだけ推しに迷惑かけておいてまだ自分は推しの為にがんばってるとか言うのか
「でも、ムルちゃんのためだんだよ……!」
それでもさらに何か言おうとする男に対して、ムルは剣を引き抜いた。
切っ先を下に、柄を両手で持って振り上げる。
「うるさいッ! 自分が嫌なだけだろッ! 自分がムカつくってだけだろッ!
ムルのため、ムルのためって……ッ、自分の苛立ちや、思い通りにならないコトへの不満をッ、わたしの名前で上書きしてッ、さも自分は良いコトしてるんだ風に誤魔化してるんじゃあないッ!! 迷惑だッ!!」
ムルの両手にチカラが籠もる。
「アンタたちの不満はあんたらのもんだッ! アンタたちの文句はアンタたちのものだッ!
わたしの配信の不出来や不満をわたしにぶつけるのはいいッ! それはわたしが悪いッ! でもッ、全く関係のない人をッ、ルールやマナー上ッ、大事にするべき物をッ、誇りをッ、アンタらの身勝手な都合でッ、傷つけんなよッ!」
一気に吼えると、その眦から雫がこぼれ始めた。
「挙げ句に他人の配信を邪魔しッ、他人に武器を向けてッ、挙げ句に他人の物まで壊そうとする行いをしておいてッ、そのクセわたしの名前で言い訳してッ、わたしに責任をなすりつけてッ、それのどこがッ、わたしのためになる行いだッ!? わたしのために仕方がないんだッ!? ちゃんと筋の通る説明をッ、してみろよッ!!」
悲痛としか言えない声でのムルの叫び。
さすがにリスナーたちも顔をしかめながら、コメントを打ち込んでいく。
:推しにこれ言わせてるのマジギルティ
:ムルのファンじゃないけど言わせたやつら許せんわ
:冒険者の推し活って推しを追い詰めるコトを言うのかしら?
:冒険者が本当に申し訳ない ムルちゃんゴメン
:背負うな謝罪ニキ。それを謝罪ニキが背負う方が無責任だ。冒険者のために背負うな。ムルちゃんの為を思うなら背負ってくれるな。
:冒険者たちうぜぇと思ってアンチだったけどちょっと考え変わるわ
「それは、だって……ムルちゃんの為になると思って……!」
「この期に及んで、まだ……それを言う?」
槍男の言葉に、ムルの激情がスンと消え失せる。
全身に倦怠が満ち、目に見えて活力の低下する様子を見せた。だけど、明確に両手にだけはチカラが込められたのだけは分かる。
「もう……いいや……」
:ダメ!
:やべえ
:ダウナーニキ止めろ!
:まずい!!
:え?え?
:ムル止まれ!
そして、ムルは振り上げたそれを――
「はい。ストップ。そこから先は、どうあれダルくなるだけだ」
――ムルの肩を叩いて止めた。
「ダウナー……さん」
「振り下ろすにしろ、自分の腹に突き立てるのにしろ、やったら後がダルいぞ。
あと、証拠用にカメラ回してるけど、一応オレの配信枠なんで、そういうの勘弁」
「あ……」
ムルの手からチカラが抜けて剣が落ちる。
「ひえぇゃぁぁ!?」
その際、剣が槍男の耳を軽く切り裂き地面に突き刺さったが、二人とも気にはしなかった。
:そうか自害の可能性もあったか
:どっちにしろナイスだニキ
ちなみに、槍男の耳はカメラの外だったので、コメント欄も気づいていない。
「お前ッ! この期に及んでムルちゃんに触りやがって!」
そして、倒れたまま耳を押さえている槍男がなにやら喚いた。
「ダルすぎる……。
この期に及んで――ってのは、オレのセリフなんだがな」
セイジはそううめくと、深々と嘆息する。
:本当だよ
:さっきムルちゃんも言ってたしな
:この状況で良く触るなとか言えるな
それから、セイジは怒りをその目に宿して、倒れている槍男を下目遣いで見遣った。
:ゾクっとくる顔してる
:メカクレしてない睨み顔・・・最高だけどこの顔させたのは許せねぇ
:ていうか推しが自害や殺しをやりかけてるコトに疑問を抱かないのすげぇな
:ムルちゃん泣いてるのみてこの期に及んでとか良く言えるな
そして、その顔のままにセイジは倒れている槍男の顔を鷲掴みにした。
「な、なにするんだよ……!」
「せっかくだ。いっぺん死んでこい」
「え?」
次の瞬間、セイジは地面に横たわる男の顔面をアイアンクローで鷲掴みすると、一度軽く持ち上げたあと、勢いよく地面に叩き付けた。
そして、叩き付けた直後、そのまま走り出し、男の後頭部と背中で激しく地面を擦りあげ――
「あがががががが……!?」
「そらッ」
――しばらく走ったあと、勢いよく空へと放り投げた。
「うああああああ……!!」
悲鳴をあげながら宙を舞う槍男。セイジの軽い調子のかけ声とは裏腹に、かなり高いところまで放り投げられた。
セイジやムルくらいのレベルであれば、空中で態勢を立て直せる程度の勢いと高さ。しかし投げられた槍男はそういう素振りも見せず、パニックになったまま宙から落ちてくる。
そして、先ほどセイジに押さえ付けられていた小太りの男の上へと落ちてきた。
「ぐえ」
悲鳴をあげたのは槍男だけ。その槍男の方も、衝撃に目を回したようだ。
小太りの男の方は、白目を剥いて最初から気を失っていた様子。
:デブの方、完全に気絶してたな
:○ニキがやったんか
:容赦ねぇけどまぁ有情だわな
:アホ二人は殺されなかったコトを泣いて喜べ
自称ファンの二人が意識を失ったのを確認すると、ムルはその場にペタンと座り込んだ。
「どうした?」
「ダウナー……さん……わたし、わたしぃ……」
ポロポロと涙の雫を落としている。
それを見て、セイジはドローンに触れてカメラの向きを変えた。
「配信に、女の涙を乗せるつもりはない。
ドローンはあっちの二人を見張ってろ」
:クッソ!リアルで「女の涙は云々」を言って許される男がいるとは!!
:今の声最高でした!マジで言われたい!!
:冒険者が大人しくなったと思ったらフェチネキたち以外のフェチネキたちも沸き立ち始めた
:コメ欄が元に戻ったともいえるな
:やかましいけどそっちの方が平和でいい
「泣いているところすまないが、あいつらを拘束してくる」
「……うん。ごめん、なさい……」
「キミが気にするコトではないな」
そう告げて、セイジはSAIからロープを取り出して二人を縛る。
:ケガはあれど五体満足か
:カメラなかったら首と胴体泣き別れしててもおかしくない奴らだった
:槍男なんで耳から血が出てんだ?
:ニキはこいつらどうすんだろ?
:モンスターのエサにでもするのかな?
:ここの配信者ってこんな怖いの?
:冒険者も最初はそうだったんだよ今でもそのつもりなのは多いよ
:一般サイドから入ってきた冒険者が探索サイドに馴染む気がなかった結果がこれ
:探索者でありながら探索サイドに馴染めなかったヤツが最低二人いるみたいだけど?
:言ってやるな・・・
セイジが二人を縛り上げ、これからどうしようかと思いながら立ち上がった時だ。
「……また気配が近づいてくるな。しかも――これ、人か?
千客万来は結構だが――次はなんだ? そろそろ本気でダルいんだが」
:うぇぇまだ何かあるの?
:本気でダルそうだなニキ
:ただニキの配信見たいだけなんだがなぁ
:メカクレの下の鋭い眼差し・・・(トゥンク
:フェチネキたち強いなw
近づいてくるだろう気配へセイジが鋭い視線を向けていると、やがてそこへ低くも気楽な調子の声が響いた。
「よう『節制』。邪魔するぜ」
現れたのは、髪を金に染めたガタイの良い強面の男だった。




