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第三話

 いつからか忘れてしまったけれど、大切な彼との思い出を忘れないように、心に想いを綴る日記をつけている。


「よ、よし……お化粧も自然に、身体もしっかり仕上がってる。どどどどこを出しても、恥ずかしくないはず」


 落ち着くのよ、ラフラ。はたからは二十歳そこそこの小娘に見えるでしょうが、私の実年齢は三十五歳なのよ。もう、立派な淑女なのですから! 実際は、ハーフエルフの影響で、精神年齢の成長もゆっくりなのよなんて、母様に言われてるけど、今は気にしないの!


 今日は、離婚してから五年ぶりに会うことになるのだから! 


「本当に……なんで、あんなこと言っちゃったんだろ……」


 だって……だってさ! あの人が、仕事ばっかりで忙しくて、私のこと全然構ってくれないから、思わず言ってしまった〝離婚〟の言葉。


 それにしても、それからと言うもの私に会いにも来ないって、どう言うことよ! 


「五年よ……五年……」


 寂しすぎて、遂に私から一緒に仕事が出来るように、押しかけちゃったわよ! 異世界召喚をうちの国がするって、騎士団長から聞いてすぐに、結婚の前からお世話になっているオーザッパ様に気づいたら、直接よ!


 普通なら懲罰ものの失態だけれども、私の気持ちを察してくれる大臣、流石よね!


 ねぇ、まだなの! まだ私呼ばれないの! 早く、私を貴方に見せたいの!


「入ってきなさい」


 きたぁあああああ! 待て待て私、深呼吸よ。あくまで、冷静に、そして仕事として割り切るのよ。自分から別れといて、離れている間に、もっと好きになっちゃって、全ての手段を用いて、ここに来てるのとかバレたら、流石に引かれるものね!


「はい。失礼いたします!」


 あくまで、任務として来たのよ。オーザッパ様だって、ほら、私に優しく微笑んでくれてるわ。バレたらどうするのよ、しっかり仕事しなさいよ、おっさん。


「本日付で、異世界召喚勇者による魔王討伐作戦統轄官補佐兼騎士団三番隊部隊長を命じられ、クラウト殿と共に世界を救う使命を全ういたします!」



 貴方と共に! 共に! ここが大事なの! むしろ、ここしか大事じゃないの!


「うむ。クラウトと共に、先ずはこの一年という短い期間で、異世界から勇者を招く準備をして欲しい。早速だが……」


 あぁ! クラウトと同じ部屋で同じ空気を、私は五年ぶりに吸っているのね! この興奮を抑えるのに必死で、おっさんの話とか耳に入ってこないわ! ましてや、仕事の話なんて、それどころじゃないし、きっとクラウトが聞いててくれるから問題なし!


 見るわよ、いよいよ見るわよ。横にいるものね、横目で見てもいいわよね! 


「……」


 あぁ! 私のことを、おっさんから聞いていなかったのね! 完全に呆けているじゃない! この感じのクラウトなら、何やってもきっと覚えてないから、色々したい! けども、本気でおっさんが邪魔ね。


 抑えるのよ、私! 自分の欲を全力で抑えるの! 大丈夫よ! こんな状態でも、この人は仕事のことは、聞き逃さないもの! 私のことは、記憶から飛んだとしても……あ、ダメ。ちょっと泣きそう……


「と言うわけで、しっかり頼んだぞ」


「承知いたしました!」


 何が〝と言うわけ〟か分かんないけど、全く問題ないわね。でも、今日は五年ぶりに会えたのだから、全く仕事の話が耳に入ってこなくても、仕方ないじゃない? これから徐々に、この人と慣れていけば良いのよ。


 と言うことで、一旦この場の顔合わせは終わり、名残惜しくも部屋を後にした私だったけれど、この後の出来事に、正直気絶しそうだったわ。


 だってね、だってね! 同じ馬車での移動だったのぉおお!!!! 


 どうやら、あのおっさんが気を利かせてくれたみたいね。さすが大臣! えらいわ大臣!


 でも、ここではしゃいでしまっては行けない。二人きりの狭い空間で、私が暴走したら……焦っちゃダメよ、ラフラ。この人が、もう一度私に惚れるように、ちゃんとしなくちゃ!


 あぁ……でも、全部を我慢するなんて、到底無理なのは分かってる。それに、全部我慢なんてしたくもないのだから!


 ほんの少しだけなの、少しだけなのだけれど、貴方に冷たい態度をとらせて。


 貴方は仕事が、他の誰よりもできる男。それなのにも関わらず、私といる時は、少し抜けているような、それでいて少しおバカっぽくなるの。


 そんな貴方に、私は意地悪な態度をしちゃうの。いいえ、したいの! 弱っているところを見たいの! 私の睨みに怯んで、目が少し泳ぐところが見たいのよ!


 本当は、もっともっといじめたいのだけれど、そんなことで私が興奮していると知られてしまったら、取り返しのつかない事になるなんて分かってる。


 だから、ゴミを見るかのような目で見るだけで、我慢しているのよ?


 本当なら、騎士団に入ってもらって、私が直属の上司になって、訓練でそれはもう……ダメダメ。これ以上の妄想は、危険だわ。


 あぁ! そんなつまらなさそうな顔をしないで! 反応するまで、いじめたくなるじゃない! 


 ……私、国に帰ったら、この人の生活臭が蔓延する部屋で、一緒に仕事するのよね……


 今まで以上に、魔物を狩って発散しないと、耐えられる気がしないわね……


 え、嘘でしょ? 寝るの? この空間で? 私と貴方しかいないのに? そんな無防備に? 何してもいいって事? 


「くっ……いっそ殺して……」


 知っているもの、最初は寝たふりなんでしょ。でも、貴方は寝たふりすると、割とすぐに本当に寝ちゃうんだから。


 だから、だから……あぁあああ! 歯を食いしばれ私ぃいい! 今日は、まだ初日なのだからぁあああ! 襲っちゃだめなんだからぁああ!




 次の日の馬車移動は一緒ではなかったけれど、その馬車の護衛だったから、近くにいるのに会えないとか、それはそれで興奮したから楽しかったわね。

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