名前呼び
そんなこんなで僕と藤音さんは付き合うことになった。
あっという間に日曜日が終わってしまい今日は月曜日。
「今日まで泊めてもらってありがとうございました」
「全然気にしないでください。私たちはもう恋人なわけですしそれにあの部屋をこんなに綺麗にしてもらって本当にありがとうございました」
「あはは。あれは結構大変でしたね」
土曜日の午後と日曜日を一日使って藤音さんの家を掃除した。
本当に汚くて丸一日以上かかってしまった。
「ごめんなさい」
「いいですよ。でも、もうあんなふうにしないでくださいよ? 困ったら僕を呼んでくれてもいいので」
「ありがとう。というより天乃君うちに住んでくれてもいいのよ? そうすれば毎日おいしいご飯が食べられるし」
「藤音さんはもう少し自分を大事にしてください。僕も一応男なんですよ?」
「でも、天乃君は変なこととかしないでしょう?」
「それはそうですが、僕にも我慢の限界があります」
積極的に襲おうとは思わないけどさすがに一緒に住んでしまったら意味合いが変わってくる。
我慢にも限界というのはあるのだ。
「そうですか。ざんねんです」
少ししょんぼりしたように肩を落とす藤音さん。
「だったら、明日からお弁当作っていきますよ。学校で一緒に食べませんか?」
「いいの!?」
「はい。お弁当くらいならそう手間もかかりませんし。」
「ありがと! 明日から楽しみにしてるわ」
満面の笑みを浮かべる藤音さんの表情を僕しか知らないと思うと少し優越感がある。
「はい。楽しみにしといてください。じゃあ学校に行きますか」
「はい。そうしましょう」
2人して学校に向かって歩み始める。
そういえば、家では少し子供っぽい印象を受ける藤音さんだが、学校での姿は猫をかぶっているのだろうか?
ふと、そんな疑問が頭をよぎるがそれを聞くのはなんだか気が引けた。
「そういえば、藤音さんってずっと敬語なんですか?」
「そういう天乃君も敬語だと思いますけど」
「僕は後輩なので。それに付き合い始めたんですから敬語の必要はないですよ?」
「じゃあ、どっちも敬語をやめましょう。あと、呼び方も名前で呼び合いましょう」
いきなりの提案だったけど、言っていることは的を得ている。
確かに付き合っているのに苗字呼びというのはおかしい。
「わかった紫苑」
「なんか、恥かしいね」
「言わないでよ。ほら、紫苑も名前で呼んでよ」
「……海星」
呼ばれるほうもなんだか恥ずかしい。
この後、登校中しばらくの間気まずい空気が流れた。