諦めの悪い幼馴染と同棲の許可
「なんでお前がここにいるんだよ」
家に帰った、というより家の前にそいつは立っていた。
ストーカーかよ全く。
「別にいいでしょ。それよりもなんでこんなに帰ってくるのが遅いの? 海星は部活とかやってなかったよね?」
「そうだけど、それが何だよ。別にお前には関係がないだろう?」
「そんなことないよ! 私達恋人でしょ!?」
「何言ってんだよ。捨てたのはお前だろ? 僕はそれに従っただけだ。お前から関係の終わりを告げたんだからお前がそれにごちゃごちゃ言うなよ」
「なんでそんなに酷いこと言うの!? 私達恋人でしょ!」
「僕に酷いことを言ったのはお前のほうだろ? 先に別れを告げたのはお前のほうだろ。出来心か何だか知らないけど僕はもう君と関わりたくない」
「そんな……」
「じゃあ、そういう事だから。毎回家の前にいるとかやめてくれよ? 僕はもうお前の顔なんて見たくもないからさ」
「ちょっとま……」
茜がなにかを言いかけていたが無視して僕は家に帰る。
結構遅い時間になってしまったけど、夕飯はまだのようだ。
「ただいま」
「おかえりなさい。玄関のほうで何か聞こえたけど何かあったの?」
「いいや? ちょっと絡まれてただけ。気にすることでもないよ」
「そう? ならいいけど」
「それより。今日の夕飯は?」
「もうできてるわよ。あとは温めるだけだけどどうする?」
「じゃあ、食べるよ。あっためてくれる?」
「はい。わかったわ」
母さんが夕飯を温めてくれているうちに僕は自分の部屋に戻って着替えをする。
茜のせいで変な疲労感があったけどそんなことは気にせずにリビングに戻り母さんが温めてくれた夕飯を食べる。
今日もおいしい。
そういえば、僕が家事をやり始めたのは茜がいたからだったか。
夕飯を食べながら僕は過去の記憶を呼び起こしていた。
彼女は昔から家事が得意ではなく、その上彼女の両親は仕事が忙しいため彼女の身の回りの世話をする暇があまりなかった。
だから、僕が家事を頑張って彼女を助けようとしたのだ。
「まあ、意味がなかったみたいだけど」
最初のほうは僕が作る料理をおいしいといってたくさん食べてくれていたし、洗濯や掃除をすると満面の笑みでお礼を言ってくれていた。
でも、最近はそれが当たり前になって感謝されなくなっていた。
「もしかしたら、紫苑もそうなっちゃうのかな?」
そうだとしたら少し悲しい。
そんなことないとわかっていてもどうしても不安になってしまう。
「考えても仕方ないか」
僕は胸をよぎる不安をかき消して夕飯をすべて食べきった。
「母さん。少し話があるんだけどいいかな?」
「いいけど、どうしたの?そんなに改まって」
「同棲したいんだけどいいかな?」
「えっ!? 誰と?」
「新しくできた彼女」
「あれ、本当だったのね」
「まあね。で、いいかな」
「まあ、相手が良いって言っているなら私としては別にいいわよ。ただし間違いは起こしちゃだめよ!」
「わかってるし、そんな不誠実なことをする気はないから」
そもそも、そういった行為は未成年であるうちはしないほうがいい。
しっかりと責任をとれる年齢になってからするべきだと僕は思う。
「ならいいわよ。いつから行くの?」
「まだ決まってない。相手のご両親の許可がもらえればすぐにでも」
「わかったわ。まさか、あなたが女の子と同棲したいなんて言い出すとは思わなかったわ」
「だろうね。僕もこんなことを言うことになるなんて思ってなかったから」
「まあ、気を付けなさいな。うまくいったら今度その彼女さんを紹介してね」
「もちろん。話はこれだけ。僕は部屋に戻るから」
「はい。じゃあね~」
手を振る母さんを横目に僕は自分の部屋に戻った。
あとは特にすることもなかったので風呂に入って寝た。




