可愛いミャクミャクは縁結びの神です
デイトソール王国は、精霊とともに生きる国とも精霊に愛される国とも言われている。
精霊の加護がないと辿り着けないと言われる、特殊な海流の中の島国ということもある。
現在は海外の他国とも修好関係があるが、過去一度も侵略対象になったことはない。
独自の文化を育んだ国だった。
デイトソール王国の支配者階級は、精霊との親和性の高い者達だ。
精霊との契約に成功した者は、自分の精霊を連れ歩くのがステイタスだった。
精霊を連れ歩くなんて、ほぼ貴族に限られていたが。
ここに一人の平民の少女がいた。
彼女は平民でありながら抜群に持ち魔力が大きかった。
また精霊との親和性もまずまずなのではないかと考えられたため、デイトソール王国最高の教育機関である精霊学校への入学が認められた。
そんな平民少女ハルカの物語。
◇
――――――――――精霊学校の校庭にて。デイトソール王国第一王子カイト視点。
デイトソールは精霊の国と呼ばれていながら、精霊についてわかっていることは実は多くないんだ。
魔法と呼ばれる不思議な術を使えるというのが、精霊の一般的な理解だね。
精霊は土・水・火・風・雷の五属性のいずれかに属し、その属性の魔法が得意ってこと。
今日は精霊学校で最も重要なイベントと言ってもいい、三年次の終わりに催される召喚儀式の日だ。
つまり召喚魔法陣でその人につく精霊を一体だけ見える形にし、契約するというもの。
これ成功するのって精霊学校生でも一〇人に一人くらいなんだ。
僕みたいに多くの精霊に好かれている者はまず失敗することはないけど、ドキドキするのは一緒。
だってできれば上級精霊と契約したいし。
上級精霊は大体人間みたいな形をしていて、大きな特徴として会話が可能なんだ。
もちろん下級精霊よりも多くの魔法を使え、効果が高いということもある。
さて、儀式が始まる。
トップは僕だ。
先陣を切るのはまず契約に失敗しない者と決まっているから。
成功のイメージを続く者に与えるとか、精霊を活性化させるためと言われている。
「カイト君、前へ」
「はい」
僕は王子だから注目されることには慣れている。
でも召喚儀式はさすがに緊張するなあ。
「魔法陣に魔力を注入してください」
「はい」
召喚後には契約した精霊に自分の魔力を食わせることになる。
だからいくら精霊に好かれていても、持ち魔力の少ない者は精霊に選んでもらえない。
この辺は残酷だが仕方がない。
精霊だってお腹ペコペコは嫌だろうから。
魔力を注入していくと手ごたえに変化があった。
魔力を吸い取られるような感覚だ。
来た!
姿がハッキリ見えるようになってくる。
先生や生徒達からどよめきが上がる。
明らかに人型、表情がやや乏しい感じはするが小さな女の子っぽい。
精霊としては標準サイズだな。
緑色を帯びているから、おそらく風属性だろう。
「コンニチハ、ゴシュジンサマ」
「カイトだよ。よろしくね」
「ナマエヲツケテクダサイ」
精霊との契約は名前をつけることで完了するんだ。
女の子っぽい風の精霊なら……。
「ソヨでどうかな?」
「ワタシはソヨ、ワタシはソヨ」
気に入ってくれたみたいだ。
くるくる飛び回っている。
僕まで嬉しくなってくるよ。
「カイト君は見事上級精霊との契約に成功した。拍手!」
――――――――――四時間後。
「ハルカ君前へ」
「はい」
最後に召喚儀式を行う生徒はハルカ嬢だ。
トリになった理由はハルカ嬢が平民ということもあるんだろうが、おそらくアクシデントが起きるとすると彼女の時だから、ということだと思う。
ハルカ嬢は持ち魔力量が異常に大きいことから、特待生として精霊学校への入学が認められたのだ。
一つだけだがついている精霊光があることから、精霊との親和性もまずまずなのだろうと考えられている。
ただ元々平民で文字の読み書きも覚束なかったくらいだから、勉強は遅れているのだ。
魔道理論やソーサリーワード文法は補習を受けてギリギリ合格点といった具合だから、召喚儀式でどういう結果が出るかはわからないと、先生も言っていた。
式への参加が許されたのは、魔道理論やソーサリーワード文法の理解が浅くても精霊と契約できるのかという、実験的な意味合いがあったのだと思う。
正直僕も興味があるのだ。
「魔法陣に魔力を注入してください」
「はい」
ハルカ嬢の黒髪が逆立つ。
すごい魔力だな。
いや、黒髪が元通りになる。
来たな。
現れたのは……赤と緑のパッと見植物みたいな精霊だ。
あ、よく見ると目が五つもある。
人型には程遠い。
下級精霊か。
失笑が漏れるけれど、精霊が出ただけで大したものなんだからな?
いや、仮に上級精霊なんかを呼び出したりしたら、嫉妬が激しかったかもしれない。
平民のクセにとは、ハルカ嬢がいつも言われていることだから。
「ミャクミャク」
「あなた喋れるのね?」
音ではないよな?
口っぽいところから発音しているようだし。
喋れると言っていいかわからんが、発声できる下級精霊は珍しいな。
「あたしはハルカ。あなたの名前はミャクミャクよ。いいかな?」
「ミャクミャク!」
随分アバウトな名付けだけれど、ミャクミャクは喜んでいるみたい。
じゃあ契約は成立か。
「これにて本年度の召喚の儀式は終了する」
◇
――――――――――ハルカ四年生時、精霊学校の教室にて。ハルカ視点。
精霊学校は六年制です。
どうして三学年で召喚儀式が行われるかというと、魔道の理屈があらかたわかったら、早めに精霊に親しんだ方がいいという考え方があるからです。
魔道理論にものすごく詳しくなっても、だからといって精霊を呼べるわけではありませんので。
生まれつきの才能が大きいですねえ。
あたしも無事精霊を召喚できました。
よかったです。
特待生で精霊学校に入れてもらっているのに精霊についてもらえないのでは、学校をクビになってしまうかもしれませんでした。
四年生からは精霊を召喚できた者とできなかった者ではカリキュラムが変わります。
召喚できた者はエリートクラスです。
皆さん誇らしげに見せびらかしていますが……。
「あれ? ハルカ嬢。精霊はどうしたんだい?」
話しかけてくださったのはデイトソール王国第一王子カイト殿下です。
あたしみたいな平民にも気を遣ってくださる、素敵な王子様です。
「殿下、こんにちは。あの、見えなくしているのです」
「は?」
「ミャクミャク、姿を見せて」
「ミャクミャク!」
ミャクミャクが姿を現わしました。
「ほう? もう精霊と意思疎通ができ、言うことを聞かせることができるのか。僕も負けていられないな」
「いえいえ、とんでもございません!」
あたしは魔力だけはありますので、たらふく食べさせているせいではないでしょうか。
ミャクミャクは機嫌よく言うことを聞いてくれます。
「姿を消せるとなると、水かあるいは風の属性かな? ミャクミャクは何の精霊なのだ? 姿からちょっと想像できんのだが」
そういえば気にしたことがありませんでしたね。
仲良くするのが先決と思っていましたし。
「ミャクミャクは何の精霊なの?」
「ミャクミャク!」
「……ごめんなさい。あたしがミャクミャクの言うことを理解できるようになるまでには時間がかかりそうです」
「ハハッ、僕の方こそすまなかったな。何の精霊かなんて、今重要なことではなかった」
自分の精霊の正体も知らないなんて。
でもミャクミャクは明らかに意味を持った言葉を発していますよね。
あたしが聞き取れないだけなのです。
本当に恥ずかしいです。
「しかしハルカ嬢は何故ミャクミャクに姿を消させているのだ? 意味がないような気がするのだが」
「……気味が悪い、妖怪みたいだと言われるのです」
目が五つもあるからでしょうか?
「皆様を不快にさせてはいけませんし、何よりミャクミャクが可哀そうですから」
「ふうむ? ユニークではある。が、愛嬌があるような」
「ミャクミャク!」
「おお、ミャクミャクは愛想がいいな」
「あたしも可愛いと思うのですけれど」
「ミャクミャク!」
やっぱり可愛いです。
「殿下の精霊のお名前は何と言うのですか?」
「ソヨと言う」
「ソヨさんですか。上級精霊ですよね? あまり喋らないのですか?」
ここまで言ってハッと気付きました。
召喚儀式が三年次の終わりに行われるわけを。
精霊とマスターを馴染ませるために、休業期間になるべく他人と会わず精霊と親しくするということを。
王族の殿下はお忙しいですから、なかなか精霊と親しむ時間も取れなかったのかもしれません。
「いつもは喋るのだがな。人見知りかな?」
「申し訳ありません。殿下の時間を独占してしまい、機嫌を悪くしたのかも」
「ああ、そういうこともあるか。ハルカ嬢、ミャクミャク、またな」
「さようなら」
「ミャクミャク!」
――――――――――その時。カイト視点。
新学年が始まり、僕はエリートクラスか。
上級精霊を持っているのは学年で僕だけだから誇らしいな。
む? あれはハルカ嬢だが……。
「あれ? ハルカ嬢。精霊はどうしたんだい?」
あの変わった精霊がいない。
契約解除なんてことはあるまい?
どうしたんだろう?
「殿下、こんにちは。あの、見えなくしているのです」
「は?」
「ミャクミャク、姿を見せて」
「ミャクミャク!」
ミャクミャクが姿を現わした。
いや、これは驚いた。
すごくよく言うことを聞くんだな。
言葉の通じない下級精霊は、コミュニケーションが難しいのに。
「ほう? もう精霊と意思疎通ができ、言うことを聞かせることができるのか。僕も負けていられないな」
「いえいえ、とんでもございません!」
「姿を消せるとなると、水かあるいは風の属性かな? ミャクミャクは何の精霊なのだ? 姿からちょっと想像できんのだが」
これは興味あるな。
精霊は人型でなければ鳥や動物の姿を取ることが多い。
ミャクミャクに似た精霊を見たことないしな。
「ミャクミャクは何の精霊なの?」
「ミャクミャク!」
「……ごめんなさい。あたしがミャクミャクの言うことを理解できるようになるまでには時間がかかりそうです」
「ハハッ、僕の方こそすまなかったな。何の精霊かなんて、今重要なことではなかった」
楽しみが残ったな。
ミャクミャクのリアクションは、明らかに言葉に対するものと思われる。
人語にはなっていないが、喋れる精霊なのかな?
謎が多い。
「しかしハルカ嬢は何故ミャクミャクに姿を消させているのだ? 意味がないような気がするのだが」
「……気味が悪い、妖怪みたいだと言われるのです」
……気味が悪い、だと?
精霊に対して何と失礼なことを言うのだ。
デイトソール王国は精霊とともに生きる国だということが頭にないのか!
いや、これは僕が声を上げるべきではないか。
カリキュラムが進めば理解できることだ。
また僕がハルカ嬢を庇うように見えるのもよくない。
「皆様を不快にさせてはいけませんし、何よりミャクミャクが可哀そうですから」
「ふうむ? ユニークではある。が、愛嬌があるような」
「ミャクミャク!」
「おお、ミャクミャクは愛想がいいな」
「あたしも可愛いと思うのですけれど」
「ミャクミャク!」
マスターでない僕にまで反応してくれるとは。
何十年も連れ添った精霊みたいだ。
やはりハルカ嬢はすごい。
これもいずれ皆の共通認識なっていくだろう。
「殿下の精霊のお名前は何と言うのですか?」
「ソヨと言う」
「ソヨさんですか。上級精霊ですよね? あまり喋らないのですか?」
そういえば今日のソヨは喋らないな。
話に割り込んでくるかと思ったが、妙に大人しい。
どうした? 腹でも減ったのだろうか?
「いつもは喋るのだがな。人見知りかな?」
「申し訳ありません。殿下の時間を独占してしまい、機嫌を悪くしたのかも」
「ああ、そういうこともあるか。ハルカ嬢、ミャクミャク、またな」
「さようなら」
「ミャクミャク!」
ハハッ、挨拶までしてくれるのか。
面白い精霊だな。
ハルカ嬢から離れたのでソヨに話しかける。
「どうしたソヨ。機嫌でも悪くしたか?」
「アノセイレイハ……」
「あの精霊? ミャクミャクのことか?」
「イエ、ミマチガイデショウ。アノカタガヒトノショウカンニオウズルハズガナイ」
何だ何だ?
ソヨまでがおかしなことを言い出した。
人間界での精霊の形は、精霊界とでは違うのだそうな。
精霊界でソヨと仲のよくない精霊だったか?
「あまりミャクミャクに近寄らない方がいいか?」
「ショウタイガハンメイスルマデハ」
「わかった」
いや、わかってない。
謎が増えただけだ。
◇
――――――――――ハルカ五年生時、精霊学校の教室にて。ハルカ視点。
相変わらずあたしは普段、ミャクミャクの姿を他人に見せてはいません。
デイトソール王国では精霊を侍らせることがステータスみたいな風潮があるのですけれどもね。
あたしの可愛いミャクミャクは評判が悪いですので。
もうあたしがどんな精霊を連れているか、忘れちゃっている人も多いんじゃないですかね?
「……不規則変化になるわけだ。するとこれはどういう意味になる? ハルカ君」
「はい。『君がウソを吐いた』、過去形になります」
「エクセレント。様々な意味を持つ動詞だから目的語で意味を判断するのがコツだ」
現在はソーサリーワードの講義です。
魔法を綴る言語と言われていますが、どう魔法に関係するのか、詳しいことはわかっていないのですね。
ソーサリーワードの単位が取れていないと召喚儀式が受けられませんので、三年生までは重視されます。
しかし役に立たない古語と思われていますので、それ以降は一生懸命勉強している人はいません。
あたしを除いては。
あたしがどうしてソーサリーワードに力を入れているか、ですか?
ミャクミャクに関係するのですよ。
最近はミャクミャクの言っていることのニュアンスがわかってきました。
あれはしっかりとした言語、おそらくソーサリーワードだと思います。
『ミャク』のアクセントや発音などが微妙に違っていて、あれで単語の差異を表しているのではないかと。
ミャクミャクと自由にお話できたら楽しいでしょうねえ。
あたしは頑張りますよ。
ところでミャクミャクについておかしなことがわかったのですよ。
ミャクミャクはいろんな属性の魔法を使えるのです。
しかも特に得意不得意なく。
上級精霊ならいざ知らず、普通の精霊は一つの属性の中でも得意不得意があるものなのですよ。
例えば感知と電撃と照明は全て雷属性ですけれど、普通の下級精霊ですと例えば感知は得意でも他はサッパリというのが当たり前なのです。
ミャクミャクは結構すごいです。
でもこれらの事実を、あたしは誰にも言ってないです。
だってミャクミャクの特殊性を、妖怪だからと決めつけられたら困るもの。
ミャクミャクが可哀そう。
それより卒業したらどうしましょうかね?
辺境区なんかいいと思うのですよ。
貴族の行くようなところじゃないですから、精霊使いにも魔法にもあまり縁がないでしょう。
だったらミャクミャクの特殊性もわからないんじゃないですかね?
様々な魔法を使えることは重宝されると思います。
けだるげな雰囲気の中、あたしは一人ソーサリーワードの習得に励みます。
あたし自身とミャクミャクのためなのです。
◇
――――――――――ハルカ六年生時、テロリストのアジトにて。テロリストのリーダー視点。
今の俺達は夢見る子供じゃない。
だから歴史なんてものは勝者が作ると知っている。
一五年前の内乱で俺達が一度負けたのは受け入れようじゃないか。
「リーダー。どうしたんです?」
「ん? 俺らしくもなく感傷かな」
「我らが天下を取るんですものね」
いい悪いを敗者は語れない。
だから内乱で貴族連合に与した者が全て処罰されたのは仕方ない。
しかし王家は誤った。
内乱の時点で未成年者だった者は、庶民に落とされた上でただ放逐されたのだ。
俺達は地下に潜り、復讐の機会を待った。
精霊召喚の魔法陣は精霊学校にしかないわけじゃない。
俺達の中には精霊と契約できた者が多かった。
特に俺は上級精霊使いだ。
俺達は牙を研いできた。
精霊をファッションよろしく連れ回しているだけのやつらとは違う。
不意を突けば必ず王家に報復できる。
「月が赤いですね」
「まあな。明日決起か。楽しみだ」
◇
――――――――――次の日、王都街中にて。カイト視点。
「くっ、何てことだ!」
悪党どもが蜂起したらしい。
僕も上級精霊持ちであるから参戦したが、混乱の内に味方と引き離されてしまった。
ヒラヒラと遠くから魔法攻撃を見せられ、釣り出されたのだ。
思ったより敵の作戦は手が込んでいる!
「風の上級精霊使い。第一王子カイトだな?」
「何者だ!」
「死にゆく者に名乗る名はないな。デイトソール王国の新王になる男だと思ってもらおう」
「勝手なことを!」
敵の首領か。
火の上級精霊持ち。
しかし僕より遥かに年季が入っている。
僕は一人、向こうは数人精霊使いがいるから勝てない!
「お待たせしました」
「ミャクミャク!」
「は?」
ハルカ嬢とミャクミャク?
どうしてここへ?
「ミャクミャクは探査の魔法も感知の魔法も使えますので、殿下の居場所がわかりました」
探査は風魔法、感知は雷魔法だろう?
何故異なる属性の魔法を使える?
いや、そんなことは後だ。
「ミャクミャク、久しぶりだな」
「ミャクミャク!」
「駆けつけてくれたのはありがたいが、敵が強力だ。何とか逃げてくれ」
「ヤハリセイレイシンサマ……」
「は?」
ソヨの呟きを聞きとがめる。
セイレイシン……精霊神?
ミャクミャクが?
いや、敵方の精霊達も動揺しているじゃないか。
ハルカ嬢が敵に告げる。
「あなた達ではあたしのミャクミャクには勝てませんよ。投降してください」
「何をバカな! メラ、あのけったいな精霊を攻撃しろ!」
「ア、アレハセイレイシンサマデス。オソレオオイ……」
「くっ! 術者は隙だらけだ。食らえ!」
まさか精霊使いが魔法を使わせず、直接殴りかかってくるとは!
完全に虚を突かれた!
「ハルカ嬢危ない!」
「ミャク!」
ミャクミャクから放たれた光線が敵首領の首を吹き飛ばした。
何という魔力密度!
これほど無慈悲で強力な攻撃魔法を使える精霊など、聞いたことがない。
契約が切れて敵の上級精霊が消滅した。
「まだやりますか? もう一度言います。あなた達ではあたしのミャクミャクには勝てませんよ。投降してください」
「ミャクミャク!」
敵方の人間はまだ抵抗したいみたいだが、精霊達がビビってしまってやる気がない。
憲兵達が集まってきたこともあり、皆投降した。
「カイト殿下!」
「僕は無事だ。ハルカ嬢とミャクミャクが助けてくれた。他の状況は?」
「散発的に魔法が飛ぶだけです。人数はいません。混乱させようという意図かと思われます」
「ということは、降参したこいつらが敵主力か」
「おそらくは」
全然余裕があったじゃないか。
どれだけミャクミャクはすごいんだ。
精霊神?
最近開発された、精霊との連絡を一時的に切る魔道具の手錠を嵌められる犯人ども。
これで安心だな。
「後始末はよろしく頼む」
「はっ!」
◇
――――――――――後日、王宮にて。ハルカ視点。
「テロリストどもの標的は僕だったんだ」
「やっぱりそうでしたか」
デイトソール王国の次期王で上級精霊持ちですもんね。
テロリスト達が王国の支配を目論んでいたなら、一番邪魔な存在だったと思います。
カイト殿下が危ないと考えたのは正解でした。
「いち早く駆けつけてくれて助かった」
「いえいえ、カンが冴えていただけです」
「ミャクミャクが精霊神、ということについてだが」
これはあたしがミャクミャクの喋っていることを理解できるようになってから知ったことですけど。
「精霊界で一番偉い存在だということは、ミャクミャク自身に聞きました。精霊神という言葉は知りませんでしたが」
「どうして言わなかったのだ?」
「あの平民はとち狂ったのかと思われるだけですよ。ミャクミャクが胡散臭く思われるのも嫌でした。そもそも今回のような事件がなければ、ミャクミャクがすごい精霊であることも意味がなかったです。外見で嫌われてしまうのですし」
「ミャクミャク!」
「デイトソールの民が見かけで精霊を差別するなどということがあってはいけなかった。陛下の名で注意喚起すべきだったな。すまん、僕が口を出すとハルカ嬢を贔屓しているように見えて、状況がこじれるかと躊躇してしまったのだ」
「いえいえ、お気になさらず」
カイト殿下は全然悪くないです。
最初からミャクミャクを褒めてくださいましたし。
ミャクミャクも機嫌がよかったですよ。
「ミャクミャクの能力はどうなのだ? 言えるところまででいいから教えてくれ」
「五属性全ての魔法を使えますね」
「うむ、僕の精霊もそう言っていた」
「同時にいくつかの魔法を使えるのですよ。だから盾を張りながら攻撃ということもできてしまいます」
「何と。いや、テロリストの親玉の頭を吹き飛ばした魔法、威力がおかしかったろう?」
「あれは単純に魔力をたくさん食べさせてるからだと思うのですけれど」
ミャクミャクはよく食べますからね。
可愛いのでついついたくさん魔力を与えてしまいます。
「そうだった。ハルカ嬢の持ち魔力はとんでもないのだったな」
「それしか取り柄がありませんので」
「ミャクミャク!」
「……召喚儀式の際、ハルカ嬢についている精霊光は一つだと聞いていた。つまり精霊神たるミャクミャクがついていたから、他の精霊が寄ってこなかったということか」
「かもしれません」
ミャクミャクは遠慮されてしまう存在なのですかねえ?
あたしが可愛がってあげますからね。
「ところでハルカ嬢。僕の婚約者になってくれまいか」
「は?」
「ミャクミャク!」
「僕だけが言っているわけではないのだ。陛下からの要請でな。ハルカ嬢が精霊神使いだと知れた今、無視することはできないと」
「ええと、あの……」
「ミャクミャク!」
ミャクミャクがいい話だ乗れ乗れと言っています。
でもあたしは平民ですよ?
「ミャクミャクも賛成してくれているのだろう?」
「ええと、はい」
ミャクミャクは最初からカイト殿下のことを気に入っていましたから。
「ハルカ嬢は僕じゃダメか?」
「全然ダメじゃないです! 殿下は平民のあたしにも丁寧に接してくださる、できた方だなあと思っておりました。あの、お慕い申しております……」
「何の問題もないではないか。ああ、陛下!」
ええっ?
あっ、今日のカイト殿下とのお茶会を最初から見ていらしたのですかね?
恥ずかしいです。
陛下がいらっしゃいました。
「ハルカ嬢、初めましてだな。先日のテロの件、多大な助力を感謝する。もっと早く会いたかったのだが、後始末に追われていてな」
「お褒めに与り恐縮です」
「可愛らしいお嬢さんではないか。そちらが精霊神ミャクミャクか。うむ、面構えに迫力がある」
「ミャクミャク!」
ミャクミャクも御機嫌ですね。
陛下との相性もよさそうです。
だったら……。
「ハルカ嬢を婚約者にという件は?」
「快く承諾をもらいました」
「えっ?」
あたし承諾しましたっけ?
いやもう、陛下もカイト殿下もミャクミャクも喜んでいますから、あたしの意見などどうでもいいですけれども。
あたしですか?
もちろん嬉しいです。
「では近日中に大々的に発表しよう」
「ハルカ嬢、ミャクミャク、よろしくな」
「はい」
「ミャクミャク!」
認められるってありがたいことですね。
陛下もカイト殿下も優しく微笑んでくださいます。
ミャクミャクも。
何だか少し照れますね。
精霊とともに生きるデイトソール王国の、新たなる時代の幕開けなのです。
「ミャクミャクが神様……何の神様なのですか?」
「ミャクミャク!」
「えっ? 縁結び? 実は尻尾にも目があって、それは相性を見る目なの?」
万博オープンの日に投稿しようと思っていたお話です。
当時は結構ミャクミャクキモい説が優勢だったのですけれど、自分は可愛いと思っていて。
今になってミャクミャク大人気になって嬉しいです。
原稿をなくしてしまって投稿できなかったのですが、その後断片が出てきたので、万博そろそろ終わりということもあり、仕上げてリリースしてみました。