第六話
「ぐ……合格だ……ここを通られよ……」
「見事だ……相変わらず……だな……」
将軍に会う為には、近衛兵二人に力を認めさせなければならないとか……絶対、騎士団より脳筋でしょ、こんなの。
「お互いに精進していきましょう」
闘技場を模した部屋でぶっ倒れている近衛兵にかける言葉としては、微笑みながらこれしかないわよね。変に見下しても遺恨が残る上に、あの人以外を見下しても興奮なんて出来ないし。
「おう!」
「次会う時を、楽しみにしてるぞ!」
力を認めさせることが出来れば、一定期間は素通りできるけど、そもそも騎士団がここにくること自体が稀なせいで、結局毎回これやるはめになるのよね。
あぁ、面倒くさい。一刻も早く、事務室にこもってあの人を小刻み震わせて、快感を得たいなぁ。
そんなことを思いながら、私は将軍の部屋に通じる扉を開くのだった。
「ん? もう戻ってきたのか? この部屋を出ていってから、そんなに時間経ってないはずだが」
「将軍の予定も決まっているから、それに合わせて近衛兵をぶっ飛ばすだけのお仕事だもの」
「いやいや、それが大変なんだけどな……そして、何故席につかずに俺を見下してくるんだよ」
あぁ! その目よ! 表情も口調も何とも感じていない無表情を貫きつつ、その瞳は僅かに泳ぎ、凝視しないと分からないほどだけれども、うっすら潤むのよ! それがもう、こっちの嗜虐心を煽ってぇえええ!!! あぁああああ!!!!
「たかだか将軍への根回しに、私を顎でつかうとか貸しひとつと言って過言ではないわよね」
「間違いなく過言だろ。お前も、事務局長なんだからな?」
「私は、騎士団の部隊長兼務なのだから、貴方が実質の事務局長じゃない」
「俺も、大臣付き秘書官を兼務してるだろうが。いづれにせよ、脳筋関連はお前の担当なんだから、文句言わずにやるんだな」
あぁ……とても生意気で可愛い睨みかたを矯正したい。でも、我慢するのよラフラ。この人に、私の嗜好がバレてはいけない。
可愛い幼馴染ハーフエルフとして、やっと貴方と結婚出来たというのに、徐々に我慢ができなくなって、結婚生活はこの人を意地悪して楽しんでしまった。
そして仕事が忙しくなりすぎた貴方に逢えなくて、寂しさとか色々と悶々が溜まりに溜まってしまい限界を超えて、これまでで一番の見下し目線で離婚を切り出してしまったの。
だって、貴方が泣きついてくると思っちゃったんだもん! そしたら、普通に了承されちゃって……もう、そんな失敗しないんだから!
「それで、そっちの方は何とかなりそうなの?」
自然に無視して、話題を変えましょう。でないと、挑発に乗ってどこまでもいきそうだから。
「言葉に関しては、これまでからの資料からも問題ないが、厄介なのは文字だな。現存する資料の中では、文字の読み書きを出来た勇者はいなかった」
「それは、教養がないということではなく、異世界から来るからということよね」
「そうだな。だが、この件の扱いについては、意見が大臣辺りで割れていてな」
私は、貴方の綺麗にふたつに割れているお尻を叩きたい。そして、泣きべそ顔の貴方を見下したい。
「下手に文字を覚えられても、面倒なことになると思ってるの?」
「ま、そういう事だな。言葉で意思疎通が取れるのであれば、わざわざこちらの情報を教えるような真似はする必要がないという意見がある」
「文字を覚えてもらえないと、魔法の詠唱やら教える側が困ってしまうのだけれど、それはわかっているのかしら」
「うちのおっさんはその辺は理解しているから、結局は文字も学んでもらうことになるだろう。何より、現場を任される騎士団と軍からお叱りを受けそうなことを、自らやろうとするとは思えんな」
私は今から、意味も無く貴方を叱りたいわ。クゥンクゥンと可愛く且つ潤んだ瞳を見せる程度に叱りたいわ。
「貴方は、どういう意見なの?」
「正直、遅かれ早かれ、この世界で生きていくのに文字の理解は必要な事だ。だったら、早めに学習させてやり、少しでもこの国の心象をあげる方が良いとは思うがな。異世界から来た勇者が聡い者であれば、文字を敢えて学習させないとなれば、禍根を残すことになる」
「文字を学習させたくない派は、それを分かってても主張しているのよね?」
「勇者が召喚国を乱してきたことは、少し調べれば分かることだからな。彼らも、どうにかして優位性を保つ算段を考えているんだろう」
優位性……頭を踏めば、優位性を取っていることになるわよね? 何かどさくさに紛れて、偶然を装い実現出来ないかしら。
「異世界からの来訪者による変化は、必ず起きる。如何にその変化に自分達が適用するかを考えねばならないんだよ。魔王の存在は世界の危機だが、勇者の存在は国家の危機となるということさ」
「そうね」
あぁ……得意顔を私に向けてくる貴方の表情を、全力で怯えさせたくて、一向に話の内容が入ってこないわね。
でも大丈夫よね。つまるところ、私の役割なんて大体が、殴る蹴る斬るぐらいのものだから。