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「船長、何があったんだ?」

 船長室を訪れたシルバーは、茫然と立っているカニンガムに声をかけた。脂汗を浮かべ、小刻みに震えている。左手を口に手をやって、拭うような仕草をして、船内スーツの襟もとに手を掛けて、暑いとでもいうように指で広げた。

「カニンガム! どうした!?」

 怒鳴るようにシルバーに言われて、漸く入って来たことに気が付いたのか、シルバーを見た。シルバーは一歩進むと、テーブルの下に倒れている人影が目に入った。

「シュミット!」

 シルバーが屈んで様子を窺う。息は有った。

「医療ポッドに運ばないと。何故こんなことに?」

「積み荷の品目リストを照合したいとか、言い出したんだ。何か感づいたのか、お前の仕事じゃないと言ったのに、しつこいからだ」

 蔑むような顔で倒れているシュミットを見下ろす。右手にスタンガンが握られている。

「だからと言って撃つことはないだろう」

「積荷を調べられたら事だぞ! こいつなら、連邦支局に連絡しかねん」

「その前に外圏の地方政庁で封殺するだろう。治外法権てやつだ」

「それで済んでも私はどうなる。船長を解任されるかもしれん。ここより外の航路なんぞには死んでも行きたくないぞ!」

 カニンガムの気にするところは結局それだった。

「元々はあんたが持ち掛けた仕事だ。あんたにだって責任はあるんだからな」

「それは言われるまでもないが。シュミットを撃って、どう言い逃れるつもりだったんだ? 余計に面倒なことになるだけだぞ」

 シルバーはシュミットの身体を調べたが、命に関わることはなさそうだった。

「ミゲルはどうした?」

「船内点検だ。ミゲルにはそいつを見せないでくれ。体調を崩したとかでも言えばいい。ヘレンは大丈夫なんだろうな? 後は、そうだ、あの女、救助した女のしでかしたことにすればいい!」

 妙案が浮かんだとばかりにカニンガムが声を上げる。

「馬鹿な事を言っていないで、それを寄越せ。お前が持っていてもろくなことにならん」

「お前だと、私を何だと思っている!」

 カニンガムはスタンガンをシルバーに向けた。普段柔和な顔をしてはいるが、一旦切れると豹変する悪い癖が出ていた。辺境送りの原因もこういうところにあるのだろう。シルバーはうんざりしてきた。

「いいから寄越せ。カニンガム」

 憤怒の顔をしたカインガムは答えずスタンガンを突き付けた。シルバーは、それより早く動くと、スタンガンを持った手を捻り上げ足を払って床に叩きつけた。一言うめき声を上げるとカニンガムは動かなくなった。

 前船長の後任だけに、後釜に据えようとしたが。無理があったか。

「ポッド送りが二人か。まったく、世話を焼かせる」


 医務室でジュンはオラトスケイラα号から運ばれて来た医療ポッドの下部からケースを取り外していた。中にはテーザー銃と電磁銃、カード状の電子キー、ゴーグルが入っていた。ゴーグルを着けたジュンは、船内のデータ映像を表示して実際と照らし合わせた。小さな備品以外はデータ通りだった。

 医務室を出ると、船首の方を見た。ヘレンは部屋から出て行ってブリッジに向かったところを確認していた。船長やシュミット、シルバーはこちらへ来てはいない。ミゲルはまた後方の格納庫へ入って行ったところだった。

 ジュンは足音を立てずに走ると船首に向かった。駆け上がって、食堂を通り過ぎてメインシステムのある部屋の前で立ち止まった。スーツのポケットから電子キーを取り出して差し込む。暫く間があったが、スーっと横に開いた。中に入り込む。ゴーグルをケーブルでコンソールに接続する。連邦航路局所有のシステムの管理者アカウントで船内の状況を調べた。医務室から出てこちらに向かう自分の映像はまだチェックされていなかった。それを消すと、後方の監視カメラもオフにして、ブリッジには通報しないように設定する。乗船している人員の居場所を確認すると、ブリッジ近くの船長室に三人、格納庫に一人。航路を変更するなど、航法関連はブリッジへ行かなければ操作出来ない。今はブリッジへ向かうのは危険だった。

 ジュンはそれは後回しにすることにして、戻って、今度は格納庫へ向かった。手にテーザー銃を持ち、腰には電磁銃。最初の格納庫にはミゲルは居なかった。もう一つの格納庫へのドアは電子キーで開けて侵入した。

 中は暗く、赤い非常灯が灯っているだけだったが、ゴーグルを嵌めたジュンには明るく見えた。前の格納庫と変わったところもなさそうだった。さらに奥に進む。次の格納庫へ入ると、格納庫の中ほどにあるコンテナ付近で明かりが灯っていた。近づいてみると、コンテナにトーチが取り付けられていて、扉が開いている。そっと、扉に近づく。中を見ると、こちらに背を向けた人物が何かのケースの中身を見ていた。


「輸送品の覗き見とはあまりいい趣味じゃないわね」

 ジュンの声にミゲルは驚いて振り返ろうとし、尻餅をついた。ジュンの口に笑みが広がる。

「な、なんだ、お前」

 ジュンはミゲルにテーザー銃を突きつけながら、ミゲルの覗いていたケースを見る。

「ここにもセクサロイドか」

 裸の女のようにしか見えない、アンドロイドが横たわっていた。そういったケースがいくつも並んでいる。ケースの表記から性別や年齢は様々らしい。

「あなた、SDロックしていないわね」

「な、なんで……」

 連邦航行法で宇宙船の乗員は、航行中、脳内の一部の欲求を抑える措置をとることが義務付けられていた。地球の一部地域で始まった慣習が、ある時から宇宙船や人口天体の閉鎖された空間内で長時間過ごす人々の常識として取り入れられていった。名目的には、トラブル(主に男女間の)を低減することとされていた。

「見習だからと言って知らない訳じゃないでしょう?」

「お、女は乗船しないはずだったんだ。SDロックは面倒で……」

 ミゲルは顔に近づけられた銃口から後ずさってケースに体をぶつけた。

「面倒で済むのね。誰もチェックしていない訳か」

 民間の貨物船とはいえ、認可を受けて航行するには様々な検査があるはずだったが、辺境ではそれもおざなりになっているようだ。

「この荷物は、正規ルートから外れた違法な品なんだけど、知ってた?」

「お、俺は、点検中にロックエラーがあったコンテナがあったんでチェックしていて見つけただけだ。なんでこんなものがあるかは知らない」

 ミゲルの言うことに嘘はなさそうだった。

「船長には知らせてないのね。他のコンテナは調べたの?」

「いや、開いていたは、これだけだ」

「そう。それは良かったわ」

 笑顔でジュンは引き金を引いた。パシュッという小さな音がして、ミゲルは頽れた。ジュンはミゲルを運び出して、コンテナの扉を閉めるとトーチを消した。コンテナにつけられた記号から、近くにあるものは中身は同じもののようだった。

 奥に向かうと、違う記号のコンテナがあった。電子キーでコンテナを開ける。中は蜂の巣のような小さな収納庫がいっぱいあり、個別に電子ロックされていた。その一つとゴーグルを繋いでロックを解除した。六角形のケースが前に迫り出す。中には、アンプルが詰まっている。連邦軍事研究所で作られたことを示すラベルが張られていた。ジュンはそれを記録して、ケースを元に戻した。


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スパイか、警察の類か…… 胡散臭いと思った俺の勘は当たっていたようだ笑 なう(2025/06/13 01:47:02)
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