第23話 光の戦士③
【パーティーメンバー追加
コードネーム:REMNANT
ジョブ:Luminous Saver
ロール:Tank】
そんなシステムメッセージが、光の中で浮かび上がった。
クラッシュ・スマイルの全体攻撃が放つ閃光が弱まり、やがて銀色の鎧を纏った男性が姿を現す。
右手の剣は白金の光を帯び、左手に純白の盾を掲げていた。
――彬良くん!
アバターの姿でありながら、その顔立ちは間違いなく、彼のものだ。
コードネーム:レムナント。「遺された痕跡」といった意味だったはずだ。
彼は、彬良くん本人なのか。
それとも、スカーレットの心に刻まれた、残滓のような存在か。
「耐えた!? みんな、大丈夫!?」
突如として、緊迫感を伴ったセラフィムの声。
そうだ。僕たちは、クラッシュ・スマイルの攻撃を耐え切った。
彬良くん――いや、レムナントが、スカーレットを守ったんだ。
「ルミナスセイバー。剣と盾を手に、光の力で味方を守る、聖騎士だ」
レイヴンが言った。
レムナントがタンクなら、守りを分担できる――
「マネキンは、僕が引きつけます!
レムナント、あなたはスカーレットの守りを!」
彼は、何も返さない。
でも、レムナントとスカーレットの間には、まるで兄妹の絆を象徴するような、光の線が結ばれていた。
「ルミナスセイバーのスキル、『近衛』だぜ。対象のダメージ大半を、肩代わりする能力だ」
レイヴンが、目の前の現象を説明した。
その瞬間、クラッシュ・スマイルの巨大な口がねじれ、怒りと困惑を滲ませる。
『なに勝手に増えてるんだ!? ここは「幸福」な者だけのパークだぞ!』
「『幸福』を謳うなら、まずは自分を救ってからにしなよ」
レムナントが、静かに言い放った。
盾の表面から、まばゆい光が迸り、スカーレットの前に防壁を張り巡らせる。
直後、クラッシュ・スマイルの光線が放たれる。
ステージ全体が震え、爆風が走る――けれど、盾の光は崩れない。
弾ける閃光の向こうで、スカーレットが息を呑む。
彼女のスマイルゲージが、わずかに回復していた。
『まだ、笑顔を忘れた子がいるねぇ! 泣き虫はお仕置きだぁ!』
クラッシュ・スマイルの咆哮とともに、フィールド全体が再び歪んだ。
マネキンたちが拍手をしながら、こちらに押し寄せてくる。
「行くよ!」
僕は剣を構え、突進してきたマネキンを斬り伏せていった。
背後からレイヴンの槍が雷光を描き、セラフィムの詠唱が僕らの体を包み込む。
「第2位界範囲回復魔法!」
白金の光が広がり、全員のHPが急速に回復する。
しかし、クラッシュ・スマイルの声が、それを嘲笑うように響く。
『笑いに、ホンモノもニセモノもありはしない! 笑ってないことだけが「悪」なんだよ!』
彼の背後――空中の鏡に、別の映像が浮かび上がる。
両親から「愛想がない」「不気味」となじられる子ども。
面接官に「もっと笑って」と叱責される少年。
SNSで「笑顔が足りない」とコメントされ、動画を削除する青年。
その顔は、クラッシュ・スマイルの本体――小田桐直哉そのものだった。
「……あれって、彼の記憶かな?」
セラフィムが、小さく呟いた。
僕は頷きながら、胸の奥に重たいものを感じた。
――彼もまた、笑顔を強いられた犠牲者だったのか。
だからこそ、他人に笑顔を強いたのだ。
支配の形でしか、幸福を作れなかった。
その幻影を見つめながら、スカーレットが刀を握った。
「……あたし、そろそろ笑わなきゃって思ってた。
みんなの前で、楽しそうにしてなきゃって。
でもそれは、やっぱり『ホンモノ』じゃない。
『ニセモノ』の笑顔なんて、誰も望まない。
小田桐先輩。あんただって、本当はわかってるでしょ?」
レムナントが振り返り、妹に微笑む。
「そんなの、当たり前じゃないか。無理して笑われても、こっちの気が滅入るだけだって。
笑顔は『義務』じゃない。守られて、信じられるからこそ、自然にこぼれるものだから」
スカーレットの、スマイルゲージが上昇していく。
虹色のバーが満ち、彼女の身体を紅い光が包んだ。
クラッシュ・スマイルの、動きが止まった。
その顔面に浮かぶ「笑顔」が、わずかに歪む。
『やめろ……そんな顔、するな……!』
両手で自らの口元を押さえ、笑いの仮面を保とうとする。
だが、光の粒がこぼれ落ちていくように、その姿は崩れ始めていた。
「今だスカーレット! 斬れ!」
レムナントの、声が響いた。
スカーレットが、おもむろに刀を鞘に納めた。
次の瞬間、彼女の全身から、深紅のオーラが爆発するように燃え上がった。
「緋剣――夕月!」
抜刀された刀身は、紅蓮の剣気を纏っていた。
クラッシュ・スマイルの顔を一閃し、笑顔の仮面を斬り裂く。
斬撃の軌跡が赤熱し、空気が揺らめいた
『あ……はは……あれ、これ……泣いてる……?』
砕け散る仮面の奥で、クラッシュ・スマイルの本体――小田桐直哉の表情は、穏やかに歪んでいた。
涙と笑みが入り混じる、初めての「人間の顔」だった。
「リブート! あとは――お願い!」
スカーレットが、叫んだ。
「ここは任せろ!」「行って、リブート!」
レイヴンとセラフィムが、マネキンたちの猛攻を押し止めようとする。
僕は頷き、クラッシュ・スマイル本体に向かって、全力で駆け出した。
――終わらせよう。
「断罪・ゼロカット!」
刀身から放たれる、暗黒の奔流――
それが、クラッシュ・スマイルの顔面ごと、四つ足の胴体を引き裂いた。
光が爆ぜ、フィールド全体が白く染まる。
その中心で、クラッシュ・スマイルの声が、どこか安らいだ響きを残して消えていった。




