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第十七話

「本当に、彼が危惧していた通りになったわね……どうするの、これ」


 私は、目の前の光景に対して、呆れていた。


「女神の使徒は四人で、他は完全なる巻き込まれ……と言うか、聖女の話だと他は〝女神の慈悲で生き残った一般人〟だなんて。彼、この人数を捌ききれるのかしら」


 あうあう言いながら彼が涙目で仕事に追われたとしても、私が泣かしたわけでもないから、全くそそらないのよね。むしろ程よく暇であれば、私が彼を事務局で愛でることが出来るのに。


 勇者が召喚されることで、あの人と一緒の部屋で過ごせるようになったのは嬉しいけども、そのせいで今度は忙殺されて、結果としてあの人と過ごす時間が減ったら、やってらんないわ。


「……減らしたいわね……」


「え?」


 あ、ベストラが隣に並んでいたのを忘れていたわね。全く、騎士団だけで召喚儀式の護衛は十分だと言うのに、くだらない面子の為に軍からはベストラ大佐を配置させるとはね。


「召喚者が多過ぎるから、減らしたいと言ったのよ」


「言ったのよ、ではない。そんな事を護衛の任を任せられている騎士団が、この場で口にするべきではないだろう」


「どうせ、この混乱している状況では、誰も私の呟きなんて聞いてやしないわ」


「さっそく軍の人間()に聞かれているではないか、全く……ただ不謹慎だが、その気持ちは分からんではないがな。この有り様では」


 そう、軍側の責任者として召喚の儀式に立ち会っているベストラが、苛ついているのは私と同じ理由でしょうね。


「「いち早く(クラウト殿)に、私が伝えにいかないと」」


「「あぁ?」」


 やっぱりだわ、この脳筋女ぁああああ!!! 彼の震える瞳は、私だけのものなのにぃいいい!!!


「異世界召喚の儀式にて現れた三十三名のうち、女神の使徒としてこの世界を救う者として召喚されたのは、四名のみ。他の二十九名は、一般人が巻き込まれただけの模様。それが判明したのは、召喚直後に聖女への女神からの神託及び、召喚者全員がこの世界に召喚される際に、直接女神からその事を告げれたとの報告があったからであり、双方の言葉がその事を事実だと証明した。と、こんな具合に報告作業は、軍の最も得意とする任務だ。クラウト殿への報告は、私が行くと言うことで良いな」


「良いわけないでしょうが。何いきない長台詞を喋り出したかと思えば、貴方は部下を使って、一先ずこの場を収めなさいよ。ほら、召喚された雑魚達が文句言って悪態つきはじめたわよ。さっさと鎮圧してきなさいよ、力づくってのがそっち()の売りでしょうに。報告は、(クラウト)と同じ事務局員であり、同じ部屋に四六時中いることの出来る私がするわよ」


「元嫁風情が、未練たらたらとくっついてんじゃねぇよ」

「よしよしされたいだけの、欲しがり女が盛ってるんじゃないわよ」


「ようし、戦争だ」

「分かったわ、決闘よ」


 騎士団と軍の現場責任者なんて、居てもいなくても一緒でしょ。


 さぁ、こいつをきっちり仕留めなくちゃね。




「で、何がどうして軍の大佐と君が、召喚の儀式の場を部下に任せて、二人で本気で戦闘訓練してるんだよ」


「アレは本気、訓練なんかじゃないわ」


「そこを問いただしてるわけじゃないからな?」


 あ、割と本気で呆れてる感じじゃない? ちょっと待って、待って待って待って!? 私は貴方を苛めてふるふると震える姿を見たいのであって、そんな目を向けられたら、私泣くわよ? 泣いちゃうんだから!


「この世界の強者の存在を、分かりやすく召喚者達に伝えるためだとは言え、あそこまで本気でやり合う必要もなかっただろうが。女神の使徒の四人も含めて、全員が必要以上に分からせられて、震えていたそうじゃないか」


 ん?


「……初めが肝心だもの。自分達が特別だと思わないように、ガツンとやっておくことが、大事よ。この方法は、騎士団が調子に乗って入ってきた田舎の力自慢をあやすのに使っている慣れた方法だし、それは軍でも大差ないわ」


 これはもしかしたら、彼の評価が下がるのを防げるのでは!? ここからの一挙手一投足に、集中するのよ私ぃいい!!!


「ましてや、予想外の大人数の召喚者を取りまとめるには、いち早くこちらの〝強さ〟を示すことが何より大事だわ。私と本気で手合わせ出来る者が居たのだから、二人で(・・・)で打ち合わせを急遽行い、その目的を達成したのよ」


「確かに迅速な対処は、方法はさておき、実際助かったよ。これまでの伝承から、多くても召喚される人数は、多くても三人から四人として準備していたからな。現場での困惑が、この報告書からも見てとれる」


 今日の私は、はっきり言って運が高まっている日のようね。ベストラとの完全なる私闘が、結果的には手柄を立てたことになっているのだから。


 彼から〝助かったよ〟は、苛めて興奮するのとは、また別の幸福感があるわね。


 ただ……


「助かった……よ?」


「ん?」


「随分と、上から目線で言ってくれるわね。事務局長だからと言って、調子になりすぎじゃないから?」


「……いやいや、仰け反ってまで俺を見下す君こそ、あ、うん、よっぽど上から目線なのだけれど?」


 良いのよ、私は。だって、こうやって見下すと貴方の瞳が潤むのを知っているもの。


 あぁ、勇者なんて全部任せて、この部屋で彼を邪魔されずに、仲良く(・・・)したいわね。


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